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小銭地獄


今日も今日とて、引きこもっている。


今は自室で、お金を数えている。

アルシアに移住してから、八ヶ月くらい。

入るお金より、出ていくお金の方が多い。


ざっくりだけど日本円に換算すると、銅貨一枚100円くらい。


(まずは現金を把握しておくべきね。使用人だけで、年間白金貨十枚以上出ていくわけだし)


使用人を路頭に迷わせるわけには……いかないものね。

なので、チマチマと数えているのだ。


銅貨100円──2896枚。

白銅貨1000円──2776枚。

銀貨1万円──1499枚。

金貨10万円──386枚。

白金貨100万──74枚。

宝貨1000万──59枚。

フィアン宝貨1億円──6枚。


(小銭多すぎじゃない?暫く銅貨で買い物する……?)


うーん、日本円に換算したら七十三億円くらいはあるけども宝貨以上は使えるところが少ないから実質六十億くらい?


(冒険者、魔術ギルド口座にも資産があるから、即破産は無いけど)


一万六千歳の貯金としては、どうなんだろうか?

老後が不安になる。


(そもそも、今が老後なのでは──?)


「……まずは小銭の消費ね」


銅貨と白銅貨専用のお財布でも作るか。


(今まで時空庫に直接放り込んでたから、小銭地獄になったのよね、きっと)


うん、そろそろお財布を持ってもいいお年頃のはずだ。

硬貨だけだから、巾着でもいいんだけどね。

時空庫だと重くないから気にしてなかったけど、ニ千枚はどう考えても正気の沙汰じゃないわ。


「エルフが正気かどうか、と言うところから議論が始まりそうだけど」


ぶつぶつ独り言を言いつつ、財布の素材を選び始める手のひらサイズの巾着でいいから端切れで充分。


(一応お気に入りの白いポシェットはあるけどあれは時空庫持ちを誤魔化すダミーだから……財布としては大きいのよね)


時空庫に手を突っ込むと、感覚的に何が入ってるか検索は出来る。

私の場合は『端切れ、端切れ』と思って探すと、脳内に端切れ認定された物のリストが浮かんでくる感じ。

 

──これは所持者が少ないので確たる検証はされていないのだが、時空庫の在庫管理方法は一律ではない。

私の知ってる限りだと…………

・記憶に無いものは出せない

・全リストが脳内に浮かぶ

・なにも補足なく、手探りのみ


こんな感じで千差万別なのだ。

検索出来るのが、一番便利なのは間違いない。


ちょうど良さそうな鹿革の端切れがあった。

ブーツを作った時の余り。

銀皇鹿の牡の革──スーパーバックスキンと呼ばれる良質の革だ。

皮から革へきちんと処理した後、表面を加工で毛羽立たせている。

もっちり柔らかい手触りで、お気に入りの質感だ。


ブーツにはちょうど良かったけど、財布はもうちょい扱いやすい方がいい。

革包丁で『革漉き』という厚みを削る作業からスタートだ。

場所を取る作業じゃないから、辺境の家の小さい工房でやろうかな。

ミシュティに書き置きを残し、私は辺境に転移した。


工房の椅子に腰かけ、早速小さな革包丁で革漉き作業を始めた。

小さいからすぐに終わってしまったが、出来は上々。

品のいい濃いめのベージュが良い感じ。


「あれ、糸が……無い」


最近、革製品の縫製にドラゴンの産毛ばかり使っていたから──薄手の鹿革にちょうどいい糸がなかった。


(いくら産毛が細いといっても、龍だから太いわ……)


時空庫から麻糸を探しだし、並べて見る。

赤、黒、白、緑──


(気分的に、赤かなっ)


必要分を巻き取り、まずは糸を使える状態にしないとだ。

私はメア・ビーの蜜ろうを取り出し、糸に丁寧に塗り込んだ。

魔法で温め、染み込んだらもう一回蜜ろうを。

これを繰り返すと『ロウ引き糸』の出来上がりだ。

最後に温めつつ余分なロウを拭けば、完璧だ。


ロウ引き加工により糸が丈夫になり、水に強くなって長く使える。

糸を通す際の摩擦を減らす効果もあるし、バラけないからスムーズに縫える。

手縫いだから、ここはサボってはいけない。


銀皇鹿革は漉き終わったし、ロウ引き糸も準備完了。いよいよ縫い始めだ。


「まずは菱目打ち……」


時空庫から菱目打ちと木槌を取り出す。

下に木の板を敷き、革を重ねて位置を合わせるて。

カン、カン、カン──と一定のリズムで縫い穴を開けていく。


(この音、好きなのよね……無心になれる)


一通り穴が開いたら、サドルステッチの出番だ。一本の糸の両端にひとつずつ針をつけ、左右から交互に通していく。

きゅっ、きゅっ、と引き締めるたびに赤い糸が美しい二本線になっていく。


「……完璧」


自画自賛しつつ、また次の穴へ。


縫い進めるたびに革が形になっていくのが楽しい。


「ここは返し縫いっと……」


端まで縫ったら、一針戻って補強。

余った糸は切って指先に小さな火の魔法を灯し、先端を軽く炙る。

そこを指で押さえて、ぴたっと止めると仕上がりがキレイ。


「いい感じじゃない」


指で革を押して縫い目を撫でると、きゅっと糸が馴染んだ感覚がする。


(この瞬間が一番好きかも)


「口紐はどうしようかなぁ」


どこかのお土産屋で買った組み紐がいいかな。

幾つかあったはずだ。


(うん、赤系がいい)


赤を基調とした、数色で組まれた可愛い物をチョイス。


「おおー、可愛い」


この財布は震えないし絶叫もしない、いい財布だ。


「………………」


「重いくせに78枚しか入らないじゃないの!」


私は溜め息をつき……結局巾着に空間魔法を付与して銅貨と白銅貨、数千枚をしまいこんだ。


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