2_どうやら異世界へ転移したらしい
ダンスホールは静まり返り、先ほどまで優雅に踊っていたきらびやかな男女達は、顔を伏せたまま微動だにしない。
パジャマ姿の私をいざなう超絶イケメンは、きっと高貴な身分なんだろう。
抵抗せず、素足のままペタペタと歩く。床はひんやりとしていて、歩くたびに冷静になった。
これは、たぶん現実なんだろうな、と意識を五感につなげたその時、イケメンが息をのんだのが分かった。
何だろう?と顔を上げると、イケメンが私の足を凝視している。
そして、イケメンは「これは、なんとしたことか…!失礼いたしました。」というと、軽々と私をお姫様抱っこしたではないか。
「うわぁあぁあ~???!」
近距離にイケメンの薄水色の瞳が見え、思わず動揺して色気のない声を上げてしまうが
「可愛らしい…」
と、熱を帯びたウィスパーボイスと共に、ほほを赤らめられた。
パジャマだし、裸足だし、何ならすっぴんだし、週末うっかり日に焼けてしまい、お肌も荒れてるし、じっくり見られるのが嫌でしかたない。
「か、顔が近い!やめて!私、そんなに軽くないし!寝巻だし!もーやだ!おろして!」
恐怖と羞恥で一気に感情が爆発した私は、ついイケメンの腕の中でもがき、暴れてしまった。
落ちる!と思ったけど、イケメンが私を落とすことはなかった。
なんだかむしろ上機嫌なようで、ニコニコ顔のイケメンが足早にホール中央を抜け、螺旋階段を上がっていく。そして、絢爛豪華な中二階の中央部に配置された「玉座」に座る威厳のある中年の男性は、きっとこの国の王様で、その隣に座る美しい壮年の女性は王妃だろうと思われた。
イケメンは私を抱えたまま、二人の前で軽く会釈をした。
「陛下。先ほど、聖女様がお見えになられました。わたし以外の者が、聖女様のご尊顔を拝し奉ることはかなわないでしょうが…今、聖女様は私の腕の中にいらっしゃいます。」
なんということを、恥ずかしげもなく説明するんでしょうか、このイケメンは!
ホールはざわめき、座した二人は顔を見合わせにっこりとし、椅子から立ち上がった。
「そうであるか、ついに、か。神は我らを見捨てることはなかったのだな!」
すると、陛下と呼ばれた中年男性は、イケメンに向かってニコリとほほ笑むと、
「聖女様!このサヴァロイア帝国へ、よくぞ!おいで下さいました。拝観賜る日がそう遠くないことを、心よりお待ち申し上げます。アルベルト、後は頼んだぞ!聖女様に不自由なきよう、十分に取り計らいなさい。」
と声をかけた。
イケメンが「御意。」と答えると、満足そうに頷き、ホールへ向かって夜会の終了を告げ、王妃と思われる女性を伴い、中二階を後にした。
「では、我々も参りましょうね、聖女様。」
ざわめきの中、王と王妃と思われる2人が退席すると、このイケメンは私を横抱きにしたままホールを後にしたのであった。