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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

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一応、解決


──しばし無言の間があった。


「ジューン様。思ってたより事態は深刻です」


バルフィが真剣な声音で、語り始めた。

私は嫌な予感で、なんとなく身構えた。


「まだ増える可能性があります」


「…………もう受け入れ拒否するわ」


バルフィは暫くメモで計算をして答えを出した。


「温泉周辺から幼龍を出さない対策をするならば──受け入れは半年に一回、三十個までですね」


「あっちにもう1個、島持ってるの。そこでどうにかならない?」


「生まれてくるときは、親龍が必ず来て最初の1ヶ月生きていけるだけの魔力を与えるので──それが済んだら、そちらの島に移すのが合理的でしょうね」


「なるほど最初の魔力を与えたら、親は無干渉になると」


「そうです。赤ちゃんでも強いですからね」


バルフィは沈んだままのポチを眺め、微笑んでいるが──私の顔はひきつってると思う。

平穏が、平穏が遠退く……。


「幼龍は自由にうろうろする場所があるなら、勝手に育ちますし……一歳前に独立していきますから」


(一歳まで!)


お手上げだ、私にはそんなめんどくさいこと不可能だわ。

無理無理、やりたくない。


「ねえ、あなたバイトじゃなくて正式にうちに来てくれないかしら。レースとか、副業OKにするから……」


私はバルフィに丸投げすることにした。

竜の道は竜って言うじゃない?


「屋敷に帰って契約、契約しましょう!」


「は、はい」


バルフィは困惑しつつも、嬉しそうに尻尾を揺らした。

耳は小さなスコ耳なので、あんまり動かないけれど、琥珀色の瞳が煌めいた。


契約のついでに、ミシュティの年俸も考え直した。

ミシュティは有能だからね。


賃金はもともと平均よりやや多め。

産卵シーズンに当たった年はボーナス支給。

副業OK。

龍島の平屋と自治はバルフィに任せる。

龍島とひよこ島に転移陣を設置するのは雇用主の私。

どちらの島も個人的に立ち入って良いのは私、ミシュティ、バルフィのみ。

受け入れ制限についてはポチに言い聞かせ、守らせる。


条件はこんな感じでざっくり決めた。

もちろん、魔法契約紙にはきちんとした文言で詳細に記載。


(肩の荷が降りた……!)


ポチには温泉に入るときも出るときも静かにさせるよう言っておかなくては。

ひよこ島は騒音禁止!これは絶対。



……で。

さすがミシュティの弟といえば良いのだろうか。

バルフィの仕事は爆速だった。


ひよこ島はバルフィとポチの努力で、静けさと平穏を取り戻した。


数日後、私は魔界に行ってここ掘れ組の社長に龍島にも温泉が掘れるか、調査を依頼したのだけど──

残念ながら温泉は出なかった。


(あんなに山だらけなのに!)


組長のゴンタさんに、ちょっと不思議に思っていたことを尋ねてみた。


「ねえ、ひよこ島の温泉ってなんで温度が全然違うの?」


ゴンタさんは、ああそんなこと?と言う顔をして教えてくれた。


「違う湯元だからです!」


「ふたつあるの?」


私が首をかしげると、ゴンタさんは調査票を見ながら答えた。


「湯元が別ですね。ジューン様側は浅い温泉脈からの湧出です。火山の熱があまり届かないので、四十二度前後で安定しています」


「なるほど……私にはちょうどいいけど、龍にはぬるいと」


「ええ、孵化には向かないので、こちら側を産卵場にされる心配はありません。ポチ温泉は火山由来の湯元ですから、地質構造そのものが違います」


私は胸を撫で下ろした。

もう卵は増えないし、孵化したらすぐに龍島に移動。

ピークは今年で、再来年には一旦落ち着く。

言い聞かせ効果は抜群で、温泉に急降下で飛び込んでた龍も静かに入るようになった。


私に平穏が戻ってきた。


(平和って素晴らしい……!)


「暫く誰にも会いたくないし、なにもしたくない」


もちろん、使用人のミシュティとバルフィは別だけれど。


ゆっくり静かな温泉に浸かって、ボケーッと過ごす日々。


(体感時間は同じだけど、急いですべき事、しないと生きていけない『用事』がないから──長命のエルフって日々が忙しいと嫌になっちゃうのよね)


興味があることは、別腹なんだけどね。


(でも、『人間ペース』で生きていると面白いこともいっぱいなのよね)


一長一短。


まあ、疲れたらエルフ時間でのんびりすれば良いか。

私は暫く、積んであった本を読んで過ごしましょう。


(気晴らしに辺境で採取の仕事しても良いし、他大陸に行ってみてもいいかも)


ミシュティが作り置きしていったタマゴサンドを摘まみつつ、私は冬の海を眺めた。

海辺ではユーニウスとペルルが仲良く走っている。

空を見ればドラゴン。

高層旋回してる分には無音だし、問題はないけれど──

五匹はちょっと多いよねぇ……。

メリットがないわけじゃない。

卵の殻は高額で売れるし、龍気の多い場所には龍仙草とか希少植物が生える。

幼龍~若い龍には生物的排泄があるから、龍島は後々素材天国になるだろう。

ポジティブに考えれば…………。


(温泉を作ったの私なんだけどさ)


自業自得。


まさに、まさにだわ……





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― 新着の感想 ―
こ、これはひよこ島竜牧場からレースへのフラグ爆誕? 何年かしたらヒヨコマックイーンが… 私の夢はパーマーです(実況)
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