表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
勇者と魔王

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/213

勇者と聖女(誰?)


高い天井に光を散らす無数の燭台。

王宮最大の大広間は、豪奢な衣装を纏った貴族と要人で埋め尽くされていた。

扉口から入場した王族たちが、中央の赤絨毯を進むたび左右に控える人々が恭しく頭を垂れる。


第五王子である、団長もその列だ。

黒のような深い藍色の礼装に、銀糸で縫い取られた王家の紋章。

腰には儀礼用の佩剣。


(……たぶん、本物の剣だと思うけど)


──その顔立ちも背筋の伸びた歩き方も、武人であることを隠しきれないが、優雅そのものだ。


「これより、勇者御披露目の式を始める」


王座から響く国王の声に、大広間のざわめきが静まり返る。

侍従が合図し、中央扉から一人の若者と少女が進み出た。

鎧をまとい、まだあどけなさを残した顔立ち──やや不安げな足取り。

少女の方は、清楚な白いドレスを纏い控えめながらしっかり歩を進めている。


今回、新たに召喚された勇者だ。

だけど──聖女って?


「我が王国に召喚された勇者グラン。そして聖女フィリア。彼の力と勇気を、慈愛と癒しをここに示す」


王の宣言と共に、場内から拍手と歓声が巻き起こる。

勇者は深く頭を下げ、壇上に立った。


「そして……」


王はわずかに間を置き、別の名を告げた。


「長年、王国の剣を預かってきた第一騎士団長、グラハム・ローウェル卿が、このたび定年により退任することとなった」


白髪混じりの壮年の騎士が前に進み、膝をつく。


「陛下の御下命により務めた三十年、誇りにございます」


短く簡潔な辞が、武人らしい生き様を物語っていた。


「後任として──我が第五子、アルフォンス・グレイシア・アルシアを任ずる」


一瞬、場が息を呑む。

礼装姿の第五王子が赤絨毯を進み、壇上へ。

その姿には先ほどまでの「王子様」の影はなく、威厳と力強さがあった。


「アルフォンス、そなたに王都の剣を託す」

「はっ。謹んで拝命いたします」


片膝をつき、剣に手を添えて敬礼する。

その声は大広間の隅々まで届いた。


立ち上がった団長は、隣に立つ勇者へと視線を向ける。


「勇者殿。慣れぬこともあろうが、このアルフォンス、微力ながら尽力致す所存。困った時はお声掛けください」


勇者が頷き、二人の視線が交わる。

その瞬間、場内の空気が再び響き渡る拍手と共に熱を帯びた。


「それでは、両名の新たな門出を祝し──乾杯!」


王の声と共に杯が一斉に掲げられ、陽気な楽の音が再び広間に満ちていった。



(──ハナは?ハナがいないじゃないのよ。犬だから参加不可なのかしら)


私はこっそりと、儚げで小柄な『聖女』を観察した。


鑑定──

▶聖女フィリア、15歳、女性

王都郊外の草原で、三日前に保護された。


脳内に浮かぶ文字列は点滅している。

これは、擬装ステータスだ。

術者よりも強い私には、通用しないけど。


擬装を突破して見てみれば、なんのことはなかった。


(夢魔のジーンじゃないの!身長も変えられるとは……さすが魔力で身体を構築する種族ね……)


「こっち側だった……」


うまいことやったわねえ、魔王組合。

ハナはどういう扱いになるのかしら?

そもそも、犬がいるという発表も無いし……


「まあまあ、アルの意中の女性って!ずいぶんな美人さんじゃないの!」


「全くだな」


金茶色の艶やかな髪を、シンプルに結い上げたワインカラーの女性が声を上げた。

団長の母君──第二側妃のヴェルヘルミーネ様と、団長のお兄様かしら?


側妃様は給仕が持っている銀の盆から、赤ワインのグラスを取り、ご機嫌な様子。


パートナーが継承権放棄してるとはいえ、王族なので、私はあっちこっちに引き回され、見せ物状態だ。

令嬢達の突き刺さるような、視線も感じる。

この隣で涼しい顔をした団長は、実は優良物件なのだ。


合併された亡国──今はアルシア国北部のグレイシア公爵家を継ぐことにも、なっている。

名前にグレイシアが入ってるのは、誕生時から決まっていたそうで──

アルシア国王に一番よく似てるという政治的な理由から、確定事項だったんですってよ。


(血を重んじる貴族のやり方ね。亡国の面影はゆるさない、と)


元々のアルシアの公爵家は、宰相だし一人娘は王太子の婚約者だ。

こちらが南の公爵家、なら団長は北の公爵家ってことね。


(団長も、宰相もお嬢様も──愛♡魔馬倶楽部のメンバーで仲良しっぽいけど)


北の領地のことを、団長たちと話していると。


「戦争が終結したのは──まだ三十年ほど前の話だからな」


団長は、嫌そうな顔をして呟いた。


「つまり、表立ってはいないけれど」


「うむ、火種はまだあるだろうな」


(やだやだ、やっぱり王族になんて関わるもんじゃないわね)


団長の同腹のお兄様である、第三王子殿下はちょっとだけ足が不自由なようだ。

大事故から生還したのだから、歩けるだけ僥倖なんでしょうけど。

こちらは母君の、ヴェルヘルミーネ様によく似ていらっしゃる。


「まあ、我々はチェスの駒みたいなものさ」


第三王子、ジャスティン様はそう言って穏やかに微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ