緊急審議会
とりあえず一報は入れた。
2日後、緊急審議会が開かれた。
「議題は聖女ハナについてよ」
カルミラが気難しい声音で、開会を宣言した。
端っこの席でフレスベルグが……小さくなっている。
「我輩のチームの解析によると、召喚に使用された魔方陣──No.114、これに些か改変が見られた」
全員が、フレスベルグを見た。
「ちょっと光柱の大きさ変えただけじゃん……」
「この魔方陣を作ったのは、ジューンよね?」
私は記憶を掘り起こしながら、慎重に答えた。
「No.114は、No.76から91までの魔方陣を組み合わせ、改編し直したもので──従来の魔方陣と違う点は、勇者と聖女を一度に召喚出来るようになってます」
ネモが静かに告げる。
「我輩の調べでは、この魔方陣はジューンのサインと共に『完成品だが未実験/使用不可』の但し書きがある」
「………………」
「………………」
「いや、ザッと見た感じいけると思って……」
レスターがニヤニヤしながら、フレスベルグの肩を叩いた。
「ジューンが構築した魔方陣はジューンの魔力だよなぁ?他人の魔力で直したら──」
「ベテラン魔方陣師じゃないと、他人の魔方陣には干渉出来ないのは知ってるでしょうに」
カルミラが溜め息をついた。
「まあいいわ。規則にしたがって、フレスベルグは興行収入の2割を組合に寄付よ」
口を開きかけたフレスベルグが、黙った。
「まあ、誰かが死ぬような大事故が起きたわけじゃないから、この件はそれでおしまい。問題なのは犬が聖女だったことよ」
「犬ってのがまずおかしいよな?」
「オスだぞ」
「しかも老犬」
──魔王組合の面々は困惑している。
「サムライという能力は──技能系戦士であるということまでは確認している」
巨人族のゼグが、低い声で厳かに言った。
「ヒーラーなの?前衛なの?」
「いや、そもそも犬だからな?」
「犬がピンポイントで、回復とかバフかけてくれるの?」
「耳は相当遠いらしいぞ。あと、軽度の白内障」
「歯は全部揃ってるって」
「キャベツ芯が好きらしいわよ、ほら報告書のここに──」
「指示が聞こえなかったら、回復してくれないんじゃないの」
カルミラがこめかみを押さえながら、溜め息をついた。
「調べたところによると、勇者の世界の犬は20年生きれば凄く長生きらしいのよ。勇者は17歳になったばかりだけど──ハナは来月18歳のお誕生日らしいから、実質18歳よね」
「お爺ちゃんじゃねーか」
「聖女だから、おばあちゃんなのでは」
「オスだぞ」
「じゃあ、お爺ちゃんで」
「歯肉炎だったら、普通のドッグフードだと固すぎるんじゃね?」
「だったら魔王組合から、シニア犬用のドッグフードは出すべきでは?」
脱線していく魔王組合。
私はそろそろ話を戻す頃合いと見て、声をかけた。
「審議は……ハナを帰すかどうかでしょ?」
「それがねぇ……勇者とハナちゃんセットになっちゃってて。ハナちゃん戻すなら勇者も帰さないと」
「あー、厳しいな。あの勇者、しっかりやる気になってるし……いや、戻すにしても短期間で2回も召喚陣とおすのは……老犬だし」
「とりあえず、乳母車と高級クッション、サプリメントとドッグフードは魔王組合から出すわね」
「うちに、未使用のアラクネの肌掛けがあるぞ」
「いいわねぇ、じゃあそれも」
(最低でも半年は開けないと、身体に負担がかかりすぎるのよね……)
「どうやってハナへそれを提供するか」
「王都の弱小商会を抱き込むか」
「それなら大店の娘って名目で、勇者パーティに魔法使いとか斥候として送り込む方が」
「美少女よね?」
「そりゃそうだろ、美人は尺稼げるからな!CM前に泣いたり入浴シーンをだな──」
「入浴は不可。全年齢対象なんで!」
「基本ルールにのっとると、成人の獣人か人間だよな?」
「今から探すか、変化のうまい魔族か──」
「あら。最終局面で寝返るとか、熱い展開じゃないの!」
「そうだ、ジーンは?夢魔だし魔法は得意。男の姿が多いけど、夢魔って無性だし!」
「あー、悪くないけど。背が高すぎね?歴代勇者はみんなチンチクリン──いや、小さい女の子が好きという統計が」
「子供は規約違反よ!」
「んじゃ夢魔で。小柄な人を紹介してもらう感じでいい?」
「早急に決めないと、ハナの体調が──」
「それな」
「魔王ブロマイドの売上枚数抜きそうだもんな」
「ぬいぐるみも予約完売してるから」
「抜け毛とか入手出来ないかしら」
「むしろ美少女じゃなくてもう一匹犬を──」
「パンジーとか」
「ケルベロスはダメだろ!可愛いけど」
「イケオジ入れて、マダム層狙うのもアリだぞ」
──結局、何も決まらない。
会議は3日に渡って紛糾した。




