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とある日の猫の一日

とある平日の昼下がり、二階建ての一軒家の窓際で一匹のキジトラ猫が丸まってお昼寝をしている。本日の天気は快晴。まだ5月に入ったばかりなのでぽかぽかとした春の陽気が心地よく、眠気を誘う。平日の昼のこの時間、この家は猫が一匹で自宅警備をしていられる唯一の時間。静かな家の特等席を独り占めできる至福のひと時である。



そんな至福のひと時を過ごしていると、玄関からガチャッという音が聞こえた。どうやらこの家に住まう一人が帰ってきたようだ。その音を敏感に聞き取り、お昼寝をしていた猫の耳がピクッと動く。くぁーと大きな伸びを一つして音がした方へてとてとと歩いていくと、「ただいまぁ」と女性の声が降ってきた。今日の一番乗りはオカーサンだったようだ。「いい子にしてた?」という問いかけに「にゃーん」と答えてから元いた場所に戻る。こんな風に帰宅した人間をお出迎えするのが猫の毎日の日課となっているのだ。


窓際にもどり、うとうととしているとまたガチャッという音が聞こえ、続けて「ただいまー!!」という男の子の元気な声が聞こえてきた。2番目はアキだったようだ。アキはお出迎えにきた猫に「トラただいま!」というと背負っていたカバンを玄関に下ろして「友達と遊んでくる!」と言って出ていってしまった。いつものことなので気にせずに戻ろうとすると、またガチャっという音がしてドアが開いた。「トラ!ただいま!」と嬉しそうにいう少年はこの家ではハルと呼ばている。ハルはアキのオニーチャンらしい。「にゃっ」と返事をするとハルはよしよしと喉元を撫でてくれる。


ハルと一緒に家の中に戻り、ハルがシュクダイというものをしている間、猫はハルの隣に座って丸まっている。そうしている間にまたガチャッという音が聞こえ最後の一人、オトーサンが帰ってきた。玄関までお出迎えに行くと「お、トラただいま」という声がして、猫は「にゃー」と返事をした。


全員のお出迎えを終えてクッションの上で丸まっていると「ご飯できたわよ」というオカーサンの声が聞こえたので、テーブル近くに移動する。テーブル近くで待っていると「はい、トラご飯だよ」とハルがご飯を持ってきてくれた。「おいしい?」とハルが声をかけてくるので、「にゃっ」と短く返事をしておく。


猫がご飯を食べていると 「いただきまーす!」とテーブルの上の方から元気な声が聞こえ、四人の話が聞こえてくる。


「それにしても、俺が帰ってくるとトラは毎日必ずお出迎えをしてくれるよな」


「あら、私の時だってそうよ」


「僕達の時もだよ」


「ってことはハルがトラを拾ってきてからずっとってことか。すごいな」


「そうね。でもトラももうおじいちゃんなんだから、ゆっくりしててくれてもいいんだけどね」


「昼間はのんびりしてるんじゃないか?家の中も静かだし」



猫には人間の言葉は分からなかったが、毎日家族がわいわい話している時間もまた安心できる時間の一つだった。


ご飯を食べ終えてクッションの上で丸まっていると、いつの間にか寝てしまっていたらしい。ハルとアキの「トラ、僕達寝るね、おやすみ」という声で少し目を開け、「にゃう〜ん」と眠気混じりの声で返事をすると二人は「またあしたね」と言って部屋を出ていった。しばらくすると、オトーサンとオカーサンがやって来て、先程の二人と同じように「おやすみ、トラ」と声をかけ、部屋の電気を消した。

真っ暗になった部屋で今日という一日を振り返る。いつも通りのなんてことの無い一日だったが、今日もいい一日だったと思う。そんなことを考えながら猫はそっと瞼を閉じた。明日はどんな日になるだろう、いつも通りの平和な日常かな。それとも…と考えながら、トクントクンと規則正しく鳴る心臓の音を聴きながら深い眠りへと落ちていった。


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