表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/171

死霊ラッシュアワー



『死霊満つる円環の森』は本当に死霊で過密状態だった。

とりあえず、連絡が届いてるらしく死霊騎士団長らしき人(?)が敬礼をしてきた。


(戦闘にならなくて良かった。面倒事は本当に嫌だからね~)


「随分混みあってるわねぇ」


日本のラッシュアワーもかくや、である。


「もうずっとこんな感じでして……」


騎士団長ザックス氏は、不安げなか細い声で呟いた。


うん。

人員に対して、森が小さすぎる。


(まあいいわ、とりあえずどんぐりよ)


ザーッと収穫、はい終わり!

さて、死霊たちのこのかわいそうな状況をどうしたものか。


「ねえ、成仏するのと森を大きくするのとどっちがいい?」


ざわつく死霊さんたち。


(え、想定より希望者多そうなんだけど……)


緊急的会議の結果、成仏したいのは二割程度の方々らしい。


(いいんだろうか?退役届けとか退職金とかそういうのは……)


聞くと、『成仏による除隊』という手続きはすると言う。

数時間ほどくれれば終わる、というので先に森を広げてしまおう。


森の外に行き、どんぐりを撒き散らして一気に成長させる。

倍くらいの大きさになれば──いや、倍の倍か。

四倍必要ね。


『死霊満つる円環の森』は無事に四倍の面積になった。

外縁は全部ナラ系の木になっちゃってるけど。


そうこうしてる内に、誰かが城まで行ってリッチキングから成仏届けに決裁印を貰ってきたらしく、準備が整ったという。

お別れを言い合ったり、形見を渡したり結構バタバタとしているけれど──

二割と言っても五千体は下らないので、なかなかの人数である。


全員いっぺんにやると、場所が狭いから関係ない人まで成仏させてしまいそうだ。


(うーん、五百人ずつの魔方陣でいいか)


少し余裕を持たせるとして──外径 40m以上の円。

外周に0.8m幅の主刻環、内側に0.3m幅の安全環。

中央6m円に施術者スペース。

その周囲に同心円10列×各50体、列間隔。

それが1.5m、個体間隔1.2m。

方位四門に1.2m通路を切って導線確保。


あれこれ考えつつ、森の外の荒野に魔方陣を描いていく。

結局直径約五十メートルという、まぁまぁ大きい魔方陣になってしまった。


(ただ、成仏させるだけなら聖魔方陣オンリーでいいけれど……成仏前にリラックスや安心感を与えるには逆属性の闇が必要。相反する属性の場合、中和回路が必須なのよね……)


まあ、大きくなっちゃったけど魔力量は自信あるから問題無い。


皆さん安らか旅立っていった。

消滅ではなくて、ちゃんとこの世界の輪廻の輪……こちらの用語では生命の円環に還っていける術式なので、ぼんやりと光に包まれた騎士たちは少しずつ光に転じ、霧散していく。


ちなみに天に昇って行くわけではない。

本当に滲むように霧散していくのだ。

複合魔法だから時間はかかるけれど、苦痛も不安もないから私はこのやり方が一番好き。


──一日がかりになったものの、希望者は全員円環送りとなった。

使った魔力からしてわりに合わない気がしないでもないけれど、ガチ闇のリッチキングに魂送りは無理な話。

なら、出来る人がやればいい。


深く頭を下げる死霊騎士たちに手を振り、私はひよこ島に戻った。


翌日、リッチキングからお手紙と闇媒体が大量に届いた。



公啓

我が支配する『死霊満つる円環の森』における貴殿の所業、確かに拝見した。

森はその外縁を拡張し、過密にあった霊域は大いに緩和された。

さらに、我が麾下の亡霊どものうち、願いし者に成仏の途を授けし功、実に比類なきものと認む。

成仏の秘儀は我が力の及ばぬ領域にして、長き年月、王権の恥辱とも言うべき懸案であった。

貴殿の手により、ついにそれは果たされ、我が名誉は回復された。

よってここに、森と死霊王の名において深甚なる謝意を表すとともに、今後も森と死者の静謐を乱さぬ限り、貴殿に王の庇護を約す。

斯くの如し。


死霊王 円環の森守

ラウバッハ


(…………あのリッチキングからこんな長文が来たのは初めて……)


きっと嬉しかったんでしょうねぇ……

エルフの目にも涙ってやつ?

良いことした気分だわ。


初日でどんぐり収集は終わった。

後は選別、四日はフルで使えるわね。

作業場でしっかり選別しなくては。


まだ帰宅していなかったミシュティに、確認してみる。


「んれ、部門によっては自然落下のみって項目があるけど」


ミシュティは立ち止まり、首をかしげた。


「はい。基本的自然落下が高得点です、どの部門も」


「自然落下は殻付いてないのが多いって聞いたんだけど……」


ミシュティはにっこり微笑んだ。


「そのどんぐりの殻を見つければ、問題ないとされてまして。皆さん必死に殻も集めてますね」


私は考え込んだ。

数があれば、違う殻でもいい感じのがあるのでは……?


「それって、丁度いいのがあったら──」


ミシュティは静かに首を振った。


「いいえ、ジューン様。どんぐり魔法はかなり進化をしておりまして、どんぐりと殻の因果関係は──判定が可能になってるんです」


え、すごいね?


どんぐりの、どんぐり魔法?

DNA的な?

術式見せて欲しいかも。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 ちょちょいっとやってましたが、ジューンさんのやったこと=他の人(特にエルフ以外)から見たら英雄の偉業レベルのことなんでしょうなぁ…。 そりゃリッチキングさんも長文の感謝状を送りた…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ