充電期間
ユーニウスとは島に戻ってから、たっぷり遊んだ。
普段から島を自由に走り回っているので、筋骨隆々である。
それでも騎乗して一緒に走るのは、お互い楽しめている。
ユーニウスがもういいわ、となるまで走らせて温泉水で水浴び。
馬の温泉、も考えたけどユーニウスもペルルも浸かるのは好きじゃないから作ってない。
冷えないようきっちり乾かし、ペパーミントを食みに機嫌良く歩き出したユーニウスを見送った。
北東にある島に転移して、事前調査だ。
(所有者、なし)
切り立った山が多くてヒトには住みにくそうだけど、龍にはピッタリの立地だ。
平地もあるにはあるので、そこに平屋を一軒設置。
これで私のハウスストックは品切れだ。大きい家ではないけれど、狭くもない素朴なお家である。
中に入って水回りや魔道具へ魔核をセットし、室内をちょっと整えれば完成だ。
今日はこれでいい。
辺境に戻る前にポチ温泉の様子を見に行くと、ポチが温泉に沈んでいた。
激しい動きをする時には呼吸が必要な生命体ではあるが──ジッとしてる時は特に呼吸はしなくても問題がない。
ドラゴンは通常の生物より、魔法生物に近い構成なのだ。
(多分、沈んだまま寝てる……)
まあ、ポチの温泉だからいいでしょう。
問題は卵だ。
(何故……!)
龍の卵は、二十七個に増えていた。
「………………」
まあいい、対策の予定はある。
卵を埋めに来たらしい火龍ペアが、びくびくしつつ遠慮がちに穴を掘っている。
龍は頭がいいので、圧倒的格上の私に挑戦することはない。
ものすごく気まずそうに横目で私を見ているので、私はさっさと辺境に転移することにした。
「ふぅ」
街外れの森の横にある辺境の家は、静かでいい。
何より初めてこの国で手に入れた拠点だ。
私はこの家を気に入っている。
今日から数日は、魔力強化に徹する。
と言っても薬草茶を飲んだり、ボディメンテナンスをするだけだけどね。
(食事も魔臓活性に良いもので統一ね)
私の場合は、全細胞が魔臓状態なので──細胞活性が望ましい。
新陳代謝が円滑になるよう温活かな。
(後は寝て過ごす!)
私は予定通り、メンテナンス期間を過ごした。
一日二回ほど、ミシュティが来て報告やら家事をしていく。
名もなき村の村民は十日ほど、療養として食事や温泉、お散歩。
昨日は団地で歓迎会と称したバーベキューがあったらしく、近隣ともうまく馴染んでいる様子。
「彼らの育てる植物は、勝手に抜けて逃げ回る系は……ご年配ですから、やめたらしいです」
ミシュティが、ベイリウスからの報告書をテーブルに置いた。
「そうねえ、おとなしく埋まっててくれるタイプがいいんじゃないの」
「そうですわね。危険な成分のない、改良した薬草系にするってベイリウス様がおっしゃってました」
「こっちも村は燃やしたし、これでおしまいね。それより、卵よ卵」
「増えてますね……」
「早めに弟さんと面談した方が良い気がしてきたわ……」
ミシュティはメモを取り出しなにかを確認して、口を開いた。
「バルフィは明後日の重賞レース……『ベジョータ杯』に出走するので、それ以降ならいつでも」
「じゃあ、私の都合で指定させて貰うわ」
「伝えておきますわ」
ベジョータ杯……競龍にはあまり詳しくないけれど、高額賞金で有名な渓谷レースだった気がする。
そもそも龍は馬のように走ってくれる生き物じゃない。
基本『おねがい!そっち曲がって!』というおねがい方式なのだ。
なのでジョッキーのコミュニケーション能力が物を言うらしい。
「あ、でも今回は初めて会う子に乗るみたいなので、期待しないでって言ってました」
「ふーん?乗る龍って決まってないのね」
ミシュティは耳の飾り毛を揺らし、頷いた。
「バルフィはフリーランスなので──知り合い龍舎や龍主からのオファーで騎乗龍が決まるみたいですよ」
「なるほど」
「今回は気性難で大変な子に乗るみたいです」
「へえ。レース中継はあるの?」
「はい、魔競チャンネルで」
私は薬草をかじりながら、予定をきめた。
「レース見てから、島名付けに行く。回復したら、面談ね」
「でしたら、龍島の方に療養の準備をしておきますわ」
「よろしくー」




