第一回進捗会議【ハナ】
「──では、第一回進捗会議を始めるわね」
組合長のカルミラが宣言した。
「勇者は勉強と訓練中。ハナちゃんは元気みたい。偽聖女の潜入には成功したけど、他メンバーはまだ決まってない模様」
「うーん、押してるわね……」
専用プールにいる人魚のセレナが、書類をめくりながら呟いた。
「そうなのよ、歴代勇者のデータを見る限り、もう旅立っててもいい時期なんだけど」
「やっぱよ、戦時中じゃないから平和ボケしてんじゃね?」
「王都にドラゴン放ってみる? 大人のメスならそこまで暴れないと思うし──」
「ダメよ、今から産卵シーズンだもの」
「あー、オスはダメだよなぁ。手加減出来ないだろうし……」
「フレスベルグみたいな奴らだからなぁ、オスは」
いきなり被弾したフレスベルグは、納得いかなそうな顔をしている。
「疫病流行らせるとかァ~?」
「水道に毒とか?」
「とりあえずどっか焼き払って危機感煽るとかどうよ」
ティティとゼグが、大量の毒物をテーブルの上に積み上げた。
カルミラはスクリーンに映っているハナを見て、思い出したように話題を変える。
「そういえばハナちゃんの抜け毛のリアルぬいぐるみが、オークションで宝貨に値上がりしてるわよ」
「マジか! 今回めっちゃ黒字なんじゃね?」
「フレスベルグなのにね!」
「絶対赤字で破産すると思ってたァ~」
「お前らさー、黙って聞いてると思って酷くね? って、ハナめちゃくちゃ毛が抜けてるっぽいけどハゲない?」
「シーバ・イーヌは年に何回か毛が抜けまくるらしいわよ? でも──」
カルミラが、心配そうな顔でプリントを配った。
「プリントにあるとおり、勇者の時間軸は5の月……つまり夏に向けて毛を大幅に減らす時期だったみたいなのよ」
ゼグが驚いて立ち上がりかけ、天井がちょっとだけ崩れた。
バラバラと落ちる石材を器用に避けつつ、会議は続く。
「おいおい、こっちは今から寒期だぞ」
「年寄りだし、まずいな」
「そうね──コートを支給しないと可哀想よね。偽聖女にサイズ測っておくように言っておくわね」
「あら? ハナちゃんってお肉よりお魚が好きって書いてあるけど──」
「防御力を取るか、防寒性を優先するか、であるな」
ネモが厳かな声で発言した。
「炎竜の皮なら発熱するし丈夫じゃね?」
「悪くはないが、固いからコートにするのは難しい」
「そりゃ着にくいかもだけど、慣れれば──」
「犬だぞ」
「ドラゴンムウムウは?」
「ああ、ムウムウなら暖かいし通気性もいいな」
「在庫ないんだよなー、時期が悪いよ」
──ドラゴンムウムウ。魔界にしか生息していない羊である。羊なのだが、竜種だ。
その毛は軽く、暖かく、手触りも最高な高級素材……。
「誰が狩りにいくか、であるな」
全員がフレスベルグを見た。
「ええ!? やだよ! アイツらケルベロスより凶悪じゃんか!」
「うーん、どっちにしてもこれから寒期だから……毛刈りは現実的じゃないでしょ? ドラゴンムウムウの毛なら、私が持ってるから出すわ」
私は袋に入ったムウムウの毛を出した。
「洗浄はしてあるけど、まだ未加工なのよね」
「紡いでセーターかフェルトにしてコートか」
「聖女だからピンクに染めましょうよ。白とピンク可愛いわ」
「オスだぞ」
「今はジェンダーフリーの時代よ!」
結局、乳母車が空調付きということでセーターを編むことに決まった。
袋から出したムウムウの毛を眺めながら、全員が意見を述べる。
「最低でも──三枚はいるよな?」
レスターが毛を摘まみながらカルミラを見る。
「洗い替えは無いとねぇ」
「量的に四枚はいけそうである」
ネモは当然のように、懐にムウムウの毛をしまいこんだ。
──このノーライフキング、スケルトンの王者は編み物が得意なのだ。
今日のフレスベルグは、ネモの編んだスカル柄セーターを着ている。
大揉めに揉めたが、セーターの色はピンク、赤、青、黄色に決定。
その後はデザインで揉めたが、「引っ掛かると危ない」という至極真っ当な意見が出て、シンプルなものと決まった。
さらにセレナの意見により、次回支給のドッグフードはコケット味ではなく魚味に変更された。
「もう一点。勇者なんだけど──四ページ目を見て貰える?」
沈黙が降り、暫くは紙をめくる音だけがサロンを満たす。
口火を切ったのは、フレスベルグだった。
「素直で物静か──読書好き、か」
「珍しいわよね、こういうタイプが来るのって」
「うーん……戦闘面は剣聖持ちなだけあって、いい腕前って書いてあるけど」
「いかんせん、おとなしい……と」
「ど、どうする……? 純愛系に路線変更する?」
「いや、少年の内面的成長物語とか……」
「視聴率とれるかな、それで」
「やっぱよ、危機感だよな」
「王都燃やす? そんで『僕がやらなきゃ!』って気持ちに持っていけないかなァ~?」
「荒療治か」
──勇者、大人しくて良い子。
だけど、番組としては厳しい。
なかなかうまくいかないものである。




