秘密の女子会①
──魔王組合の「女子会」は、カルミラ城のサロンにて開幕した。
「女子会、はじめまぁす!」
陽気に音頭を取ったのは人魚のセレナ。
エメラルドグリーンのロングヘアに、藍色の瞳。
真珠色に煌めく魚体を持つ美しいマーメイドだ。
ちなみに彼女の上半身は長袖の水着姿。
(……こっちのマーメイドはちゃんと服を着てるのよねぇ。まあ、裸同然だと怪我も怖いし。魚部分は結局むき出しだけど)
集まった顔ぶれは──
・わたしと、メイドのミシュティ。
・城主カルミラと、メイドのフレイア。
・妖精ティティ。
・人魚のセレナ。
・そして、二頭のケルベロス姉妹、パンジーとアイリス。
「今日はフレイアもよろしくね」
「ああ、勇者の?」
「そうそう」
「フレイア昔からいるじゃん!わざわざ紹介しなくても、知ってるのにィ?」
「ティティ、こういうのは様式美よ……」
今日は真っ赤な赤毛のカルミラが、笑いながら侍女を手招きした。
……カルミラの背後に静かに佇んでいたフレイアが、しずしずと前に出て礼をとる。
このフレイア、先の進捗会議で話題になった勇者付きの侍女『ルイーゼ』でもある。
──潜入作戦に抜擢されたのは有能さはもちろんだけれど、外見によるところも大きかった。
小柄で華奢、なのにグラマラス。
栗色の豊かな巻き毛に、幼子のような丸い榛色の瞳。
実年齢はハ十歳を越えているが、見た目は人間の十五歳未満って感じ。
顔の系統は、美人と言うより愛くるしい。
(ピンク髪系の顔よねぇ。幼くて、庇護欲をそそるってヤツ?表情豊かで可愛らしい。まさに一部の日本人男性の理想にピッタリ!)
「親が片方悪魔族だから、若く見えるし。種族もれっきとした人間だからよ」
フレイアは無表情のまま再度頭を下げ、後ろに下がった。
見た目とは違って、彼女は無口で物静かなのだ。
「ね、可愛いでしょう」
カルミラは改めて抜擢理由を開示して、ウインクした。
(ハーフは必ずどっちかの種族になるけど、寿命はちょっと影響受けるのよね)
人間の寿命は、平均百二十歳くらいだけど。
片方が悪魔族なら『人間』として生まれても、四百年位は寿命があるかも。
(──ハーフに寿命の話は禁物だけど)
「でね、わたしのノルマは王都襲撃からの、『ルイーゼ』の劇的な死亡」
「あー、勇者を庇って……みたいな?」
「そう」
「それは視聴率上がりそう……!」
カルミラは満足そうに頷いた。
「私はねェ~、王都の水源地に赤紫の色付ける!」
ティティがドヤ顔で宣言した。
「え、毒?」
「ううん、毒だと誰か死んじゃうかもだから~色だけェ!あ、でもォ~超臭くなる!」
「うふ、王都中が臭うとか中々えげつないわね」
「んーとォ、十日くらいね?」
セレナが笑い過ぎて、水槽の水を尾で撒き散らし、自分のノルマを発表。
「私は海を大荒れにして、海路封鎖ね。三週間程度を想定してる」
「良いわねえ」
「ジューンはなにやるの?」
「私は王国の流通……医療系のアイテムを滞らせる予定よ」
その時、スクリーンにミシュティの姿が大映しになった。
「!?」
《勇者お披露目パーティ、特番は──こちら……魔界王立家政学院 の伝説、凶悪魔猫のミシュティ嬢ですね》
《なぜ彼女が王都に?しかもメイドドレス──》
《当局の調べによると、なんと!彼女は現在、暴虐の女王の侍女をしてらっしゃるそうで》
《ええーーーーーーーーッ!?》
「凶悪・魔猫?凶・悪魔猫……?」
「ミシュティ……よね?」
カルミラのサロンは、軽く混乱した。
当のミシュティは顔を覆ってテーブル突っ伏している。
「どういうこと?ミシュティが凶悪……?」
《私、乳母科で同期だったんですけど──みての通りのルックスで、他校にまでファンクラブがあって》
《ああ、凶悪猫コロリ会ですよね》
《そうそう》
「いやーーーーーーッ!恥ずかしいですーーーー!」
ミシュティが、羞恥のあまり絶叫した。
しかし、無情にもミシュティ特集が続く。
《乳母科でも幾つか伝説がありまして、お子様争奪戦では無敗でしたし、在科中5年連続で付属幼稚園の園児からお嫁さんにしたいNo.1で──》
《可愛いですからねぇ、あんな可愛いのに凶悪って》
《正確には凶悪魔猫天使ですね》
「…………」
私達は困惑して、顔を見合わせた。
「ミシュティはおしとやかで、恥ずかしがり屋さんよね……?」
セレナがおそるおそる、口を開いた。
「そうね、凶悪なところなんて無いけど……」
《凶悪なまでに可愛いのに、笑顔で竜の首を落とすもので最初は凶悪天使だったんですけどね》
ミシュティが、フラフラとサロンから出ていった。
カルミラの目配せで、フレイアが後を追う。
「…………これ、ミシュティに出演料出るのよね?」
「──出させる、絶対に」




