そうだ、ギルドに行こう
「お祖父さんがなのね」
ゼライさんの家系は代々熊獣人同士で結婚してて、祖父の代だけは人間と結婚したんですって。
この世界の異種族間の結婚って、胎生なら胎生、卵生なら卵生でしか子供産まれないのよね。
なので獣人と人間は異種族だけど子供を授かれる可能性がある。
卵生の鳥族とか人魚は胎生種族との間に子は授からない。
どの場合も、異種族だと可能性は低めだけどハーフは存在する訳だ。
ただね、絶対に【どっちか】の種族が産まれる事になる。
人間の姿にウサギの耳としっぽ。
ウサギ獣人の姿に人間の顔、みたいな子供は存在しないのだ。
必ずウサギ獣人か、人間になる。
手先が器用なウサギ獣人だったり、やたら聴覚のいい人間だったり
多少はお互いの遺伝はあるっぽいけど…。
ゼライさんの父は獣人、カイさんの父は兄弟だけど種族違いで産まれたのだろう。
ハーフの場合、親が同じでも兄弟姉妹の種族は別ってのは良くあることだ。
だから、カイさんは身体がとても大きいのかもね。
面白いことに、自分と違う種族の特性は孫くらいまでには見られる場合が多いけれど
それ以降は引き継がれないし、先祖がえりもまず無い。
カイさんが熊獣人の特性を持っていたとしても、人間と結婚すれば普通に人間が産まれると言うことだ。
「ギルドカードあるなら」
とカイさんが見せろ、と手を出してきた。
私はバッグからカードを出して見せた。
基本、ギルドカードはギルドスタッフ以外の他人の手に触れさせないのがギルドルールであるので、見せるだけ。
「ふむ。ギルドで照会確認すれば、多少は待遇改善の交渉材料にはなると思うぞ」
ただ、カイさんは普段王都とここを行ったり来たりしているので今日明日という話では無いようだ。
とりあえず自分で照会はしておいて証明書を管理所に届けるように、と言うことになった。
「次来るときはポスト横の呼び鈴押してよね」
カイさんはわかったわかった、とめんどくさそうにぶつぶつ呟いてそそくさと帰っていった。
甲冑の金属的な音はあんまり好きじゃない。
似合ってはいたけどね。
せっかくだから、このままエルフの姿でギルドまで行こうかな…。
今日行かなかったらまた1ヶ月すぐ経っちゃいそうだし。
頑張って活動しよう、うん。
私は一旦家に戻り、薄紫のシンプルなワンピース、編み上げブーツに着替えて出発した。
ポシェットはちょっと迷ったが置いていく。
自分の収納魔法の時空庫に繋がってるだけだからね、あってもなくても問題ないのだ。
獣道を歩きながら索敵魔法を森全体に通して、生き物の気配を確認。だが、普通の動物の気配しかないので無視でいいだろう。
森の街側に着いてから、周囲をじっくり探索した。
転移出来そうな場所を確保したい。
獣道から外れて2、3分歩いた所によさそうなポイント発見。
大きな木がちょっと混み入って生えている場所で、上方の枝が重なってていい感じ。
3mほど上の枝がちょうど良さそうだ。
この枝付近に認識阻害の魔法をかけて転移すれば問題なさそう。
枝から降りるときに周囲をチェックすればいいだけだ。
音が立たぬよう、浮遊しながらそっと着地。
これで20分の時間短縮だ。
街中にも転移ポイント欲しいけど、焦らずじっくり探すつもり。
なにしろエルフってだけで好意的な人が居ないからね、用心するに越したことはないわ。
ここから街までゆっくり歩けば20分。
走れば5分。
ワンピースなので走るのはやめて、早歩きで街に向かうことにした。
ぽつぽつと民家が見え始める。
この辺の家はほぼ農家だろうな。
きれいに手入れされた広大な畑が見える。
そして段々と住宅街になる。
ほとんどが2階建ての小さな家だ。
うちの方が広いかも?
住宅街を抜けて大街道まで出て、カイさんに貰った街の案内図を見てギルドの場所を再確認。
商店街の端の大きな建物がギルドっぽい。
道行く人は隠れたり下を向いたり相変わらずよ。
エルフ怖いもんね、わかるよ…..
途中美味しそうなパン屋があったのだが、あのピンク髪が居たので入るのをやめた。
きっとそのうち下級貴族に引き取られるとか、実は貴族の庶子だったとか、亡国の王家の血筋とかでトラブル起こしそう。
あのパン屋には行かないでおこ。
足早にパン屋を離れ、ギルドのドアを…開けっ放しだったのでそのまま入った。
ざわざわしていた室内は一瞬にして静まり返る。
中には武器に手を掛けた者も居る。
エルフにそれは命知らず過ぎるわ、相手が私で良かったよね!
職員が6名くらい、冒険者20人居るかどうかかな。
緊迫感漂うなんとも言えない雰囲気だが、私はギルドカードをヒラヒラと振って
「エルフだけどギルドメンバーでーす!」と大声でアピールした。
世界中にあるこのギルドに登録されているエルフは数名。
何十万人も居るであろう中で、十名以下だと思う。
登録出来ているエルフは【コミュニケーションが成り立つ比較的凶悪じゃないエルフのみ】だ。
凶悪か、そこまで凶悪じゃないかって扱いが二択なのは納得いかないんだけど。
室内は少しだけざわめきが戻ってきた。
長いカウンターには受け付けスタッフが4名。
人間の男性と女性、鳥人と…
一番怯えてなさそうな大型猫獣人さんの所で手続きしよう。
イカ耳になってるけど。