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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

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北方へ


──進捗会議から数日後。


『エイプリル』は魔術ギルド依頼書を眺めている。

王国内は国民証さえあれば比較的どこでも自由に行き来出来るのだけど──王都の北門から北の地域に出るには、そこそこきちんとした検閲があるからだ。

初回は『もっともな理由』が必要。


(依頼を受けて門を通るのが一番手っ取り早いのよね)


変異の調査系を避けて、普段通りの付与の仕事がいい。

北部の依頼は、紙の色がちょっと黒っぽく差別化されている。


【武具への付与】

増産分の武具への付与。

量が多いので、大量付与可能な付与魔術師希望。

報酬白金貨一枚交通費及び宿泊費込み

期間:二日で想定。


(……これなら合法的に北部に行けるわね)


依頼票を取って、受付へ。

四つある窓口のうち、ひとつだけ妙に長い列が出来ている。

目で追っていくと、ほとんどが男性。

窓口の受付嬢はグラマラスで優しそうな美女。


(仕事が出来るというよりは受付嬢自体の人気の列ね。違う列にしとこ)


ちょっと眺めていると、サクサク進んでる列があったので男性が受付の列に並んだ。


(仕事以外の要素は求めてないから、効率的な方がいいわ)


「北部へ出るのは初めてですか?」


「はい」


「元々北部の住民じゃない場合、初回は審査があります」


「審査?」


「はい、ええと……不穏分子との関わりが無いかどうかですね。平定はされていますが終戦後も時々小競り合いが起きてるので」


「なるほど」


「身内や交遊関係に北方の旧貴族家や、指名手配のレジスタンスやその家族と関わりがあるとアウトです」


「へぇ、そうなんですね」


「ご出身は南方の農村のようですし、経歴に瑕疵もない──まあ、旧時代の慣習みたいなものです。国民証の裏に、魔術ギルドの通行許可印を押しますね」


場所は、北門から馬車で2時間程度の鉱山。

麓の町にある武器工房。

やはり勇者降臨を背景に、武具や装飾品の特需が起きているそうで。


「かなり北の方になりますが、魔術師ギルド唯一の支部もあるので北で活動してる魔術師は結構いるんですよ」


受付はサクサクと終わり、豆知識も仕入れたので私は満足して魔術ギルドを出た。

驚いたのは先日、フランツの事を思い出したからなのか、北門から鉱山まで行く馬車で偶然にも乗り合わせたこと。


「エイプリル、相変わらず美人だなぁ!鉱山まで何しに行くんだ?」


「仕事に決まってるでしょ」


フランツは正面に誰もいないのを良いことに、足を投げ出した。


「ふう。俺は文房具の納品!」


「鉱山に?」


「ジェロ鉱山は新しい鉱山だから、町も大きいんだよ。学校もあるから」


「ああ、学校。なら文房具は絶対よね」


「そそ!宿は決まってる?まだならオレの紹介って言ってクローブ亭に行くといいよ。ちょっと割高だけど個室だし、女性向きだから」


(転移で行き来するつもりだったけど……接触してしまった以上は、ちゃんと泊まった方が無難ね……)


「そう?ならお言葉に甘えるわ」


フランツは垂れ目をますます下げて、嬉しそうに笑った。


「夕飯、奢るよ──ちょっと相談もあるし!」


「厄介事は嫌よ」


「手厳しい!そうそう、勇者の話聞いた?まだ15歳くらいらしいよ──」


鉱山までの二時間、フランツの話を聞いていたらあっという間だった。

色々思うところはあるが、この男は本当に話術が優れているのだ。

『相談』がなにかはわからないが、話によっては少々危ない橋を渡ってもかまわない。

エイプリルはその為の擬装なのだから。


馬車を降り、フランツと別れたあと。

途中にあった『クローブ亭』で宿の手配をして。

工房は、より鉱山に近い場所ということで──町外れの鉱山入り口の方まで坂道を歩いていく。


(なるほど、鉱山直結型工房、店舗無し──卸しなのかしら。規模が大きいのか、扱ってる品目が多いのか)


「こんにちはー、魔術師ギルドから来ましたー」


能天気そうに、朗らかに大声で挨拶をする。

だって大声を出さないと、工房の騒音で聞いて貰えなさそうなんだもの。


すぐ近くで、炭を運んでいた男性が足を止めてくれた。


「付与の人かい?」


「はい!付与術師です!」


男性が両手を上げて、吠えた。


「うおおおお!助かったぁ!昨日の今日で来て貰えるとは!!」


工房中から怒号のような歓声が上がり騒音をかき消して、うねるように歓迎の意が満ち溢れた。

来ただけでこんなに喜ばれたのは、初めてかもしれない。


「聞いてくれよ、もう倉庫入りきらないんだよ!付与がないと出荷出来ないし──前任者は五日魔熱でダウンしちゃってて!」


「大人の五日魔熱?珍しい」


「だよな?なんだか大人になってかかると重症になるらしくてよ」


周囲のマッチョ達がブンブンと頷いた。


「ヤツは三日後から出勤だけど、今ある武具が今夜ある程度出荷出来ないと契約違反になる」


「なるほど。その分を私が付与するわけですね」


「いやー、助かったよ!炉を止めちまうと再点火は一月かかるし、かといって作らないのに熱し続けるのは大赤字だし──」


(五日魔熱は水疱瘡と同じなのよね、大人だとしんどい……)


「OK、じゃあちゃっちゃとやっちゃいましょうか」


「助かった!おい、おまえ付与術師さんを倉庫に案内して説明しとけ」


炭を運んでいた男性は、どうやら責任者だったようだ。

指示された見習いらしき少年が、笑顔で私を案内してくれた。


(体育会系だけど、みんな笑顔で楽しそうな職場ね)




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