勇者パーティにエルフが!
《勇者パーティの魔法使いが確定したそうです》
《アルシア王国の募集要項は国内限定でしたね。前回のイベント対象国は世界中から募集してましたけど》
《その国によりけりで面白いですよねぇ》
テレビでは勇者パーティの再構成の話で持ちきりみたい。
《今回再選定されたのはアラインさんですね》
《え、エルフですよね、彼──》
《エルフがやると言った以上……》
《あ、はい。断る選択肢は皆無ですよね》
「アライン…………知らない名前」
エルフは絶対数が少なめだけど、あんまり社交的じゃないから知り合い多いわけじゃないのよね。
だけどエルフ参入となると、フレスベルグの命が真剣に危ないな。
──エルフなら、条件次第では懐柔出来そうだけど。
義理より実利だからね。
《アライン氏はアルシア王国の魔術研究所の課長だったらしいですけど》
《これを機に退職されたらしいですね。あ、魔術研究所は正式にはアルシア王立第一魔術研究塔という名称らしいです》
《え、じゃあ第二もあったり?》
《いえ、無いですね》
私は第五王子殿下の言葉を思い出した。
確か知り合いに魔術研究所にいるエルフがいるって言ってたような?
そんなにエルフがゴロゴロしてるとは思えないし、多分そのエルフで間違いなさそう。
確か北のローラン出身とか言ってたと思うのよね。
アルシアが八百年くらいの歴史があって、ローランも同じくらいだったと聞いたから──初期からローランにいた可能性がある。
アラインは終戦後にアルシア王都に招聘されているはず……私の記憶が確かなら。
(どちらにしても、エルフが相手となると特別対策が必要になりそう)
どれくらいの脅威度かは何歳か、にもよるし性格にもよるから──まずはバックボーンの情報が必要だけど。
多分魔王組合が手配するでしょ。
(もう個人で首突っ込むのはやりたくないのよね。なんだかそのせいで忙しくなっちゃうわけだし)
忙しいのは時には刺激になって楽しいものだけど──短気なら、である。
のんびりマイペースが一番いい。
「さて、ポチ温泉のチェックでもしておくか」
バルフィに任せっきりで、しばらく見ていないから……見ておくか。
転移で温泉横に着くと、バルフィがしゃがみこんで何かごそごそしている。
龍卵は密集しているわけではなく、五十センチ以上周囲と離して埋まっている。
(卵埋めのルールなのかしらね?)
赤、緑、黄色の旗が……それぞれ卵のすぐ横の地面に刺さっている。
近寄ってみると、てっぺんに日付が記入されている。
ぐるっと回って全部見てみたけれど、赤と黄色の旗がある卵には『孵化予定日』が書かれているっぽい。
赤の方が早く、黄色はその一ヶ月後の月になっている。
緑の旗は産卵日と孵化予定日。
(緑はバルフィが来てから、埋められたものってことね)
全部に番号がふられ、ぴったり百個あるみたい。
最終日付が三十日前なので、一ヶ月前からちゃんとお断りしているようだ。
私はバルフィの邪魔をしないよう、そっと離れてミシュティの畑に足を向けた。
「…………」
(見なかったことにしよう)
ミシュティの家庭菜園?という名の畑は、得体の知れない植物ばかりだった。
マンドラゴラは、まあわかる。
土から抜け出てうろうろしているのはいただけないが……
「ああ、だから魔条網で畑を囲んであるのね」
思わず独り言が漏れる。
この魔条網、改良されているらしく触ると……熱線がスパークする仕様っぽい。
凶悪過ぎる柵になってる……
だからマンドラゴラが脱走してないのね。
どす黒い紫の葉にピンクの斑点のある大きな葉っぱとか、植物自体はほおずきっぽいけど、実が人っぽい顔の形状で笑い続けてる植物とか。
大きさも人間の頭くらいだし、ホラー過ぎる。
ゲラゲラと笑い続ける実。
(私は泣きたいわよ!いったい何に使うのか……)
屋敷に帰って、ミシュティに聞いてみると。
「今あの畑にあるのは、龍の離乳食に混ぜる『栄養』です。幼龍期に必要な、お薬になるものも育ててますけれど……必要ならお分けいたします」
「要らないわ!」
ミシュティは首をかしげ、微笑んだ。
「必要ならおっしゃってくださいね?闇の属性肥料がメインなので、癇癪起こしたちび龍の鎮静とか、龍熱のお薬になるものを作ってます」
「あの笑う鬼灯は」
「あ、あれですか?赤ちゃん龍の、おしゃぶりです」
うわぁ……アレ、おしゃぶり?
「あ、そうだミシュティ。バルフィは温泉付近にいることが多いの?」
「今はまだ卵が孵化してないので、メインは温泉──ひよこ島みたいですよ」
あらまあ。
「ここ掘れ組に行って、温泉付近の居心地良さそうなところに家を注文しておいてくれる?バルフィの希望も聞いて」
ミシュティは頷き、ハーブティーのおかわりを注いだ。
「あ、ミシュティの畑に使う物置も注文しておくと良いわ。それと闇素材ならさっきいっぱいもらったから、必要なら持っていきなさい」
そとに出て、ラウバッハ王から貰った素材を全部出した。
「まあ!これは怨嗟の結晶……素敵!あ、屍龍の肝干し……宵闇の呪実、断罪の木の樹皮……」
「……全部あげるわ」
私は素材に夢中なミシュティを放置し、室内に戻った。
ミシュティとバルフィ、方向は違うが──ちょっと性格は似てるのかもしれない。