山歩き
さて──。
一つ目はゴフマ村の薬素材の破壊活動。
二つ目はどうしようかしら。
二頭の魔馬をシャンプーしている最中のミシュティに、尋ねてみた。
「いい案ある?」
水魔法でユーニウスに温水をかけながら、ミシュティは答えた。
「貴族子女の誘拐とか、どうでしょう」
「ありっちゃありよね。何故、という動機は必要そうだけど」
「そうですわね。でも下準備が……今回みたいに急なことだと」
ユーニウスが盛大に水をはね散らかした。
私もミシュティも、ずぶ濡れだ。
「ちょっと!わざとね?ユーニウス──ほんとにねぇ、時間が」
「でしたら、地方の貧困集落なんてどうでしょう?数人しかいない感じの村を探して、全員魔界に移住していただいて。空になった村はいかにも魔王軍に襲われたって感じに派手に破壊しちゃうとか……」
「悪くないわね」
「なら──ジューン様がゴフマ村に対応してる間に、私がちょうど良さそうな村を調査、ピックアップ致しますわ」
「そうねえ、気は進まないけど。欲しがってた素材は燃やす前に引っこ抜いて来てあげるわ」
「まあ!嬉しいです」
既に季節は寒期。
私も手伝って、馬たちを乾かして屋敷に着替えに戻る。
今回はミシュティが熱々のココアを持ってきた時に、同席させた。
身体が冷えてたらいけないものね。
(公私混同は良くないんだろうけどね。まあ、ミシュティは図々しい性格じゃないから──たまにはいいでしょう)
「あら?ラム酒を入れたのね、美味しい。ちゃんと練ったココアって美味しいわねぇ」
「香り付け程度ですが……」
「華やかな大人のココアって感じね。私は好きだわ」
ふんわり薫る、ラム酒の香。
甘さはほぼなしの、ビターテイストだ。
「ミシュティ、村を探し回るなら──王都から北側を。北に行けば行くほど、魔界に移動してくれる可能性が高いわ」
「北……火種があるというお話でしたわね?不勉強なもので、亡国『ローラン』最後の王女が、アルシアの正妃って位しか知らないのですが」
「そうね。私も詳しくはないんだけど──北には面白い迷宮があって、そこにはいずれ行ってみたいと思ってるの」
ミシュティは、ちょっと考えてから小声で呟いた。
「では、いずれ北側に拠点が必要ですわね?」
「そうなるわね。もう王族には関わらないで拠点を確保かしらね……」
「首輪が付くのは厄介ですものね。私は明日から北の方にも転移出来るように……あちこち行ってみますわ」
『二つ目のノルマ』はミシュティに調査をお願い出来たので、ゴフマ村に集中しなくちゃね。
私はアレコレ脳内でシミュレーションを開始した。
(タイミングよねぇ……ちょっと他のメンバーが騒ぎを起こしてる間がベスト)
この世界には四季がないけれど、今は寒期の最初の方で──色々な作物が収穫期を迎えている。
いきなりゴフマ村になにか仕掛けるよりは、周辺の山村集落を調査すべきかな。
私は立ち上がり、屋敷の外で波の音を聞きながらしばらく思索に耽り、当面の予定を決めた。
「騒ぎが起きるまでは、調査一択ね」
独り言なので、もちろん返事はない。
寄せては返す波の音だけだ。
(エイプリルで王都の情報チェックしつつ、山の探索──『ジューン』は魔馬で辺境へ戻ってる途中、ということで)
この日から私は、ちょいちょいゴフマ村ヘ隠密魔法で隠れながら、何度も訪れた。
村の北側は、山への傾斜の高い細道や獣道が交差しており、しばらく眺めていれば遠くで炊事の煙が上がっているのがみて取れる。
(山の集落は二つ──東中腹と、南東頂上付近ね……とりあえず山歩きだわ)
ゴフマ村までは転移で来たし、山も探索してれば転移ポイントが決められる。
幸い天候は晴れだし、暑くもない。
枯れ枝を踏んで音を立てないよう、私は浮揚魔法を応用して、地面に体重がかからないよう気を付けて周囲を見て歩く。
(なんだか採集ツアーみたいねぇ……)
昔、興味があって薬師学を学んだことがある。
──最近の技術や知識は図書館で見ただけ。
(付け焼き刃だけどね~)
それでも、龍の墓所を抱えるこの山の素材が一風変わった性質を持ち、豊かなのはわかる。
どれも極々微量ながら、龍気を感じる。
「うーん、微弱過ぎてアレだけども……多分、聖属性と光属性の古龍」
二龍それか、一匹で複数属性かな……。




