緊急会議再び
どんぐりファイアで溜飲が下がった私は翌日、終始機嫌よく過ごした。
庭は壊滅、フレスベルグはちょっと焦げたけど誰も怪我してないし、問題ない。
ミシュティ謹製タマゴサンドを食べながら、緊急会議(二回目)の時間までダラダラ過ごす。
剥かれたプルナを齧りながら、どうでも良いことを考える……
(プルナはリンゴだし、ピーネはレモン……でも桃はモモだしレタスはレタス……)
地球の単語が混在してるのって不思議よね。
過去の転生者か転移者が、発見もしくは持ち込んで広めたものなんだろうけど…………
勿論、違う世界の単語も定着してるし地球だけじゃないんだけどね。
「勇者ヨッシーオの影響も侮れないわ」
私の独り言に、ミシュティが反応した。
「ヨッシーオですか?」
「うん、ヨッシーオが広めた言葉を考えてて──」
「ああ、ポテトフライとかナンバンヅケですかね」
「そうそう、そういうのね」
文化って面白いわ。
南蛮漬け食べたくなってきた。
「夕食は南蛮漬けがいい」
ミシュティは食料BOXを確認して頷いた。
「青魚なら在庫がありますから、作れます。野菜多めでお作りしますね」
夕食メニューが決まったあたりで良い時間になったので、カルミラ城へ転移。
しばらく待って、会議が開始された。
「アライン氏はまだ調査中。まだ二日目だけど、調査班二人が行方不明」
カルミラが嫌そうな顔で進捗を報告した。
「本人と関わらずに調べられたのは──魔術塔での専門分野と、ローランでの身分くらい」
「へぇ、専門分野って?」
レスターが興味津々で、尋ねるとカルミラは一枚の紙を眺めながら答えた。
「旧ローラン王家お抱え魔術師、終戦後に魔術搭所属。専門は……遺伝子魔導学と人造生命体ね」
「研究畑か医療魔術特化かな」
「なら、そこまで脅威じゃない?」
(……逆に対策が取りにくいタイプじゃない?ヒトの壊し方は医者が一番よく知ってるのに──)
まあ、今回はノータッチだから黙っておこう。
もうちょい情報出てこないと、判断しようもないもの。
「魔界にも何人かエルフいるでしょ、知り合いいないかしら」
ずっと無言だったネモが、フルプレートをガシャっと鳴らしてワイングラスを手に取って声をあげた。
「数人心当たりがあるゆえ、声をかけてみよう」
「早急に手を打つべきよね」
「うむ」
──そうねえ、遺伝子人造生命体。
間違いなくキメラとかホムンクルス作ってるよねぇ。
単なる魔術師だったら良かったのだけれど。
良くも悪くもエルフって、興味のある分野に偏執的な執着があるから……
勇者パーティの参加報酬が何か?
そこが分岐点な気もする。
(おそらく金には興味がない……多分、聖女が夢魔だってのも看破してるはず)
可能性が高いのは勇者とハナの細胞サンプルと、観察かな。
「そう言えば」
フレスベルグがブツブツ言い出した。
「誰だよ、うちに放火したの」
「まあ、フレちゃんの家が火事に?」
「いや、家は燃えてないんだけど──」
「どういうこと?」
専用プールから、セレナが首をかしげた。
「一昨日庭にどんぐり積まれてて、そのうち片付けようと思ってたら昨日燃えててさぁ」
「放火なの?」
「見てないけどさぁ」
カルミラ厳しい顔になり、フレスベルグを叱り始めた。
「フレちゃん。火事で困ったのはわかるけど──証拠もないのに誰かがやったって言っちゃうのはダメよ?」
……私だけどね?
「ちゃんと証拠がないのに不用意な発言はいけないわ」
「お、おう……」
怒られてる、ざまぁ。
勿論私はなにも言わない。
フレスベルグはカルミラに叱られながらも、なお諦めきれない様子でまくし立てる。
「ち、ちがうんだって!ただの火じゃないんだ!あれはこう……どんぐりがバンバン弾け飛んでさ!俺は真ん中で散弾浴びて、黒焦げのコケットみたいに転がって──」
「……フレちゃん」
カルミラの冷たい視線が、フレスベルグに突き刺さる。
「ホントなんだって!水かけたら大爆発して!空が赤やオレンジでさ!まるで花火大会──」
「だから証拠は?」
「証拠……証拠は……俺の焦げた服と!庭一面のどんぐり片が──」
彼は必死に身振り手振りで爆発を再現しようとするが、誰も信じてくれない。
「大爆発って、どんぐりが?」
「まあ、多少爆ぜるのは知ってるが……」
「大爆発ってねぇ」
私は思わず口元を押さえ、笑いを堪えるのに必死だった。
「本当なんだよー!庭にクレーター出来てるんだぞ?それに謎の豪雨で洪水になりかけた」
(──良い花火だったわ)
「あー、だからァ、髪の毛焦げてるのォ?」
ティティ呑気な声を聞いて、私は資料を落としたふりをして床に屈んでテーブルの下に潜り込んだ。
だって笑いが止まらないんだもの。
「それはそうと、アラインをどうするかよ」
「調査は進めるとして、本人に接触するか否か──」
「下手うったらァ、イベントだって人間にバレるリスクもあるよねェ?」
予測不能なのがエルフの嫌なところよ。
私が言うのもなんだけれど。