謎の石柩
翌日、のんびり起き出した私は食い散らかしたものを片付けて入浴した。
(耳……エルフ耳か。地球のエルフ耳がああいう感じなのは──)
狭い浴槽から足を出して、考える。
(こっちでそういうエルフを見た人が『帰った』か、こっちの世界の人があっちに転生か転移して伝えたか)
確かめようが無いだけに、ロマンのある話だわ。
「まさにファンタジーね」
「…………」
地中に埋まってる大箱が、ホラー枠じゃないといいなぁ。
今はいくらサーチしても見つけられない。
前の住人は魔術師ではあるけれど『人間』だと聞いている。
私の目から逃れうる隠蔽工作──
あり得ないんだけど。
「あっ」
どうせ穴掘るんなら、風呂の前にすれば良かった……!
ちょっと早いけど昼食を取りに、お出かけ。
目指すは自分の商店街の転移ポイントから徒歩数分にある、『ヴィルヌの輪』だ。
ちいさい店だし、早めに行かないと行列になっちゃう。
「日替りはキノコのパスタか、ブルグ筋煮込み……」
牛すじの煮込みは美味しそうね。
ここ、パスタも美味しいから迷っちゃう。
お金を入れる為のテーブルの木鉢に早速財布から銅貨だけ出して、盛っておこう。
銅貨消費キャンペーンだ。
私はブルグ筋の方を頼んで、水分補給にアイスティーも注文した。
ウエイターは銅貨を数え、持っていった。
(銅貨減った!!)
感動しつつ、アイスティーを飲んでいると隣の席のレディがキノコのパスタを食べている。
(え、美味しそう)
キノコがたっぷり。
ミニサラダとパンがついて銅貨八枚なら安いんじゃないかしら。
「…………」
私は木鉢にまだいっぱい残ってるのを確認し、キノコの日替りパスタも追加で注文した。
何しろ私はこの一帯で一番の銅貨持ちだと思うのよ。
(銅貨ならある!)
ちなみに、日替りランチ二人前くらいは食べられる。
量がそんなに多い訳じゃないからね。
先についたのはブルグ筋の煮込み。
こちらも、ミニサラダとパンが付いている。
たまねぎ、キャベツ、豆と共に煮込まれてるトマトベースの煮込み。
こってりと濃い味だけれどトマトの酸味が良い感じにきいていて、くどくない。
(ちょっとピリ辛。パンによく合う)
お店はもう満席だし、列もできている。
途中でパスタも到着。
やはり、キノコがいっぱい。
冬だからなのか、濃厚なクリームパスタだ。
黒胡椒とバターの魅惑の香り。
この店、付け合わせサラダもシンプルながら、シャクシャクしてて美味しいのだ。
食後のハーブティーを飲んで、撤収。
ランチタイムに長居は無用なのだ。
腹ごなしに商店街を歩き回り、肉屋でブルグ筋、酒屋でケヴェを買い込んだ。
合言葉は「銅貨でいい?」である。
ダメとは言われなかった。
宝貨は断られることが多いけど、銅貨は有能ね。
(銅貨が減っていく!素晴らしい)
スタンピード後、新築になった『貸し馬屋』に寄ってセバ爺と久しぶりに立ち話。
結構な大ケガをしたのだけれど、すっかり元気になっている。
でも、肩はまだ痛むと言っていたので──鎮痛に特化したジューン特製湿布を進呈してきた。
「────日が暮れる前にやるか」
明日でもいいんだけど……まだ明るいし、掘るか。
庭から窓辺に回り込んだ私は、シャベルを取り出し慎重に地面を突き刺した。
魔法はまだ使わない……いや、使えないが正しいかな?
ここまで念入りに隠されている物だから、トラップがあったら嫌だし。
自分が八ヶ月も気付かなかった代物だ。
警戒はしておくべき。
小石がゴロゴロ出てくる。
手に取ってみると、出てきた小石全部に魔方陣が刻まれている。
(個々の効果は低いけど、この数──)
気配遮断、隠蔽、幻惑、注意散漫……色々な魔方陣小石が出てくる。
「なるほどー、こういう使い方だと察知されにくいのか……微量を分散して積み上げている、と」
広めに掘りながら、どんどん進む。
小石は段々大きくなり、魔方陣も効果が上がっていっているけれど……
(うーん、ほぼ期限切れ。これ、数十年レベルの埋まり方じゃないわねぇ……相当古そう)
三時間ほど掘り続け、ようやく大箱に到達した。
「あー、この強烈な隠蔽魔法の気配を消すための小石魔方陣なのか……」
この頑丈そうな石の大きな箱。
(私が掛けたみたいな隠蔽魔法が掛かってる……!)
つまり、死角のない完璧な魔方陣。
期限が切れかかっているのに加え、経年劣化で刻まれた魔方陣自体が劣化したのが原因か。
どちらにせよ、もうじき暗くなっちゃうから──これは魔法で引き上げてしまおう。
汚れと破損防止のため、工房の床に魔力遮断布をしいて箱を安置。
土だらけだけど、洗ったり拭いたりはまだ禁物だ。
私は全部きっちり調べながら、見ていく主義なの。




