第二回進捗会議
「第二回進捗会議を始めます」
今日は艶やかな黒髪のカルミラが、静かに開会を告げた。
「全員、一個目のノルマは達成したようね?ティティとゼグは二つクリア済み」
「王都どうなってるん」
「情報収集はしっかりやってるわよ?王城にはメイド四名、文官二名が潜入してるし」
「そんなに!?王城ダイジョブそ?」
「ザル過ぎんだろ……」
「街中や周辺都市に、数百名」
「多い多い!」
「王家側の情報は二ページ目からよ。ハナはサプリメント効果で関節が劇的に改善──走れるようになってる」
「おおー」
「良かったわねぇ」
紙をめくる音が響く。
「勇者の方は、パーティメンバーが揃ってないみたい。現在タンクと後衛を選考中っぽいわ」
「あれ、攻撃は勇者だけ?」
「いえ、第五王子が加入してる」
(団長!?嘘でしょ)
「第五王子?ああ、ジューンと踊ってた金髪?」
「そうそう。どうなの、ジューン?選抜されるくらいだから強いわよね?」
私は紅茶をひとくちのんでから、スタンピード時の記憶を掘り起こした。
「氷属性でおそらく王家由来の固有魔法持ち。人間にしては強いと思うわ。変異体っぽいフェンリルと契約中だから、連携も嫌な感じだと思う」
「いいねえ」
「イケメンも需要あるから」
私はちょっと考えてから、大事そうなことを捕捉した。
「問題があるとしたら、そのフェンリルね。ペロティの息子だから、私は勇者パーティに近づけない」
「ペロティって、ジューンちゃんちの犬だよねェ?」
「あー、ジューン経由のフェンリルかー。そりゃ鼻が利くから絶対気付くよな」
「変異体って?」
「氷に加えて雷属性持ちなのよ、ニーヴって名前なんだけど。」
「ってことは、王子も雷使ってくる感じか」
「そうなるわね」
フレスベルグが困ったように呟いた。
「雷も氷も耐性あるからいいんだけどさぁ……犬苦手なんだよなぁ」
「ハナも犬だぞ」
「なんで今回だけ犬まで来るんだよぉ……」
「犬二匹くらいどうにでもなるだろ。俺の時なんてレイド戦にされたんだからな」
「レスターの時は仕方ないでしょ、仕込み段階で暴れすぎてたんだから」
「フタを開けてみたら、討伐隊が四百人いたとか笑ったわ」
「レイドはレイドで難しいんだぞ!トドメは勇者にさせないといけないし、随所で見せ場を作りながらやらなきゃいけないんだから」
「あら。見応えはあったわよ?第三形態ほんとイケてたわ」
「人数多いと難しいよねェ?」
「ハナの特殊スキル『サムライ』が不確定要素過ぎるよね」
「聖女なのにサムライって、ほんとなんなの」
「そもそも犬だし、オスだし?」
ネモが編み上がったセーターをテーブルに並べた。
「まあ、追加の偽聖女がこちら側の人材であるというのは、安心材料ではあるな。このセーターは偽聖女殿に渡しておいてもらおうか」
「一旦私が預かるわ。近日中にジーンが報告に来るから」
カルミラがセーターを受け取り、丁寧にしまいこんだ。
「ジーンってさァ、てか夢魔ってめっちゃ変化すごいよねェ?あんな可愛い聖女に化けるとか!」
「夢魔は無性であるからして、どちらの姿も秀逸であるな」
「そもそも夢魔の変化は種族魔法だから、真似出来ないしな」
その時、カルミラがなにかに気がついて実に嫌そうな顔をした。
わずかに眉間にシワを寄せ、不機嫌そうなこえを出すカルミラ。
「ジューンは勇者パーティ干渉できない」
「そうね」
「そうだな」
「ネモは骨、ゼグは巨人、ティティはおチビさん。フレスベルグは魔王だから論外だし、セレナは人魚だから時間制限があると」
「そうね」
「そうなると、接触の必要が出た場合……私かレスターしかいないじゃないの!私、五千年くらい魔界から出てないんだけど」
「めっちゃ引きこもりじゃん」
「レスターはァ~?」
「俺?俺は素材回収であちこち行ってるぞ。角さえ隠せば問題ないし」
「で、勇者の様子なんだけど。どうもすごく平和な世界から来てるっぽいし、すぐ王家に保護されたから危険な目にもあってない」
セレナがページをめくり、読み上げる。
「ホントね!やる気はあるが、覚悟が無いように見受けるって報告にある」
フレスベルグが頷いた。
「そりゃな、あの世界の勇者の出身地は戦争なんて無いからなぁ」
「まあ、近々王都を襲うから」
「引きこもり脱却か!」
「煩いわね!出るわよ、ちゃんと!」
カルミラがプリプリと怒り出した。
レスターがどうでも良さそうに口を開いた。
「そういえばよ、魔王増やすんだろー?」
「あ、そうそう!私から幻魔族の青年を推薦するわ!イケメンよ?」
ティティが歓声を上げた。
「イケメン!イケメン!」
私は手を上げて、注目を集めた。
「私からはミシュティを推薦するわ」




