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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

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フレスベルグ、遊びに来る

そろそろ誰かに会わせてみても良いかも。

私は、おとなしく魔力水の入ったカップで遊ぶソフィーを眺めながら思った。


「フレスベルグね!」


フレスベルグなら多少おかしなことになっても大丈夫だろう。

何しろ、強メンタルだし根に持たない。

経験こそ積んでないから、まだまだ発育途上ではあるけれど、持って生まれた能力は高い。


なにより、頑丈ってのが良いよね。


私は辺境の家の座標軸を書き込み、フレスベルグに手紙を送った。

数日後、意気揚々とやってきたフレスベルグだったが……。

意外なことに、ソフィーは友好的だった。


(あら、攻撃はしないのね)


巨大化して飲み込むとか、影に引き込むとか、魔力吸い尽くすとか──

何かすると思ってたけど、予想が外れたわ。


(もちろん、ソフィーを制御出来る自信があるから呼んだんだけど──)


フレスベルグはケルベロスに噛まれた時用に、高級クッキーを持ち歩いている。

高級な方が賄賂として即効性があるから、らしい。

ソフィーはそんな美味しいクッキーを貰って、クッキーに巻き付いてチマチマとかじっている様子。


「可愛いなコイツ!」


「そうでしょう!」


「俺、は虫類とハムスターが好きなんだよ」


「ハムスター……ああ、ハム太郎」


愛ハムスターは確かハム太郎という名前だったはず。

時空庫にコロリと遺骸が入っていたはず。


「あ、ハム太郎な。ちゃんと埋葬した!庭に」


「あら、それは良かった」


「墓の上にミズナラの苗植えたんだー」


「ミズナラ?ああ、どんぐり……」


「いいどんぐりが、なる筈だぞ!」


そ、そうね……きっと素敵などんぐりが実るでしょう。


「で、このソフィーがどうしたん」


「ああ、私以外襲うかどうか確認したくて」


「………………」


私は話題を変えることにした。

フレスベルグは警戒している。


「最近、なにしてるの」


フレスベルグはソフィーをつつきながら、ドヤ顔で言った。


「小説書こうと思ってさぁ!魔王イベント終わったら」


「ふうん?何の話をかくの」


「そりゃロマン溢れる話に決まってるじゃん」


「ロマンねぇ」


フレスベルグは、大喜びで構想を話し始めた。


「男女比1:1000の世界に異世界転移するハーレム物書こうと思って!どうよ?」


「完全にエンタメとして架空で書くなら、人気は出るんじゃないの?現実に寄せるとホラーになっちゃうし」


フレスベルグが首を傾げた。


「何でホラー?」


「だって、現実にそこまで男性が少なかったら子孫を残すって意味で、緊急事態じゃない?」


「うん、だから選り取り見取りのハーレムを──」


「バカねぇ」


私はあきれて溜め息をついた。


「そんな状況だったら、男に人権あると思う?人工受精か体外受精で次代を確保しないと、人類滅びちゃうじゃないの」


「だからハーレムで」


「一回の行為に一人の女じゃ効率悪いでしょ。医療的な介入なら、その一回分で数十人の妊娠可能性が見込めるのに」


「えっ、じゃあ……」


フレスベルグが不安そうな顔になってきた。


「その場合、余計なトラブルは排除しないと国家事業として成り立たない。女性側の遺伝子も登録され、最適な細胞を割り当てられて──妊娠の拒否権はなくなると思われる」


「…………」


「効率化のため、男性は人間じゃなくても良いわよね?だって維持コストがかかるから。造精細胞さえあれば──」


「待って、それってつまり──」


「男は要らない。必要な臓器だけ培養」


フレスベルグはテーブルに突っ伏した。


「ホラーだ、そんなのロマンじゃない」


「人類滅亡の危機にロマンなんて要るの?」


「ジューンに聞いた俺が悪かったのはわかった!」


私は紅茶のおかわりをフレスベルグのカップに注ぎながら、アドバイスをあげることにした。


「そのシステムから逃げ回る愛の逃避行とか、やりようはいくらでもあるわ」


それにはまず、何故その世界がそういう状況になってしまったか?

そこをしっかり書かなくてはいけない。

そんな世界に転移した主人公が、国家に捕獲される前に現状把握するには?

どこに転移して、最初に会うのは誰か──


「なるほど」


フレスベルグが真面目にメモを取り始めた。


「そうなると、主人公は思春期より知識のある大人の男じゃないと──」


「運が良かった、で持っていける場合もある」


「じゃあさ、そのシステムに疑問を持つ人々もいると」


「うんうん、そうね。自然派みたいな名前のレジスタンスとか。ハーレムやりたいならそこでハーレムすれば現実的」


「ボスは当然バインバインの美女で──」


フレスベルグがメモを取るのに夢中になったので、私はクッキーを食べ終わったソフィーを手のひらに乗せ、じっくり観察した。


(身体より大きいクッキーはどこへ?どこも膨らんでないし、魔力に変換されてるのかしら)


ペッ!とソフィーが何かを吐いた。


「!?」


真っ黒な石──魔核?

魔核より濃密だけど、なにかしら。


鑑定してみると、古代闇化石とある。


(うわ、激レアアイテム)


世に出してはいけない触媒だった!

ちなみに、闇の魔核が化石化したものだ。

放置された魔核は、内包魔力が無くなると砂のように崩れ、消失する。


本来魔核はその魔力を利用して魔道具を動かしたりするのに使われるけれど。

使わず放置していると、徐々に内包魔力が蒸散していく……まぁ、電池みたいなものだ。


(ごく稀に、自然の奇跡で内包魔力を失わずに化石化するものがある──)


この超高額な古代闇化石は、何の触媒に使われているか?


(死者の完全蘇生……)


現在の蘇生術は──死にたてならば代償はあるものの、可能。


完全蘇生は骨一片からでも。

ネクロマンサーが喉から手が出るほど欲しがるのが、古代闇化石。

今はどこの国でも、禁術とされている。


なので、世に出してはいけない。


(使いどころの無いコレクションが増えていくわね……)


私は溜め息をつき、真っ黒な小石を時空庫に放り込んだ。

そこらに捨てるわけにもいかないし。

……世に出せないシリーズが増えるのは嬉しくない。


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