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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

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ノルマその①達成


「古龍を間近で見るのは初めてです」


──今、私とミシュティは手分けしてポチにデッキブラシをかけている。

数百年ぶりに見るポチ、鱗の間に苔やら砂がみっちり詰まっていたからだ。


「ジューン様、この子はあんまり自分のボディケアに興味が無さそうですわ」


「そうなの。ガサツに育っちゃって」


「ポチさん。ひよこ島に来れば、いつでも綺麗にして差し上げますから──背中に雑草なんか生やしちゃダメですよ」


ミシュティに言い聞かされているポチは、眉間の雑草を引っこ抜かれ、気持ち良さそうに鮮やかなエメラルドの眼を細めている。

龍は喋らないけど、こっちの言ってることはわかってるのだ。

これからは、きっとひよこ島にも来るだろう。

島に名前をつけたのは最近だけど、島自体はしってるからね。


「あっ、雑草と思ったら龍涎草ですわね」


ミシュティが嬉しそうに採取した草をしまいこんでいる。

数時間かけてブラッシングを終え、鍋と魔方陣を撤去した頃にはすっかりお昼になっていた。


私はポチに、二、三日周辺を飛び回るよう言い聞かせた。

芋の前払いもしてある。


ピッカピカに磨き上げられ、機嫌の良さそうなポチは悠々と飛び立った。

周辺の木はまた薙ぎ倒されたが、物的被害は最小限だったと思う。


「王都周辺を古龍が飛んでたら、大騒ぎですわね」


「ふふ、本人は遊んでるだけだけどね?今夜はゴフマ村の畑を焼くから──焼く前に薬草は全部引っこ抜くわよ」


「お供しますわ!」


(一時的な被害はあるけど、種子は多めに保存してあるの確認済みだし……申し訳ないけど、ノルマはゴフマ村で達成させていただくわ)


ひよこ島でのんびり夕食を取りながら、ミシュティの北側探索の進捗を聞く。

幾つか候補はピックアップしてあるという。

ゴフマ村が終わったら、そっちに着手しないとね。


──その夜。

私は、寝静まったゴフマ村の薬草畑に立っていた。

時間が遅いので空気は冷たく、肌を刺す。

一応サーチでチェックしたら、起きてる村民もいるけれど室内に留まっているようだ。


「……さて。ノルマを果たすわよ。っと、その前に──」


焼く予定の畑の薬草を根っこごと引っこ抜き、時空庫へ。


畑に向かって指先を軽く払う。瞬間、黒炎が広がった。

実際には畑だけを的確に炙るよう、炎はきっちり調整してある。

人家には一切燃え移らない。


だが──村人たちには、そんな親切心は見えない。

私が編んだ幻覚が、彼らの視界に「魔物が畑を蹂躙している」ように映っているのだから。


ゴオオオオオッ!!


夜闇を切り裂く咆哮。

幻影の巨獣が黒煙の中から姿を現す。

輪郭は曖昧にぼやけ、炎と影が絡み合って蠢く。狼にも龍にも見える、不気味な黒い巨影。


《ぐおおおおおおおん……!》


地鳴りのような幻音が村を揺らす。

村人たちの叫びが重なる。


「魔王軍だ!」


「やっぱり来たんだ!」


魔物の幻影は畑をなぎ払い、炎をまき散らしながら山頂へと駆け上がっていく。

わざと山頂の御神木の方向に。

──あの「凶兆」の言い伝えをさらに煽ってやるためだ。


炎に照らされ、赤々と光る幻獣の両眼が最後に振り返った。

次の瞬間、轟音とともに姿は煙の中へ溶け、山の闇に消える。


……実際に残ったのは、焼け焦げた薬草畑と山頂までのルート焼け焦げだけ。

だが村人たちには、確かに「魔王の使いが通り過ぎた」光景として刻まれただろう。


私は炎の残滓を見下ろし、くすりと笑った。


「ふふ……人的被害ゼロ、恐怖は最大。完璧ね」


──ノルマ達成。


ちなみに『魔王軍』は実体があるよう見せかけたものでない。

やってやれないことはないけど、今回は『記憶の曖昧さ』を利用したかったから簡単に説明すると、集団催眠だ。

改竄された記憶、その曖昧な隙間に現実で焼けている畑。

だいたい『見た、聞いた』ものは同じだけど細かい部分は個人差が出る。

もし王都から調査が入れば、時間が経てば経つほど個々の聞き取りに差が出て混乱するってわけ。


私は達成感に包まれ、満足してひよこ島の温泉でのんびり骨休めをした。


五日くらいして、夕方にひよこ島の屋敷の外で大音響が響き渡った。

さすがに驚いて外に出ると、自慢の湯殿が全壊していた。


温泉に尻尾だけ浸かっている、満足そうなポチ。


「ポチ──あなたには狭すぎるわ……」


いつの間にか横に来ていたミシュティが、呟いた。


「ポチさん用の温泉が早急に必要ですわね……」



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ポチちゃんガサツすぎて草
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