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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

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危機感を煽るには?


「勇者付きの侍女『ルイーゼ』は、こっちの手の者よ」


「え?王様チョロすぎね?」


「ふふ、勇者が安心できそうな人材は、歳が近く魂の色の相性が良い洗濯メイドの──ってのをやったのよ」


「ああ、またジーンの夢枕か?洗濯メイドから大出世だな!」


「どうにか王城に就職潜入できた当日に、王様に夢でお告げを出したのよ」


「よく都合いいメイド居たなぁ」


カルミラが、唇に妖艶な微笑みを浮かべた。


「うちのメイドよ。募集してる猶予もなかったし、親は片方悪魔族だけど本人は『人間』だからちょうどいいかなって」


「おおー」


「ネイシスじゃなくて、デジュカ大陸のメイド学校の卒業生の経歴をお借りしたの。友人の家のメイドのね」


「なるほど。さすがに洗濯メイドをそこまで調べないだろうしな」


「そそ、そこからの情報がまとめてあるから、目を通しておいて」


再び、全員が手元の紙をめくった。


「──おそらく、前準備が足りてなくて危機感がない」


レスターの呟きを受け、全員がフレスベルグを見た。


「済んだことは今さらだけど、なんであのタイミングで召喚したの?」


セレナが、みんなが聞きたかった事を口にした。


──フレスベルグの言い分は、こう。


魔脈が完成して、魔力名付けもされて飛躍的に魔力が上がり、操作も向上した。

つまり、『いけるんじゃね?』という思い付きで動いちゃった!ってことだ。


「色々、は……あとから何とかなると思って……」


「で?なってるの?」


「なってません……」


こめかみの血管が浮き上がるカルミラ。

フレスベルグは縮こまっている。


「どうしようもないわねぇ……いいわ、興業収入は組合に全部納入、そこから支援を行います」


カルミラの決定で、フレスベルグは史上初の『雇われ魔王』になった。


全く、ヤレヤレである。

“危機感を煽るために、何回かに分けて王都周辺を襲う”

魔王組合の当面の方針は、そうなった。


「んじゃあ各自、二か所くらい襲う感じでー」


「あいあーい」


ざっくり方針が決まったので、どこか襲わないといけないわね。




「というわけでね。表向きは王都から離れとこうと思って」


私はミシュティに暫く王都には寄り付かないよう言い渡し、団長にも『一旦辺境に戻る』旨、手紙を言付けた。


(──もう転移できるのはバレてるだろうけどね……)


公にならないなら、問題ない。

転移は便利屋にされがちだから、ホントに気をつけないと。


ミシュティは、ひよこ島で待機。

私は久しぶりに“エイプリル”として、活動することにした。

エイプリルとしてならば、表立って転移を使えるし、トラブルになっても……存在自体を消せばいいだけだからだ。


(色々制約のある『ジューン』としては、動きたくない、と言うか動けない……となるとやっぱりエイプリル)


翌日の朝イチで、魔術ギルドの求人をチェック。

エイプリルは付与術師なので、今まではそういう依頼しか見てなかったけれど──。

実際は、様々な依頼がある。

家屋の構造上、冒険者ギルドで無理だと判断された独居老人の自宅の煤払いとか……広大な畑の一時的な水やりとか。


依頼料は、魔術ギルドがやや高いのだけれど……こちらは王都にしか無いので、競合はしてないらしい。


(──王都から馬車で一日の村、三つの井戸の衛生管理。除菌の付与か……周辺情報の収集に良さそう)


私は早速いい感じの依頼を見つけ、受付に持っていった。


【依頼番号】M-2043

【区分】公共依頼/魔術行使


【依頼内容】

王領内・ゴフマ村に設置された井戸三基へ、長期除菌付与魔法(効力十年継続)を施すこと。

井戸水の飲用安全を確保するのが目的であり、施術の際には村役人および村民立会いのもと、完了を確認すること。


【報酬】金貨16枚



上品な受付のお姉さんは、ほんのり笑顔で詳細を教えてくれた。


「往復の馬車、四泊分の宿泊所の提供と食事付きです。敬遠されがちな単発依頼ですが──公共依頼なので安全ですよ」


「受けます!」


時々エイプリルで依頼をこなして、実績を作っておいて良かった。

公共系は依頼達成が十回以上無いと受けられないからね。


ゴフマ村行きの馬車札を貰い、馬車乗り場へ。

一日一回しか往復してないみたいだけど、継続便が出ているということは、そこそこ大きい村っぽい。

御者に聞いてみると、6人くらい集まれば出発。

一人だけでも正午には出発、だそうだ。


既に三人連れの乗客がいて、エイプリルは四人目だった。

あと二人待つか、出発するか──?

このあたりは御者の裁量でいいらしく、三十分程たった頃に、出発した。

三人連れは兄妹で、妹二人はずーっと喋っているが兄は眠りこけている。


「ええーっ!お姉さん魔術師なのー?」


「すごーい!」


「いえいえ、まだ勉強中の身で……」


賑やかな姉妹と、お喋りを楽しみながら仕入れた情報を整理していく。

ゴフマ村は、通称“薬師の村”。

薬草農家と薬師の村、ということだ。

周辺にも幾つか村があり、そこも違う種類の薬素材を育てているんだとか。


(薬草畑、ね。現地インフラが“畑”に寄っているなら──燃やせば痛い。ただし、人は殺したくないし怪我させるのもスマートじゃない)


笑顔を崩さず話題を合わせながら、内心ではそろばんを弾く。


(……畑の一部を、魔王軍襲来に見せかけて焦がす。補助金目当ての保全を口実にしてやれば、村に大ダメージはないでしょ。うん、候補としては十分)


まあ、着いてからゆっくり精査かな。

「補助金」だけでなく「魔王軍襲来→薬草の供給減 → 王都の薬価が上がる 」となれば、充分危機感を煽れる。


私は自分の綺麗な爪を眺めて、うっすら微笑んだ。


(組合から割り振られた二か所襲撃ノルマ。人を狙うより、畑を焼いた方が安全で効率がいいわね)


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― 新着の感想 ―
フレスベルグやっぱりポンコツだったwww だか、そこがいい(*・ω・)ノ
フレスベルグかわいそう(笑) 500歳になってもパバの手編みセーターを着てくれる良い子なのにポンコツだったばかりに…(笑)
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