表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/213

我が家のメイドさん


──私のメイドは優秀だとは思ってたけど、とんでもない逸材だったようだ。


(お給金アップしないとだわ!)


「ミシュティ……あなた伝説の卒業生じゃないの」


ミシュティは、恥ずかしそうに俯いた。

手が膝の上でモジモジしている。


「私──人見知りが凄くて、結局就職出来なかったんです……身体の大きい男性がどうしても苦手で」


「ああ、魔界は体格のいい人多いものね……」


「結局、祖父の牧場と……時々学校の臨時講師をして数十年経っちゃって。これじゃダメだと思ってルイーダさんの酒場の紹介派遣に登録したんです」


(こんなすごい掘り出し物だったとは……!)


「登録してからも二百年くらい、お声かからずでして……家族からよく宝の持ち腐れだって、からかわれてました」


「この経歴なら引く手あまただったでしょうに」


「いえ。私の希望条件が、独身女性のレディースメイドだったので……」


「また限定的な希望ねえ、それ」


「ですが、ジューン様に巡り会えたので、大満足です!」


私はパンフレットを返し、ミシュティの作業の続きを眺めつつ──居眠りしていたようだ。

柔らかな肉球にぷにぷにと腕を押され、目が醒めた。


ひよこ島に戻り、湯浴みをしてマッサージを受けて、軽めの夕食。


「約束、十年は仮契約だったけど──ミシュティさえ良ければ、もう本契約しましょうか」


マッサージの手が、ピタリと止まった。


「よよ、よ、よろしいんですか!?」


ミシュティの声が、ひっくり返った。

私の腰に添えられたままの肉球が、わきわきとしてくすぐったい。


「ええ、あなたは完璧メイドだもの。絶対手離したくないわ。永年雇用よ」


歓声と共に、ミシュティが飛び跳ねた。

──すぐに落ち着いて謝罪したけども。

そんなに喜んで貰えて、私も嬉しいわ。


でしゃばらず、かといって受け身でもなく。

仕事は丁寧だし、勝手なこともしない。

私にはちょうどいい距離感のメイドだ。


「お祝いに何か欲しいものはあるかしら?」


なかなか希望を言わないミシュティだったが、数回尋ねた結果……『魔力名付けをして欲しい!』らしい。


ミシュティはリスクも承知してるし、未成年でもないので。

その場で魔力名付けをしたのだけれど──

思ってたより、ごっそり魔力を持っていかれた。


「ちょ、ちょっと休憩するわ……ミシュティも、もう休んでいいわよ」


2時間ほど経って、リビングでうとうとしていたら。

ミシュティが、小躍りしながら私の元にやって来た。

そして、『ジャジャーン!』と擬音がついたような勢いで、頭を付き出してきた。


「ジューン様!見てください!私の忠誠心の証ですわっ!」


ミシュティの耳の先──パヤパヤとした長めの飾り毛。

ほんの3ミリ程度だが、ティファニーブルーに染まっている。

私の髪と同じように、チラチラと輝きながら。


「あらまぁ……」


(深い絆がある時、名付けられた側は稀に色をシンクロさせるとは言うけれど……まさか自分のメイドがそんな経験をするとは!)


ミシュティは見せたかっただけのようで、就寝の挨拶後に屋敷を辞していった。


寝室でしばらく読書して、ランプを消してカーテンをひこうと窓辺に寄ると、ペルルに乗ったミシュティが夜の乗馬を楽しんでいるのが見えた。


ペガサスは海の上の空を駆け、星空と月を背景に幻想的なシルエットを見せている。

彼女の乗馬技術は圧巻で、縦横無尽に空を駆け回って……まるで一筋の光線のよう。


(ずいぶん、はしゃいでるわね……こんなに走ってるのに無音なのが、ペガサスの怖いところよねぇ……ってユーニウスは寝てるのかしら)


月明かりを頼りに、周囲を見てみるとユーニウスはペパーミントを一心不乱に食べているようだ。


(食いしん坊だわ……!)


その後も私の可愛いメイドは……こっそり?と、はしゃぎ回っていた。

しばらく絵画のような美しい光景を楽しませてもらい、邪魔をしないよう私はカーテンをそっと閉めて就寝した。


翌日、珍しく早起きした私はユーニウスと朝の乗馬を楽しんだ。

ユーニウスはとにかく足が速いし、体力もある。

小さなひよこ島なら、あっという間だ。

2周目からは、ペルルも着いてきた。

若駒は元気いっぱいね、可愛いこと!


汗をかいたユーニウスとペルルのお手入れを終え、軽く湯浴みをして屋敷に戻ると朝食が出来立てで供された。

乗馬をしているのを見たのだろう、量はいつもよりちょっと多めだ。


ふんわりなめらかに焼き上げたオムレツ。

とろりとしたオニオンスープ。

見た目も華やかな新鮮な野菜サラダ。

チーズを練り込んだパン。

皮はパリッと焼き上げられ、ちぎるとチーズの芳醇な香りが立ち上がってくる。


「バジルかしら」


中身はふんわりしているパンは、ハーブの香りも漂わせている。


「はい、今日はバジルです」


──ほんの少し、いつもより濃いめの味付けが運動後の身体に嬉しい。

うん、やはり我がメイドは有能だわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ