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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

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『異変』は作るもの


入念に山を歩き回ること、十日。

野営は面倒なので転移で行き来した。

なので、しっかり休めているし体力的には問題はない。


山の中腹にある集落には八名、山頂付近の集落には六名の人間と獣人が住んでいるようだった。


(どちらも、年配者ばかり──限界集落ね)


ゴフマ村で聞いた話では、昔はもっと集落の数が多かったらしい。

どの世界でも同じようで、生活が過酷な場所からはどんどん若者がいなくなるものだから。

──滞在中話した村民には山での暮らしを諦め、ゴフマ村に降りてきた人も多かったしね。


山には炭焼き小屋もあったので、良質な炭もゴフマ村周辺の特産なのかもしれない。

どうしてどうして──一筋縄ではいかない強い村だ。


そうそう。

ミシュティご執心の『万年木天蓼』は、山頂付近で発見した。

猫科獣人や魔物、猫型妖精のケット・シーが大好きなマタタビ。

しかも万年木天蓼は、香りも効能も抜群に良いらしい。

滅多に見つからず出回ることも少ないので激レアのマタタビだ。

……ケット・シーのミシュティが欲しがるのは、当たり前。


(というか。万年、というだけあって想像よりゴツイわね……)


万年木天蓼は──竜樹という巨木に絡み付いている。

つる性の植物だけれど、一本一本がやたら太い。

太いものは、私の腕くらいありそうだ。


「うーん、抜くには竜樹に絡まり過ぎてる」


結局、面倒が勝って土魔法で竜樹ごと万年木天蓼を引っこ抜き、時空庫に。


(ひよこ島に植え替えればいいかな……植物魔法で補助してやれば、ちゃんと根付くと思うし)


そもそも、つる性植物は生命力が強いし竜樹も気難しい木ではないからね。

名前自体……竜のように丈夫に育つ木ってのが由来だし。

まあ、お世話はミシュティが喜んでやるんじゃないかな。


山頂の集落に、姿を消したまま入り込んで数回情報収集。

この集落は『御神木』である樹木を中心に形成されており、住民の雑談を盗み聞きしたところによると。


曰く、『御神木』が風もないのに大きく揺れ続けるのは凶の兆し──。らしい。


まあ、数日風魔法で揺らしたよね。

住民達は不安になったようで、中腹の集落とゴフマ村へ避難していった。


(なんだか迷信みたいに話してたけど──まあ実際は、地盤の水脈が緩んで根っこが浮いてただけ。地滑りの前触れ、ってやつね。言い伝えとしては理にかなってるけど──事実を知らない村人には『御神木からのメッセージ』に見えるのね)


実際、サーチして見たら根の方は半分以上水脈に干渉していて、不安定だった。


(うーん、焼き払うのは簡単なんだけど。慌てて出ていった人達が持ち出せなかった物まで焼いちゃうのは……)


恨みがあるわけでもない、単なるノルマなのだ。

わざわざ誰かを傷付ける必要は無いだろう。

山頂集落で、『凶兆』があったという事実さえあればゴフマ村に被害を与えた時に、効いてくるだろうし。


誰かが戻ってきた時の保険として『御神木』の枝数ヵ所に風核を設置して、私がいなくても揺れるように細工。

中腹の村に移動して、隠密で雑談を拾っていく。

山歩きから諜報活動、もう十五日は経っているかな?


ミシュティとは夜に進捗報告し合っているけれど、いい感じで進んでいると思う。

今日ミシュティが王都で仕入れてきた情報によると──王都の水が匂う、色もおかしいという苦情が相次いでて、水源地まで調査隊が組まれたみたい。


「ティティ様の『イタズラ』ですわね」


「色が付いて、くっさい水になるって話だったものね」


私とミシュティは顔を見合せて、クスクス笑った。


「ジューン様。王都は本当に臭かったですわ。水ってどこにでもあるから、そこら中が匂うことになるのですねぇ……」


「地味にダメージ大きそうよねぇ?私も明日、中腹の集落井戸にコレ入れる予定だけど」


私は茶色い素朴な小瓶を、ミシュティの目の前で振って見せた。


「それは──?」


「ふふ、紫露の実の絞り汁」


「ああ!紫露。盲点でしたわ、確かに物凄い危機感煽れそうですわね」


「でしょう?大量にあれば王都中に使えるけど、あいにくこれしか持ってなくて。でも集落にあるのは井戸一基だけだし、いいかなって」


「井戸ひとつに全部は多すぎるんじゃ……」


「数日効果が欲しいから、時間差で溶けて染み出すカプセルにいれておくつもり」


「無害とはいえ、人間界には出回ってない植物ですし、原因不明の井戸水の異変は必然的に避難になりそうですわね」


そうなのだ。

魔界にある、紫露草という雑草がつける実の絞り汁は無色透明で、無臭。


(だけど、少量であり得ないくらい苦いのよね。魔界では誤飲防止とかで良く使われてる汁だけど)


「何故ジューン様が、絞り汁なんて持ってらっしゃるのです?苦いだけで全く使い道がないのに」


ミシュティが不思議そうに言った。

私は意地悪そうな笑顔を浮かべ、こう答えた。


「うふ、フレスベルグに使ったの」


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