王都襲撃☆
──うん。
「美味し」
最近、ミシュティの作るタマゴサンドはものすごく美味しい。
前から美味しかったけど、最近はまさに至高。
勇者チャンネルでは、数匹のケルベロスが解き放たれ、大暴れしている。
《大暴れしていますねぇ、これ人的被害ってどれくらいを想定してるんでしょうか》
《公式発表ではありませんが──投入ケルベロスは全部おとなしめのメスで、襲撃前にお腹いっぱいになってるそうです。人を食べることはなさそうですよ》
(え、メスだけ)
私は画面をガン見した。
いたいた、パンジーちゃん。
居るかもって聞いたら推しケルベロスは探しちゃうわよね。
(可愛い……!)
チラチラ映るレスターは黒尽くめで禍々しくていい感じ。
魔術師だけど、物理的戦闘をするとき……レスターは自作の刀を使う。
確か、妖刀ヴィルレーン……刀身から青白い炎が噴き出す悪そうな見た目の刀だ。
(ヴィルレーンってさ、ノルウェーかどっかの言語で、『村』と『雨』なんだよね……)
レスターとはそういう話はしたことがないけど、どうも転生者っぽい気がするのよねぇ。
妖刀村雨とかさ、まんまじゃん。
(まあ、転生者だとわかって何か変わるわけでもないし……)
《ああっ、ヴィオラちゃんが!》
《花瓶ごと飲みましたね……百合って犬には毒じゃなかったっけ?》
《ケルベロスですから大丈夫とは思いますが、花瓶はダメと思いますね……》
ケルベロスたちはとても楽しそうだ。
メスだから成り立つ匙加減ね。
オスだったらもっと阿鼻叫喚だと思う。
体も大きいし、やっぱりメスよりは闘争本能強いからね。
《二代目魔王だけあってレスター様は魅せて来ますねぇ……》
《しっかり見せ場をカメラ前でこなしてくれるので、安心感ハンパないです》
レスターは騎士たちと派手に斬り合っているけど、気絶させるだけで殺さない。
魔王組合の方針は『出来るだけ死傷者は出さない』だからだ。
私は二本目のワインを開け、興味深くテレビ観戦を続行した。
騎士が吹っ飛び、動かなくなる。
レスターに合わせて、映像も進んでいく。
アクションが再開されるまでは、カルミラがいる後方の様子に視点が変わる。
(生中継のわりには完成度高いわねぇ……あら、パンジーちゃんだわ)
《想定通りに展開されているとのことで、比較的穏やかな本陣ですね》
女王然としたカルミラがアップで映し出される。
王城には入らず、庭園に本陣を設営したらしい。
《そうですね、カルミラ様へのインタビューも行ってますがそこは後日……あれ、ケルベロスが戻ってますね》
《あー、怪我してますね。ハナにやられたとの情報もはいってます!》
《え、ハナちゃんねるでは寝てばっかりなのに!?》
《映像はあるそうなので、ダイジェスト版で真相がわかると思います》
んー、結構酔ってきたな。
こんなに早く酔っぱらうのは久しぶり。
ハナちゃんとケルベロスの戦闘、すごく気になる。
女の子ケルベロスとはいえケルベロスだからね、攻撃性や機動性は犬の比じゃないのに。
「むしろ一番気になるかも……」
黙って見ていると妖刀ヴィルレーンに『斬られた』人物が数人、赤い砂になって消えていく。
画面からだと鑑定出来ないので確証はないけれど、『死ぬ』のは魔界チームの仕込んだ俳優たちだ。
やられたふりして、砂と入れ替わって離脱──
(ヴィルレーンで斬られたら『砂』になる設定なのね……死体も残らないし、いい案だわ)
<勇者はどこだ!>
おお、クライマックスか。
ちょっと頭痛がするわ……もうお水にしておこう。
<魔王軍……!関係ないひとを巻き込むなんて!許さない……!>
ずいぶん顔つきがしっかりしてきた勇者が、聖女と共に現れ、レスターに斬りかかる。
<ふん、そんな剣筋でオレに挑むとは>
大きく振った刀で勇者が吹っ飛んでいく。
聖女がすかさず回復とバフをかけ、カメラ目線でウインクした。
(偽聖女、結構人気出てるらしいから……カメラ目線はファンサ?)
この聖女ジーン、無性の夢魔だけあってものすごく変化が上手い。
変化魔法はこの種族の特性だから上手いのは当たり前だけど、ジーンは特にね。
──レスターと勇者が一時間くらい斬り結んでいる。
徐々に勇者が優勢。
<おのれ、小癪な!!>
仕込んだ魔道具を発動させ、可視出来る青黒いオーラを纏った『名もなき鬼』レスター。
見た目だけ派手な技を放つ。
(ただの花火魔法じゃないの)
<危ないっ!勇者様ーー!!>
勇者のお付き侍女『ルイーゼ』が飛び出す。
『ルイーゼ』が青黒い炎に包まれる。
<ルイーゼェーーーーッ!!>
勇者の絶叫。
勇者の怒りの一閃。
<くっ……オレが負けただと……?>
レスターが大袈裟に倒れこみ、砂になる。
勇者は目もくれず、ルイーゼに駆け寄る。
<ルイーゼ、ルイーゼ……嘘だろ、おい……>
聖女が必死に治癒をかけ──る振りで、『ルイーゼ』と死体役のホムンクルスを入れ換える。
いい感じ(といっていいのだろうか?)に焼け焦げたホムンクルスが、プログラムされた言葉をとぎれとぎれに吐き出す。
<ゆ……しゃさま……生きて……>
<ダメだルイーゼ!嘘だろ、ねえ、本当に……>
<ま……おう……平和を……ま、もって……>
聖女が首を振り、『ルイーゼ』は勇者の腕のなかでサラサラと深紅の砂となってこぼれ落ちた。
<ルイーゼーーーーッ!>
「おおー、感動の名場面じゃないの!フレイアもこれで有名人ねぇ……」
まあ、ルイーゼ役のフレイアはカルミラの侍女だから、人気が出ても困るだろうけど。
私もよくわからないけど、顔が熱いわ。
感動のシーンで興奮しちゃったのかしら。
年を取ると、涙脆くなるってほんとかしらね?
(涙はでないけど、なんか──ドキドキするわぁ)




