第六回アレのコンテスト
影に入ってるソフィーがどうなるかわからなかったので、握りしめたままひよこ島に転移してみた。
ソフィーを砂浜に置くと──魔馬は逃げ、遠くで龍が数頭飛び立つのが見えた。
(可愛いけど、やっぱり気配が異様なんでしょうねぇ)
まあ、みんなすぐ慣れるでしょう。
予想通り、ユーニウスとペルルは数日で気にしなくなった。
山側にいるドラゴンは野良龍なので、相変わらずソフィーを警戒している様子。
ポチは気にはしているようだけど、怖がってはいない。
一緒に温泉に入ってるくらいだから。
「え、勇者まだ旅立ってないの」
驚く私にミシュティは頷いた。
「一回メンバー確定したのですけれど、不正があったらしくて」
「不正」
「人間側は人間側で、色々利権があるらしくて」
なるほどねぇ。
魔界とそれ以外は世界観が何か違うから、魔界以外の一般常識が『この世界の常識』なのだけれど……
そもそも魔界から出て、フラフラ出歩くのは変人。
みんな魔界から出ないのがほとんど。
魔界の成り立ちそのものが『人間社会とうまくやっていけなかった種族』がより集まって出来た国家だからね。
(まあ、その国家も今は昔。完全自由になっちゃってるけれど)
国家じゃなくても……各地方で好きに代表者を決めて適当に回ってるのが、今の魔界だ。
魔界にいる者は個々の生存スキルが高いからなのかも。
「魔界から見たら不正って不思議な現象だけど……人間達は結構やるわよね」
「良く聞きますものね。けれど、きっと魔界の普通はこっちじゃ通用しませんから『そういうもの』と思いますわ」
で、新たに盾、魔法、斥候を選定中らしい、
「今回は本当にグダグダ展開ね、魔界もだけど」
ミシュティはポケットから紙を取り出した。
生真面目な顔からして、重要な報告っぽい。
「そうでした、大事なものを忘れておりました」
【第六回勇者召喚記念 どんぐりコンテスト開催告知】
今年もやって参りました、恒例どんぐりコンテスト!
今期の魔王は『虚無のアイヒェル』。
魔王討伐の前に、まずは神聖なるどんぐり審査で運勢を占いましょう!
■ 開催概要
・開催期間:秋分の前日より三日間
・会場:王都西の森・どんぐり広場
・参加資格:年齢・種族不問(※昨年より無属性精霊の参加も可)
今回の審査員十七名はあのイベリコ族から!
彼らオーク族の厳しい審査を耐えきれるどんぐりは出るのか!?
■ 審査部門
一点部門:単体での美しさ、形状・艶・色を総合評価
十点部門:十個揃えた際の調和、並べ方の美意識も採点
重量部門:重さ勝負、測定は審査員立会いのもと厳正に実施
大きさ部門:最大サイズ、ただし自然落下品に限る
艶部門:磨き込み過ぎは減点、自然な光沢が好まれる
色部門:希少色は加点、ただし着色は失格
香り部門:森の香り、土の香り、焼き栗の香りが高評価
音部門:転がした際の音色の美しさ、響きの余韻
魔力反応部門:魔力注入時の光り方・反応の華麗さ
歴史部門:樹齢、採取年、どんぐりにまつわる逸話を評価
縁起部門:双子どんぐり、三つ子どんぐりは特別賞候補
■ 注意事項
・不正な魔力増強は禁止
・殻の研磨は一日三回まで
・提出時にはどんぐり帽子(殻斗)を必ず装着
・鑑定結果に不服がある場合は審査委員会へ異議申立て可
※景品は各部門の優勝者にトロフィー。
優秀作に賞状。
※各部門優勝者による「どんぐり王決定戦」は後日行われます。
【運営に寄せられたコメント一部紹介】
一点部門 昨年優勝者・マルロ氏(人間)
「今年も艶重視で勝負します。研磨回数は既に規定上限、あとは祈るのみです。」
・ 重量部門 三連覇中・グラグル氏
「今年は山の奥地で特大サイズを拾った。優勝はもらった!」
・十点部門 人気常連・レリュミエール氏「並べ方で魅せるのが私の流儀。今年は“黄金比”を意識した配置に挑戦します。」
・歴史部門 常勝の賢者セドナ(ケンタウルス)
「今年は樹齢三千年のどんぐりを確保。由緒ある逸品を披露できるのは光栄。」
・縁起部門 初参加・魔女ハーナ(ピクシー)
「三つ子どんぐりを拾ったので、験担ぎで出してみます!」
私はチラシを置き、しみじみと呟いた。
「もうそんな時期か……」
「ジューン様はエントリーされます?」
「しないわよ」
「ええっ!?」
ミシュティとバルフィが、信じられないという顔で私を見た。
(え、出ないと非国民扱い……!?)
「じゃ、じゃあ出ようかな……?」
「締め切りは八日後です」
ミシュティが安心した様子で、微笑んだ。
…………七日でどんぐりを集める……ライバルはガチ勢ばかり。
──どうする?
(概要には産地の制限はない。ならば、世界中の森から集めるしかないわ……!)
やるからには入賞したいわ。
エルフ的には有力候補を抹殺か失脚狙い……だけどどんぐりコンテストで、そこまで本気になるのは大人げない気がするし……
悩ましい。
イベリコ族の審査員とか、本気?
オーク達は土地から離れるのが嫌いなのに、十七名も!
激レア過ぎるんだけど?




