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どんぐり選別♪


「んー」


 翌朝、私はひよこ島の作業場でひとしきり考え込んでいた。


 (はたして、全部室内に収まるか否か)


 ダメだろうな。

 私は首を横に振り、外の空き地に出た。

 とりあえず全部のどんぐりを放出。


 高さ1~1.5m、直径7mあるかどうか?の、小高いどんぐりの丘ができた。


「……………………」


 ちょっと、多い。


 どんぐり山のサイズ(直径7m・高さ1〜1.5m)の体積は概算で 19〜29m³。

 粒の隙間を含む充填率を55〜65%とすると、実粒体積は 10〜19m³。

 どんぐり1個の体積を5〜6cm³と置けば 約200〜300万個 だけど、魔方陣で3cm以下は除外してるから全て大きめどんぐりとした場合──重さは5g前後。


 (ざっくり予想すると──250万個、10t前後……くらい?)


「……………………やっぱりちょっと多い?」


 まずは殻付き、どんぐりと一致する殻のあるセットを選別──

 これは魔方陣で指定すれば出来る。


 (それでも2mくらいある……要らないどんぐりはフレスベルグの家の庭で燃やすか……)


 どんぐりは爆ぜるから面白いよね。

 フレスベルグの庭は広いし。

 

 さて、出すのは一個部門の一点勝負。


 形。左右対称(イベリコ的美的黄金比寄りが高評価と推測)

 帽子は縁欠けなしで、深さは実の1/3前後(婚姻どんぐり美意識に合致)

 

 ──かくなるうえは、イベリコの習性を狙い撃ちしたい。

 

 艶は自然光で鈍い皮膜光沢のもので、色は濃いめがいいかな。

 重量密度は水置換で重くて中身が充実してるのを選出……、もちろん傷ゼロで。


 ソフィーはどんぐり山に潜り込んでるけど、コンテストに参加するつもりなのだろうか?


 選別は三日かかった。

 一個部門に出すどんぐりをやっと決め、私は満足した。

 やけにキャラメリゼされたナッツの香り漂うどんぐりもあったので、香り部門に出してみようと思う。

 多分死霊の森のどんぐり。


 (縁起悪そうだけど、産地は問われないからいいよね)


 ソフィーは三つ子どんぐりを大事そうに浮かべて持ってきた。


 (ふむ……持ち運びは浮遊魔法で?いや、重力魔法の応用か…………)


 器用なものね、と褒めるとどことなく嬉しそうだった。


 バルフィが出品しに行くというので、私の二個とソフィーの三つ子どんぐりの手続きをお願いした。

 もちろんソフィーのどんぐりはソフィーの名前で出してもらう。


 出品どんぐりは、規定にしたがって殺虫目的の衛生魔法と二十四時間の陰干しをしてある。

 完璧である。


 残った大量のどんぐりは、フレスベルグの家の庭に積み上げておいた。

 きっと喜ぶだろう。

 不在だったので、どんぐりキャンプファイアはやめておいた。


 (うんうん、私は常識のあるエルフなのよ)


 空はすっかり濃い紫色だ。

 夜になれば紫紺になるだろう。

 私は冬の空が大好きなのだけれど、この紫の空はいつ見ても異世界感がある。

 年数で考えたら、こっちの世界で生きていた方が遥かに永いというのに。

 なのに、私はまだ『日本人』の感覚が残ってる気がする。


「三つ子の魂百まで、か」


 三歳(幼児期)までに出ている性格や気質が、その人の本質である──ということわざだけれど。


 (そもそも、私はこの世界に転生はしたけれど成人した姿だった……)


 そう考えると、育ったのはやはり日本なのだ。

 肉体はエルフでも、魂は違う世界で育ったもの。

 日本のことはたまたま覚えていただけで、その前は違う世界にいたかもしれない。

 証明しようのないことなので、考えても仕方ないのだけれど……。

 

 三歳のころ、私はどんな子供だったんだろうか?

 うーん、さすがに記憶にないけれど、両親や親戚からは『良い子』だったと聞いた覚えはある。

 要は手が掛からない、聞き分けの良い子供だったんだろう。

 私が子供時代を過ごした時期は、勉強さえ出来れば評価される時代だったしね。

 良い学校に行って、きちんと就職して結婚して子育て──親の老後のアシストと看取り。

 それが女性の生き方のスタンダード。

 男性はとにかく仕事、仕事。

 

 そういう時代だった。


 (まぁ、私は共働きだったからある程度好きにさせて貰ってたけども)


 ──こちらの世界も、教育以外は似たようなものかな。


 (いや……やっぱり異世界は異世界)


 地球のどこか、どの時代と似ているか?

 そう聞かれたら共通点はあれど、答えは否。

 考えてみたら当たり前の話なのだけれど、『人間、動植物』の括りの世界と『人間以外の知的生命体、魔法、魔物、魔法生命体に動植物』みたいに条件がまるっきり違う世界なのだもの。


「魔界とそれ以外でも全然違うし……」


 種族、個人の気質、育った環境。

 全く違うのは当たり前なのよね。


 (自分の物差しで判断していると、視野が狭くなるというのはどっちの世界にも当てはまりそうだけど)


 私はソフィーのために残した、小さなボウルいっぱいのどんぐりを眺めながら物思いに耽った。


「そもそもエルフ自体が想定外の種族だったからねぇ……」


 うん、異世界で快適に生きていこうと思ったら諦めることは大事だ。

 妥協というか、迎合?


 良いことわざがあるじゃない?


 『郷に入れば郷に従え』ってね。


 まあ、エルフはその郷にすら入れて貰えないんだけどね?

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― 新着の感想 ―
出品どんぐりに殺虫衛生魔法と陰干しをしたってことはフレスベルグの庭に置いてきたどんぐりの山は未殺虫……?? フレスベルグが早く帰宅しますように(笑)
>(それでも2mくらいある……要らないどんぐりはフレスベルグの家の庭で燃やすか……) イベリコぞく「それを もやすなんて とんでもない!」
常識のあるエルフ。そうかも・・・そうかな・・・?
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