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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

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多重付与


「──じゃあ、何を付与するか決めましょうか」


「うーむ。基本の三つは弱点補強で物理耐性と長所を売り出す魔法耐性……もうひとつはレア付与を持ってくるか、堅実に軽量化か属性耐性か」


私は盾に触れながら、提案した。


「レア付与の方向なら──魔臓活性で魔力回復促進、あとは精神干渉耐性とか、即死回避とかですね。即死回避は発動したら盾が割れちゃうけど」


レア付与は、付与術師によって変わってくる。

私はほぼ何でも付けられるけど、エイプリルの設定だと上記三つにしてある。

何でも、はあまりに異質すぎるから。


「またいいレア持ってるねぇ……これは悩む」


親方と職人リーダー数人が相談を始める。

売値に直結するから当たり前ね。


(私は失敗なんてしないし、もっと良いのを割引で付けてあげても良いんだけど。それやっちゃうと価格破壊が起きたり、他の付与術師の営業妨害になっちゃうから……やっぱり相場通り、にするしかないのよね)


「よし、付与三つのは物理耐性、魔法耐性、魔臓活性で。付与四つにはプラスで精神干渉耐性を。最後の五重付与は、付与作業中に相談しとく」


九枚の盾の付与は、術師の平均的な時間を考慮してゆっくりめに完成させた。

目をあげると、まだ相談は続いている。


「全属性耐性とかロマン」


「魔法耐性五重とか」


「いやいや、ロマンに走ると買い手が──」


「買い手は王都の貴族だぞ?見栄え優先のバカならロマン路線でも売れるかもしれねぇ」


「金か、ロマンか」


会議?は紛糾していたが、親方が私が作業を終わらせていることに気が付いた。


「これが四重付与か……」


「よくよく考えたら、三重以上ってまずないもんなぁ」


「となると──」


「付与術師さんのオススメは!?」


(え、結局私に聞くの?)


職人達の期待に満ちた眼差し。

私は咳払いをして、提案を始めた。


「オススメはミスリルが魔法金属なので、自己修復ですね」


「ああ!それがあったな!」


「自己修復は良いよな、凄くいい」


「五重を実戦で使うとなると当然持ち主は高魔力保持者という想定になるので『販売』目的なら魔臓活性もあるといいですね」


「なるほど……」


私は盾に手を置きながら、ゆっくりと言葉を選んだ。


「──自己修復は地味に思われがちですが、実際の戦場では命を救う能力ですよ。ヒビが入った瞬間に塞がるだけで、前線での継戦能力が段違いになります」


職人たちが真剣な顔で頷く。

親方も腕を組み、考え込むように目を細めた。


「ただし、自己修復は発動に魔力を消費します。持ち主が高魔力保持者でないと、宝の持ち腐れになってしまう。ですから──魔臓活性を組み合わせることで、自己修復が継続的に働く仕組みに出来るんです」


「おお……!組み合わせか」


「確かに、それなら実用的だ」


「魔臓活性で回復した魔力が自己修復に回れば、盾が勝手に『持ち主に合わせて長持ちする』わけか」


親方は笑いながら手を打った。


「よし、それだ!──五重は《物理耐性・魔法耐性・魔臓活性・精神干渉耐性・自己修復》でいこう!」


工房の空気が一気に明るくなる。


「最高傑作じゃねぇか!」


「売れるぞこれは!」


「いや売る前に俺が欲しい!」


「おまえ戦えないじゃねーか!」


わいわいと盛り上がる職人たちを見ながら、私は心の中で小さく笑った。


「では、作業に入りましょうか」


ミスリルの基本属性は、光と聖。

もちろんただの金属だから、極微弱な属性だ。

付与の通りを滑らかにするため、三重以上は触媒を使う方が確実だ。


(まあ、無くてもいけるけど──『ちょっと有能』レベルのエイプリルならば、触媒は絶対使うべきね)


光茸のエキス、山頂の山で採取した聖ネズミの胆。

これを魔力水で練り、薄めて……丁寧に盾に塗りつけていく。


繊細な魔方陣が重ねられていく。

一重、二重……丁寧に。

周囲の職人たちが固唾を飲む中、私は正確に魔力を流し込んだ。

何万回やったかもわからない作業だ。

でも私以外はとても緊張している。


重なる度に仄かに輝く盾。

派手な演出も、耳を劈く轟音もない。

付与は地味な作業なのだ。

五重目は、わざと時間をかけて仕上げる。


「……終わりです」


私軽く埃を払うような仕草で盾を撫でた。

誰も言葉を紡がない。

工房の空気は、ある意味凍り付いていた。

やがて、親方が震える手で盾に触れ──ぽつりと呟いた。


「……逸品だ」


「うふ。上手くいって良かったです」


私は、追加分と成功報酬で白金貨を三枚ゲットした。

付与は儲かる。


(ただ、やり過ぎると権力者に捕まって吸い尽くされるから……程々に、ね)


──さ、帰って準備してオネエの所に行かなくては。

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