ソフィーちゃん
ソフィーを従魔にしてからしばらく経つ。
ミシュティには手紙を飛ばし、誰とも接触しないよう調整してある。
(ソフィーはおとなしいけど、まだどういう性質のものかわからない。──誰かを巻き込むリスクは避けなくては)
自分一人だけなら、大抵の事はなんとかなる。
だが──『なにかを守りながら』『周囲に配慮しながら』だと、どうしても最適解の選択肢を捨てなくてはならない。
(結局、自分一人で好き勝手やる方が強いのよね)
もちろん、共闘が正しい場合もあるけれど……
今回みたいに、事前に調整出来るなら。
(間違いなく……自分だけが気が楽よ)
辺境の家は森挟んだ郊外だし、今はガチガチ障壁と結界で外部から遮断してある。
しばらくは一人でソフィーの観察かな。
「あら、ジュースも好きなの」
ソフィーは基本的に与えればなんでも食べる。
甘党のようで、反応が良いのは果物やお菓子。
体長十センチのオチビさんだし……太さも一センチ程度だからか、量は要らないみたい。
(生物学的な排泄は無し……)
食べるのは完全に趣味だろう。
ソフィーは私からの魔力供給で生きているっぽいから、ほぼ魔法生物で間違いなさそう。
(最初の十日くらいは大量の魔力を欲しがっていたけれど……)
最近は魔力の変換効率が上昇したようで、要求魔力は減少している。
どの生き物も魔臓で生産された魔力を、ある程度は体内にプール出来る。
過剰分は皮膚呼吸や汗と共に体外に排出され、霧散する。
私の身体もそう。
常に生産されている大量の魔力は、大容量でプールされてはいるけれど──普段はどう工夫しても捨てるしかない。
ソフィーの今の魔力コストは、その余剰分で充分。
つまり、結構な魔力を吸われ続けてても……私には無影響。
全く問題ないのだ。
(捨ててた分、吸ってるだけだからね!エコだわ)
ちなみに毎日捨てられているであろう『余剰魔力』は人間の強い魔術師の一日平均生産量の四十人分くらい。
ソフィーはその余剰分の九割は、毎日吸っている。
「つまりソフィーの常時制御には──魔力が多いエリート魔術師が四十人くらい必要」
【真名ありても制御叶わず】
「それってつまり、コスパ悪すぎるから?」
それだけが理由じゃないとは思うけど、コスパの悪さもかなり強い理由よね。
鑑定結果が『???』なのは、解決した。
ソフィーとのんびり過ごしている間、私は過去のメモに目を通した。
──一番最初のメモ帳。
一万六千年前のものだ。
まだこちらの文字がわからず、日本語でメモしていた頃のものだ。
【ルイ、表示、?、本当に?】
底に沈んで眠る記憶は、鍵さえあれば浮かび上がる。
親がいない規格外のエルフは、これまでに三名。
私は最後の三人目。
一人目はルイ、二人目はエル。
私はエルを師匠として、この世界で生きていく術を学んだ。
既にルイは故人だったから会ったことは無い。
ルイがエルに話したこと──それがキーワードだった。
エルの言ったことを思い返すと、こんな感じ。
もちろん一字一句覚えてる訳じゃない。
「私もルイから昔聞いただけで、見たことは無いんだけど。唯一無二、新発見のものは鑑定しても『?』って表示されるんですって」
「今後もそういうものを見る機会なんて無いだろうけど、文字化けじゃない『?』は未知の中の未知って言ってたわ」
ソフィーはこの世でオンリーワン、唯一無二の存在だから『???』ということなんだろう……というのが私の結論。
『???』がいつそうじゃなくなるのかは、全く見当がつかないけれど。
私は魔力水の入った大きなカップで遊ぶソフィーを眺めた。
思い通りに制御するには契約必須。
契約したところで……一人の魔力だと一瞬で吸い尽くされて即死。
(かといって集団で管理も難しい。独占や裏切り、いろんなリスクがある)
そもそも四十人のエリート魔術師を、常時魔力供給に使うなんて無理がありすぎる。
ここでいう上級魔術師って──数多の魔術師の上位者五%レベル。
(そもそも、そんな数を確保出来るってとこからよね?)
「うーん、少なくとも封印には……通算数百人くらい関わったのかもね」
そんな凶悪には見えないけど。
ただ、現時点でソフィーの欲しがる物を持っているのは私だけ。
私が飼っておくのが最適解ね。
光すら吸い込む漆黒。
ソフィーの周囲はそのせいで、常に仄暗い。
のたのたと這ってることが多いが、影から影へ潜り込み……転移的な移動も出来るようだ。
私が移動すると、着いてくるのがなんとも愛らしいのよね……
そんな時は大体、私の影に飛び込んでる。
(全くコミュニケーション取れてないけど、可愛いは正義だからまあいいわ)




