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にゃんて素敵な異世界!?にゃん生!  作者: 三日月
1章 第1部 新たなる旅路
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03 猫、ひとになる

「ふぁー、よく寝たにゃ」


のそのそと起き上がり、ぐーっと大きく伸びをする。ちょっとだけのつもりだったが、十分な時間の睡眠をとれたらしく猫の頭はクリアになっている。

頭が冴えてきたところで辺りを見渡してみると、決して広いとはいえない空間が広がっている。案内してくれたひとは部屋と言っていたが、家具や窓すらも無くただの"何も無い"空間が広がっているだけである。

唯一ある物とすれば、この部屋と外を繋いでいるであろう扉と、壁に設置されている大きなモニターだけだ。まるでまだ何も入っていないおもちゃ箱に一番乗りした気分である。


早速、壁に設置されているモニターを調べてみることにする。とは言っても調べられそうな物はこのモニターくらいしかないのだが。

モニターの近くまで移動すると、突然画面が点灯し、猫は思わず「にゃっ!?」と声をあげた。



「はじめまして!そして、ようこそ!今日からキミもこの世界の住人だよ!僕の名前はシュウ、このモニターを使ってこの世界についてを色々説明させてもらうからよろしくね!わからないことだらけだと思うけど、少しずつこの世界について知ってもらえたら嬉しいな♪」



どうやら、モニターにはセンサーが取り付けられており、モニターに一定距離近づくとモニター画面が点灯する仕組みになっていたらしい。

点灯したモニター画面には、自らをシュウと名乗る薄水色の長髪をポニーテールのように束ねた少年のイラストが映し出されている。彼がこの世界についてを説明してくれるようだ。



「早速で悪いんだけど、まずはキミのことを教えてくれるかい?手元に操作パネルを用意するからそれを使ってね」



モニターからそんな声が聞こえてきたかと思うと次の瞬間、猫の目の前に画面が現れた。これが先程言っていた操作パネルなのだろうか。



「決まったら決定ボタンを押してね。あ、そうそう後から変更はできないからよく考えて決めるんだよ♪」



それだけ言うと、モニターに映っている彼はうんともすんとも言わなくなってしまった。どうやらこのパネルを操作して何かを決定しなければ先に進めないようだ。



「と、とりあえず触ってみるにゃ…でもこれ、オイラの手でも大丈夫なのかにゃ」



猫は自分の肉球が付いた手のひらをじっと眺めてから恐る恐るパネルに触れてみる。



「おおー!!何か出たにゃ!」



操作パネルに触れパネル画面を起動すると、「あなたの姿を選択してください」という文面と共に、様々な選択ボタンが表示された。種族、体型、年齢、性別、顔のパーツ、どうやらここでこの世界における自分の姿を決めるようだ。ゲームでよくある、ゲーム内での自分の姿"アバター"作成を求められているらしい。



「あなたの姿を選択してください…ってどうすればいいにゃ?オイラは猫だから、猫にすればいいのかにゃ?猫ってどれにゃ?…にゃっ!?」



「種族」と書かれた欄から「猫」を探していたのだが、間違って違うボタンを押してしまったらしい。モニター画面には「猫」ではなく「ひと」の姿が映し出されている。



「間違えたにゃ!何か変なとこ押したにゃ!戻るにはどうすればいいのかにゃ」



モニターの前でおろおろしていると、猫はふとあることにきづく。



「そういえば、何で人間になったのかにゃ?猫は猫で人間になれる訳が…まさか!猫でも人間になれるのかにゃ!?いやいやそんなまさか…いや、でも…」



肉球の付いた手で恐る恐る決定ボタンを押してみる。すると、「本当にこれでよろしいですか」という文章が表示された。決定を押した…つもりだったのだが、なおも同じような画面がポップアップしつづけている。



「いいって言ってるにゃ!よろしいですにゃ!」



最初は恐る恐るボタンを押していたが、回数を重ねるごとにだんだんと躊躇がなくなっていく。結局4回目の決定ボタンを押すまで同じ動作を繰り返すことになった。



「…終わったにゃ?」



先程までの画面が切り替わり「こちらの姿を登録します」という画面が表示されると、猫はふう、と一息をついた。そうしていると今度は「あなたの名前を入力してください」という画面が表示されたので、先程と同じようにパネルを操作し名前を入力する。



「オイラの名前…」



少し考えたが、生前と同じ名前「トラキチ」と入力し決定ボタンを押した。

「こちらの名前を登録します」という文章が表示され、そのまま待っていると「登録は正常に完了しました」という文章が表示された。どうやら無事に登録してもらえたようだ。



「ありがとう!登録完了だよ!それじゃ、今登録してもらったデータを元に転換(コンバート)してみるね!」



モニター画面に映る少年がそう言ったかと思うと、次の瞬間、猫の周囲を光の渦が取り囲んだ。突然の出来事に棒立ちになっていると、猫を取り囲んでいた光の渦はだんだんと薄くなり、やがて何事も無かったかのように消えてしまった。



「な、なんだったのにゃ…」



両の目をパチパチとさせながらつぶやき、目を擦ろうと自らの手を視界に入るところまで持っていくと、違和感に気づく。



「ん?何か不思議なものが見えた気がしたにゃ。まだ寝てるのかにゃ?」



そう言いながら一度視界から外してみる。そして再度視界に入る位置まで持っていき、今度はその位置を保ったまま開いたり閉じたりしてみる。しかしなかなか状況が理解できない。その後、反対の手で同じ動作を繰り返し終わった頃、やっと自らに起こった変化を理解した。



「にゃー!!ど、どうなってるにゃ!オイラの肉球がなくなってるにゃ!"にんげんのて"が生えてるにゃ!はっ!もしかして…」



と先程までは正面に固定していた視界を少しずつ下に下げてみる。



「にゃっ!オイラの足も"にんげんのあし"になってるにゃ!」



自分に起きた変化に驚き、戸惑いを繰り返していると、モニター画面から楽しそうな声が聞こえてきた。



「どう?びっくりした?キミが教えてくれた姿を再現してみたよ♪これが"魔法"。この世界における無から有を生み出す概念さ♪キミたちがいた世界では空想の中にしかない存在だからね、どうだい?気になってきたかい?」



次から次へと投げつけられる説明や質問をキャッチできずに呆然とモニターに映る彼を見つめていると、尚も止まらず説明は続く。



「この世界には魔法があり、キミももうこの世界の一員だ。ということは…そう!キミも魔法を使うことができる!"魔法士"となれる素質を秘めているということさ!どうだい?ワクワクしてきただろう?ちなみに今キミに使った魔法はいわゆる"姿を変える魔法"だよ。決して簡単に使える魔法ではないけれど、習得は不可能じゃない。鍛錬とアイデア次第で自分だけの魔法"固有魔法(オリジン)"を作り出すことだってできる。魔法とは無限の可能性を秘めた概念なのさ!

っと僕ばかりが喋りすぎてしまったね。今日のところはこのくらいにしておこう。キミも初めてのことばかりで疲れただろう。ゆっくり休むといいよ。それじゃ、話の続きはまた明日。ばいばーい♪」



一方的に話を打ち切られ、と言っても聞いているだけだったのだが、やっと終わったのかと一息つこうとしたところで「あ、そうそう」と先程の声が再び聞こえてくる。



「この部屋もキミ仕様に転換(コンバート)しておくね♪ちなみにこの部屋は49日間は使ってもらうから綺麗に使うんだよ♪」



そう言い残すと、今度こそモニター画面からの声は聞こえなくなった。



「な、なんだったのにゃ…」



初めて聞く類いの単語、言葉、魔法だのなんだのと言われてもいまいち理解が出来ていないが、このままモニターの前に突っ立っていてもしょうがない。とりあえずモニターの前から移動しようとくるりと後ろを向くと目を疑う光景が広がっていた。

先程まではこの部屋と外を繋いでいるであろう扉と、壁に設置されている大きなモニターしか無かった部屋に様々な家具が増えている。



「ど、どうなってるにゃ!?何かいろいろ増えてるにゃ!?そういえばさっき部屋もオイラ仕様にとか言ってたにゃ…ってオイラ仕様ってどういうことかにゃ?」



部屋の中心にはベッドが置かれ、壁に設置されたモニターの下には勉強をするには十分な大きさのデスクと椅子が置かれている。そのデスク上には先程操作していたものとよく似たタブレット端末が置かれている。まるでビジネスホテルのシングルルームのような作りに変化していた。これも魔法によるものなのだろうか。



「にゃ〜 魔法ってのはすごいんだにゃ…」



部屋の中をひと通り探索し終え、ベッドに仰向けに寝転がりながらしみじみと呟く。そうしていると、唐突に腹部からぐるる〜と音が鳴った。この感覚は生前から知っている、身体が空腹を表すサインである。

そういえばここに来てから、いや来る前から何も口にしていない。部屋の中を探索した際にも部屋の中には食べられそうな物は何もなかった。もちろん冷蔵庫の中も見た。生前見たものよりも明らかに小さいものだったが、一応何かを保存することはできそうだった。



「おなかすいたにゃ…ご飯はどこにあるのかにゃ…はっ!まさかご飯なし!?そんなことあるのかにゃ!?」



空腹に耐えかね、再度部屋を探索することにしたトラキチであった。何をするにも腹ごしらえが重要であると知っているから。腹が満たされれば他は自然とどうにかなるものである。

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