4_色のない世界でのつまらない日々
なすべきことをなす。
然るべき役目を背負い、この世に生を受けた。
アルベルト・ドゥ・ラ・オーヴェルハイゼン=サヴァロイア
私にとって「生きる」ことは何の意味もない、苦行のようなもの。
帝国の皇子としての毎日は、色のない淡々としたもの。
それが私の22年間の普通だ。
私は、満月の夜に王宮庭園のありとあらゆる植物が花開き、薬草や雑草までもが急成長するほどの魔力をもって誕生したらしい。
王族として好ましい器に、魔力量。私の誕生で、帝国は安泰と言われたようだ。
幼き頃から何を見聞きしても感動はなく、課されたことは任務として遂行してきた。
勉学も、剣術も、魔術も、社交も、興味はないが、やるべき事として受け入れた。
まあ、何にも心動かされたことがないので、それしかやることがなかったと言ってしまった方が良いのかもしれない。
だが、すべてが億劫で嫌になる時がある。
なんて凡庸でつまらない人間の多い事だろう。
浅はかな策で、私を失墜させようと果敢にも挑んでくる奴らが少なくない。
面倒だが、そんな馬鹿ども、同盟国貴族をあしらうのが唯一の退屈しのぎだ。
いっそのこと、一度に悪しきものをこの世から全て消してしまいたい。
そして、退屈な人生をこの手で終わらせたい、と思う時がある。
そんな日々を過ごしていたが、つい半月前にサヴァロイア帝国同盟国の一つである「ラルハナール国」に蒔いてある私の眼である密偵から、きな臭い話が挙がってきた。
どうやら、サヴァロイア帝国からの独立を狙い、最果ての国から大量の武器を輸入している、と。また、そのもくろみの最終的なシナリオは、サヴァロイア帝国を属国か植民地にすることであり、豊かな自然や産業を帝国民もろとも奪い取ろうと画策しているらしい。
実に、バカバカしく胡散臭い話だと思っていたが、つい3日前に目も当てられないほど悲惨な出来事が起きてしまった。無残にも、国境近くの渓谷で頭部をつぶされた親子とみられる遺体が発見されたのだ。
即座に部下を派遣し、極秘裏に調査をさせたところ、最果ての国でのみ生息する固有種の「蒼トカゲ」が関与している痕跡が残っていることが分かり、調査隊を編制し、指揮命令系統を組んだ。
私自身が動けるのであれば、即座に解決するのだが、帝国であるがゆえにしがらみ深く、そうはいかない。まったくもって苛々するが、これも今まで通り、いつものことで仕方がない。
苛立ちや諦めを抑えることは常であるため、そのようなものが表情に出ることなどない。ましてや、今日も億劫な夜会に参加しているが、感情が動くようなことは何もない。けばけばしい化粧に、年端に似合わぬ恰好、鼻が曲がりそうなほど大量の香水をまとう令嬢にも、社交辞令のあいさつをし、笑みを絶やすことはない。
適齢期になってからというもの、うんざりするほど繰り返される、高位貴族達からの娘の押し売りは、いつも通りの展開に諦めの境地の中、いたって健康体である私の胸部が突然チリチリと痛痒くなった。
ふとホールの中央を見下ろすと、奇妙な格好をした女性が呆然と立ちすくんでいるのに気が付き、目が合い驚き、瞬間、悟った。
ああ、彼女がこの帝国を救う「聖女」なのだと。
何が何でも、彼女をこの帝国に引き留め、有事を解決してもらうために、有効利用せねば。そのためであれば、どんな演技でもしよう。
彼女を迎えに階段を下りる。走って行ってすぐさま拘束したい気持ちを抑え、もどかしいが、あくまでいつも通り、優雅に品位を損なわずに、彼女のもとへ近づく。
さて、どうすれば彼女をコントロールできるだろうか?打算的な思考は一切顔に出さず、「聖女」へ声をかけた。
「もし?レディ。」
まさか、この私がこの後、あのようなセリフを口走るとは…この時は露ほども思っていなかった。




