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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

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裏社会の困惑②

「状況を整理しましょう。男爵令嬢とあなたのお店の関係性から」


「ええ」


アマンダは煙管から灰を落とし……野太い声で、短い返事を返してきた。


アンバード一家のボス、アマンダの『表の店』

・違法品は取り扱ってない普通の店

・店長以外は一般人(バイト)

・アクセサリーの方には副店長もいて、この人物はアンバード一家の構成員。


アクセサリー店はちょっと高額品もある。

幾つかある『表の店』で構成員やそれを知らない家族、なにも知らない家族が買い物をすることによって資金洗浄を行っている、と。

『表の店』の仕入れルートは、アンバード一家の直接介入はない。


「全部の資金洗浄は無理だけどね?」


アマンダは確認事項に、大仰に頷いた。


「調べられても極めて普通の店、ということね」


「そうなのよ」


・ピンク髪が焼き菓子屋に求めているもの。

・違法薬剤混入の焼き菓子

・違法スレスレまたはアウトレベルの付与アクセサリー(魅了を希望)


私は書き出したメモをみて補足を付け足した。

・『表の店』とは無関係だが、ピンク髪は店の符丁だと思って頻繁にそのワードを出す。

・構成員へ接触などの──裏の動線には未到達。

・ピンク髪は『依頼』ではなく、必ずそれが店に有るものだという認識で符丁を言っている。あるでしょ?だせ……、と言いにきている。


「こんな感じ?」


「ああ、書くとわかりやすいわね。とにかくしつこくて、話しにならないみたいなのよ。それで──」


アマンダが私を呼んだのは、魅了付与の為だった。


「もうね、本当にしつこくて。違法にならないギリギリの安物アクセサリーをさ、店とは関係のないルートでくれてやろうか?と思ってるくらい」



アマンダの深い深い溜め息が、響いた。


軍人のようなマッチョさ……実に素晴らしい筋肉だ。

顔立ちは良い──厚化粧だけど。

髪はゴージャスな金髪だけど、前回と寸分たがわぬカールを見せていることから……カツラだ、多分。

太い指の親指以外にはギラギラした大粒の宝石。

正統派のオネエ。


そんな彼女?がピンク髪に悩んでるのが妙に面白い。


「おそらく」


私は慎重に情報を開示した。


「その男爵令嬢、物語没入タイプの転生者なのよ」


「……ただの転生者じゃないってこと?」


「転生者にもタイプがあるのよ」


私は一冊の本をアマンダに手渡した。

題名は『転生者の背景及び分類/分類別考察』


「あら。本当に根拠のある話なの?」


「あくまでも仮説だけどね。この本によると、転生者には二つのタイプがある」


アマンダは豪奢な玉座風のソファから立ち上がり、優雅に座り直した。


「ほぼ九割以上は前世の記憶が無いか──幼少期にうっすらある程度で、忘れちゃう層ね。普通の人と何らかわりはないの」


「ふうん?」


「残りの一部ね。これが記憶保持タイプで、記憶があっても特になにもせず生活してる。発明品作ったりはしてるけども」


「ああ、突拍子もない発明品は転生者か転移者が多いって聞いたことあるわね」


アマンダは人を呼び、ワインと軽食を持ってこさせた。


「さあ続けてちょうだい」


「過去に数例だけ、特殊な転生をしてる者がいる。この細分化された稀有な例のひとつが、物語没入型ね」


「なるほど」


「科学的根拠を追求すると、一晩じゃ済まないから簡潔に言うけど……このタイプは、元々自分がいた世界にあった娯楽の『物語』とこっちの世界を同じだと思って行動する」


「そんなわけ無いでしょ」


「普通はそう。だけど、面白いことに──こっちの現実が個人名から事象まで『物語』と同じなのよ」


「そんなことって」


アマンダは長い脚を組み換え、煙管から灰を落として向き直った。


「物語が予言書なのか、こっちから転移した人が作った『物語』なのか、はたまた偶然の産物かは……未だ論争が繰り広げられてる」


私は、ワイングラスの横に添えられていた水を飲んだ。


「件の男爵令嬢は──この世界を自分が知ってる『物語』だと思って動いてると思う──ここは現実世界で、まるっきり同じだとは限らないのに」


「つまり──男爵令嬢は、現実を自分の物語だと思い込んで、その通りに動いてる……?」


アマンダは訝しげな顔をして、指を組んだ。


(理解しがたい話よねえ)


「そういうこと。おそらく物語の中では、そこで都合の良いアイテムが買えたから。符丁も作中に出てきたんじゃない?使い所がわからなかっただけで」


「納得いかないけど──荒唐無稽と言い切るには、つじつま合っちゃってるのよね」


私は言葉を続けた。


「多分、から出られないけどほぼ間違いないと思う。だから、符丁は変更して──お店は知らぬ存ぜぬを主張して警らを呼ぶ、のが一番安全で最適解よ」


さり、という音を立ててアマンダがクラッカーを食べている。

暫くして、ようやく口を開く。


「つまり──放置で良いってこと?」


「ええ。狂人に困惑する善良なお店、のままで。その本差し上げるわ。最後の方に物語没入型は大抵自滅していくって書いてある」


私は優雅にグラスを掲げ、アマンダを真似てウインクした。

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