第三回進捗会議①
「では、第3回進捗会議を始めるわよ」
今日は紫の髪をしたカルミラが口火を切った。
「パンジー大丈夫か?」
「打ち身だけ?」
「冥牛の肉持ってきたわ」
「マッサージ効果のあるクッションを作ってきたぞ」
「…………パンジーは元気よ。吹っ飛ばされてびっくりしただけ。あれでもケルベロスだもの、頑丈よ?」
カルミラは後ろに控えていたフレイアに、パンジーちゃんを連れて来させた。
魔王組合員全員が、その元気な愛らしい姿に安堵したあと────
「王都襲撃は大成功よ。死者四十二名、負傷者二十九人──死者、とされているのは全員魔界側メンバー」
「え、意外と多い」
カルミラが資料をめくり、内訳を開示した。
「魔界の『どんぐり歌劇団』から三十一名、事前に潜入させてた分と、私が個人的に指示した七名。裏工作で魔界に亡命した者が四名」
「さすどんぐり」
「ギャラ高そう」
カルミラが勝ち誇ったように高らかに笑った。
「三ページ目を見て?どんぐり歌劇団は、ノーギャラなの」
「おお?」
「──その代わり、わが組合が持っている勇者チャンネルのCM権と深夜の枠を歌劇団に解放したの」
「おー、無駄がない」
「昨日見たァ~!死に様ランキングやってたよォ?」
「さすが演劇団だよなぁ、殺陣めっちゃうまくてやりやすかったぞ」
襲撃犯をやったレスターが、しみじみと呟いた。
(殺陣って!絶対レスター日本出身でしょ)
そのうち、聞いてみよう。
私は真面目そうな顔をして、メモに書き込んだ。
「来月、勇者と悲劇の侍女って演目でレイトショーやるんだって」
「あー、勇者どうよ?」
「落ち込んでるけど、なんかやる気にはなったっぽい」
カルミラが手を振り、全員の視線を戻す。
「ハナちゃんなんだけど──」
ゼグがカルミラの言葉を引き継ぐ。
「これな。ちょっと見てくれ。四アングルからの検証映像だ」
ゼグはスクリーンにハナvsパンジーの映像を映しだした。
開きっぱなしのドアから出てくるハナ。
ちょっと遠くで、うろうろと嗅ぎ回ってるパンジーを発見した映像だ。
「えっ」
「可視化する殺気……?」
「あるよな?白いオーラ」
「聖女だからな」
「オスだしイヌだぞ」
──パンジーちゃんがハナ発見。
「パンジーは……攻撃じゃなくて遊び相手だ!って感じね、これ」
「ここだ」
ゼグは映像をスローにした。
「見てくれ、一瞬でパンジーに到達──」
「縮地だな」
レスターが呟く。
「縮地からの当て身、斬撃」
「あー、パンジーはこの斬撃を躱すのに自分で後ろに飛んだのか」
「さすケルベロス」
パンジーに当て身を食らわせ、足を止めた瞬間に斬撃波。
「武器もないのに斬撃?」
「うーん、衝撃波?」
「ここ──」
ゼグ静止画像にした部分をアップにする。
「この床の抉れかた。間違いなく刃」
「なにこれ怖い」
ゼグが検証画像を出す。
「この角度と床の破損形状からして刃渡り八十cmはある」
「パンジーよく避けたな、これくらったら首が二つくらい飛んでたかも──」
「ノーモーションでってのが」
「聖女、よな?」
「うん、聖女。特殊スキルがサムライ」
「サムライ自体が職業じゃねーの?なんで特殊スキルがサムライなんだよ、おかしいだろ」
「職業聖女なのに、全く回復などの行動が無いのよね」
「どーなってんの?」
「とりあえず──」
カルミラが、少し大きな声を出した。
「ハナの脅威度は一段階上げておきましょうか」
「小型犬だぞ」
「おじいちゃんよ」
「もうちょい検証したいよな」
「情報が足りない」
フレスベルグが呟く。
「犬怖い……マジでさぁ……聖女とサムライ両立ってなんなん?勇者より凶悪じゃんかよ」
その言葉でレスターが資料から視線を上げフレスベルグを見た。
「手合わせした感じ──勇者の剣筋良かったぞ?今は粗削りだが洗練されてきたらかなり手練れになるかと」
「剣聖持ってるからな」
「フレスベルグの鍛練は、レスターとネモが主体の方がいいな」
「えー、俺……魔術師なんだけど」
嫌そうにレスターが文句を言う。
そう、レスターは魔術師だし──魔道具職人でもある。
基本的に『ものづくり』が好きなのだ。
ただ、刀技も凄いってだけで。
ネモは骨だけど重戦士。
ごつい鎧と大剣で戦うスタイル。
カルミラ城に来る時までフルプレートなのは、ケルベロスにかじられるからだ。
カルミラは特に使用人の種族に拘らないがスケルトンだけは居ない。
ケルベロスが齧っちゃうから。
(痛くはないらしいけど、砕かれたら回復に時間がかかるもんねぇ)
ケルベロスはじゃれてるだけみたいだけどスケルトンにしたら死活問題よねぇ……




