レース観戦
《スタート!──飛んだッ!》
《まず出たのはターボツイン!稲妻ロケット、いきなり雷光の加速!》
《続いてキタサンクロウ、影を伝って最短ライン!オルフェイブルーは外壁スレスレ!危ない!》
《あーーっと!ゴールド・シリウス、出遅れ!てか飛ばない!?》
《ゲートから一拍どころか三拍!いまゆっくりと沈降……あ、ブンッと尾を振って観客席に愛想なし!》
「あらまあ!」
「……まだ想定内ですわ。ここからです、たぶん」
ミシュティがキリッと言いはなつ。
《先頭はターボツインが一気に5龍身!渓谷第1狭路へ!》
《影を滑るキタサンクロウ、無駄ゼロのコーナリング!2番手確保!》
《オルフェイブルーは外壁ギリギリ!火花が出てませんか!?》
《出てます出てます!あれは鱗と壁がキスしてる距離!》
《中団にソウダシ、白旋風ミュリエルが手綱絞って脚を温存!内にドトウザクシ、相変わらず銀狙いの完璧ルート!》
《後方にメイケイハウル……あっと、急上昇からの急降下!リュミエ騎手が必死に抑える!》
《最後方、ゴールド・シリウス──まだスイッチが入らない!》
《お散歩かーっ!?》
「……こんなに離れてて勝てるのかしら」
「うふふ、バルフィの得意コースは激狭の難所なんです。これからですわぁぁぁ!」
ミシュティが立ち上がり、毛を膨らませた。
《渓谷第2狭路!ターボツインのスピードがやや緩む!》
《早い、燃費が減ってきたか!?》
《そこへキタサンクロウ!影の帝王ガルド、するりと内差し!先頭交代!》
《オルフェイブルーは外壁へフラリ!ギリギリ!ああっと!翼を掠めたか!?》
《エルドラン、黄金鞭!強く叩いた!金竜、目が覚めたように伸びる!》
《中段ではソウダシがスムーズ!渓谷のうねりに合わせて上下動ゼロ!》
《ドトウザクシは今日も壁に沿う完璧な銀のライン!》
《その外からテイエムオペラナー、見せ場の宙返りパターンを匂わせる!》
《後方集団──あ、来た!ゴールド・シリウス、突然の点火!!》
《スイッチ入りましたね!?》
《バルフィが前傾、白竜が一段沈んでから──爆発的加速!》
「うわ、速っ」
「渓谷下層の圧縮流、最短で拾ってます!」
《ゴールド・シリウス、後方一気!一団をごぼう抜き!》
《メイケイハウルをかわし、ミライスモークの霧を割って、ドングリサンデーも一閃!》
《さらに中団!ソウダシの外!白×白の攻防!》
《第3狭路入口!先頭はキタサンクロウ、2番手オルフェイブルー、差なくターボツイン!》
《その後ろにソウダシ、内にドトウザクシ、外からテイエムオペラナー!》
《そして白い影!ゴールド・シリウスが一気に5番手まで浮上!》
「1−4あるわよ、あるわよ!」
「ジューン様、落ち着いてくださいまし。まだ半分ですわぁ!」
《渓谷名物つづら折り空路!反射風が乱れる最難関のテクニカル区間!》
《キタサンクロウ、影を縫うように最短最速!これは教科書!》
《オルフェイブルー、また外壁だ!危ない!……が、ギリギリで体勢立て直し!》
《ソウダシ、内の渓谷風をうまく拾って前との差を詰める!》
《ドトウザクシは今日も無表情に2列目のベストポジ!》
《ゴールド・シリウス、ここで──あっ、尾を高く上げた!》
《バルフィが手綱を緩める!白竜、渓谷下層へのダイブ!低空最短ラインだ!》
《出た、下層ショートカット》
《キターーーーッ!ワープです!ゴルシワーーーープゥゥゥ!》
「うわぁ、すっごいわね」
「でもリスク大ですわ、乱流ひとつで──」
《乱流ッ!》
《ゴールド・シリウス、体がぶれる!》
《しかし持ち直した!持ち直した!バルフィ、神業の体勢補正!》
《前は最終コーナー合流手前!キタサンクロウ先頭!2番手オルフェイブルー!》
《その直後、内にドトウザクシ、外にソウダシ!》
《低空から白い悪魔──ゴールド・シリウスが一気に射程圏!》
「お願い、そのままそのまま……!」
「1−4、来ます……来ますわ……!」
《最終スパート!渓谷メインストレートへ!》
《キタサンクロウ、影走りで抜群の加速!オルフェイブルー並ぶ!》
《外からソウダシ!内でドトウザクシ!》
《そして白竜、ゴールド・シリウス──大外から一気にッ!!》
《残り200!──横一線ッ!!》
《残り200──横一線!キタサンクロウ先頭!外からソウダシ!さらに大外、ゴールド・シリウス!》
《白い閃光だ!渓谷に轟く飛翔音!》
《オルフェイブルーも粘る!ドトウザクシは内でじわじわ!》
「うわ、並んだ!」
「ジューン様、1−4ありますわよ……!」
《残り100!キタサンクロウ、影を伸ばして先頭死守!しかしソウダシが並ぶ!》
《ゴールド・シリウス、さらに外!バルフィが立ち上がるような体勢、全身で合図!》
《白竜が渓谷の上昇気流を掴んだ!一気に浮上!》
《キタサンクロウと完全に並んだ!》
《外からソウダシも差してきた!3頭ほぼ横一線!》
《内のドトウザクシも伸びてる!これは大接戦!》
「行けぇぇぇ!!」
私は立ち上がった。
「神速ぅぅ!!」
ミシュティが叫ぶ。
《ゴール前50!ゴールド・シリウス、頭ひとつ抜けた!》
《しかしキタサンクロウも譲らない!ソウダシも迫る!》
《ゴールインッ!!》
《わからない!わからないぞ!大接戦!!》
──画面はスローモーションに切り替わった。
ゴールド・シリウスの白い翼と、キタサンクロウの影がぴったり重なる。
外からソウダシが僅かに遅れて飛び込む。
《写真判定です!》
《これは長いぞ……並びましたね、完全に》
私はソファの上で膝を抱えて息を止めた。
ミシュティは尻尾の先を揺らし、祈るように手を組んでいる。
《判定出ました──1着、1枠1番ゴールド・シリウス!》
《2着、4枠4番キタサンクロウ!3着は7枠7番ソウダシ!》
「……勝ったわね!!」
「当たりましたわあああ!!!」
二人で立ち上がり、ハイタッチ。
「配当、結構つくんじゃないかしら!」
「7倍!7倍ですわぁ!」
《まさかのゴルシ勝利!》
《バルフィ騎手、やりましたね!》
《出遅れからの大外一気、これぞロマン!》
私はにやりと笑った。
(……バルフィ、いい弟ね)
会うのは面談、正式に島の龍舎計画を進める時だけど。




