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7_ご自覚していらっしゃらない?

 私の名前はクラウス・フォン・フェルンバッハ。

サヴァロイア帝国宰相エトガー・フォン・フェルンバッハ公爵の次男であります。

サヴァロイア建国から代々続く我が家門は、由緒ある名家として誠実に王室に忠誠を捧げて参りました。幸いにも我が家には継承すべき爵位がいくつかあり、私は次男でありながらも伯爵位を賜りました。


 そんな私の本職は、サヴァロイア帝国 第一皇子、アルベルト・ドゥ・ラ・オーヴェルハイゼン=サヴァロイア殿下の側近、兼護衛騎士であります。

 今はもっぱら、伯爵としての領地運営を有能な部下に任せ、殿下の側近としての激務をこなしつつ、護衛騎士も兼任する日々…。


 いささか特殊過ぎる指令内容が多い殿下の側近となり早10年。26歳になる身ではありますが、婚約者はおらず、残念ながら求婚したいと思える女性との出会いもいまだありません。

殿下も適齢期ではありますが、婚約者候補はいらっしゃるものの、いまだ婚約者を指名しておらず、上位貴族たちが互いを(にら)みあっている状態です。


 殿下の有能さは帝国同盟国である2国にも広く伝わり、御歳(おんとし)10歳の頃より、様々な分野で同盟国への牽制(けんせい)として、申し分ないほどの成果を上げてきました。しかし、ここ半月ほどで「殿下」という抑止力が無効になった国が出たのです。

それはラルハナール国。


 そもそも帝国は、3人の建国者が正しく国を(おこ)した「3王国」から成り立っており、初代王たちは持ち回り制で帝国を繁栄(はんえい)させてきた。サヴァロイア国は神聖力で、ラルハナール国は魔法で、ガランフェデジェス国は資源と産業で、陸続きの3王国は互いに尊敬しあい助け合ってきた。そもそも、広大な大地は海に浮かぶ大陸で、近隣には帝国を狙う国はないため、のんびりとゆるやかに成長をしてきたのだ。


 しかし、何代目かのラルハナール国王が禁忌を犯し、処刑された。おぞましいことに、自然の摂理(せつり)()じ曲げ、魔獣(まじゅう)を掛け合わせて嵌合体(かんごうたい)をつくり、劣悪な環境下で都合良く使役(しえき)していたらしい。代々魔導師を輩出してきた由緒あるこの国で、国の頂点となる国王が違法な禁忌魔法を研究していた事実が発覚し、帝国の持ち回り制が廃止された。


 違法な禁忌魔法すべての研究が国王と共に(ほふ)られたとされていたが、どうやらこの1年でラルハナール国に新興宗教が誕生し、禁忌魔法を復活させたという。ラルハナール国の始祖となった初代国王が、封印した禁術書を解いた者がいるはずで、サヴァロイア帝国とガランフェデジェス国は協定を結び、ラルハナール国の動向を調査しはじめたのである。


 私も殿下の指令のもと、何度か隠密のような仕事をさせられたが、この1年間ラルハナール国の狙いが一向につかめなかった。そんな折、半月ほど前から突然ラルハナール国の動向が見えてきたのだが、なんと自国民の大量殺戮(さつりく)を行っているという驚愕(きょうがく)の情報が入った。更には、最果ての国と呼ばれている遠く離れた共和国から、武器であろう何かを大量に輸入しているという。


 そして、ついに我が帝国にも被害が出てしまった。

その時の殿下のお怒りはすさまじいもので、城内の者が使い物にならなくなるほどの魔力を放出したうえ、冷気により一部の魔道具や魔法具を破壊なさったため、拝謁(はいえつ)陳情(ちんじょう)などの城内のご公務一切を中止した。殿下の魔力にあてられ、いまだに登城出来ない者も多い。

 殿下が魔力を放出なさるほど感情をあらわにするのは実に12年ぶりであり、懐かしさを感じつつ、かくいう私も半日は魔力酔いで使い物にならなかった。


 そして今、いつものようににこやかに執務椅子に着席なさっている殿下からは、3日前と同じように冷気と魔力が垂れ流されている。魔力放出の範囲は限定的だが、刺々(とげとげ)しさが追加されビリビリとした魔力で息苦しい。


「殿下、お願いですから気をお静めください。また城内機能が停止します。」

軽く(こうべ)()れながら主人を(いさ)める。多分、ご自覚なさっておられない。


 すると、殿下は一瞬眉間をピクリとさせると、心外だとでも言わんばかりの表情で「そうかクラウス、お前出張したいんだね?」とのたまった。出張とは隠密活動のことで、殿下の側近としての業務を何日か免除されるかわり、ほぼ不眠不休で証拠集めや張り付き調査をさせられ、100%の成果を求められる過酷な業務である。

 しかし、殿下が”側近である私の意見に耳を傾けて下さるか否か”、という結果により今後の仕事に大きく影響する手前、ここで引くことはできない。


「ご自覚していらっしゃらない?」

聖女様との「すり合わせ」が終わってから、殿下は本日の公務を取りやめここに(こも)っている。ここに戻られてからというもの、ずっといら立っておられるではないか。


「お早めにご対応ください。」

そういって顔を上げると同時に、殿下が執務室から出ていかれた。

10分後、何がどうなったのやら?ご機嫌で執務室へ戻ってこられた。


 なんとか成功実績を作る事が出来た。これで部下には「殿下はクラウスの忠告なら受け入れる」と刷り込まれたはずだ。

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