表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/42

11_やさしい魔力

 あっという間に夜が来た。この世界にも月があり、地球と同じように日が昇り、沈むことが分かった。

滞在2日目の今日は、ほぼこの部屋で過ごした。部屋から見る限り、この世界の風景は地球と変わらないように思える。鳥もさえずるし、木も、草も、花も青々と、鮮やかに生きている。


 なぜこの世界に転移させられたのか、「救国の巫女」としてのお役目があるはずなのだが、偉千華(いちか)はまだその理由をアルベルト皇子に聞けていない。


 どうやらお忙しいらしく、あれから皇子は姿を見せない。私ばかりに構ってはいられないだろう。それに、先ほどまでずっとカルラ様が側についていてくれた。結局、カルラ様は昼食も夕食もこの部屋で一緒にとってくださり、帝国の成り立ちやら、各国との関係などを色々とお話ししてくださった。異国文化を学んでいるようで思いのほか楽しかったけれど、カルラ様は時折色っぽく「ほぅ…」とため息をこぼされるものだから、私はそのたびにドキドキとしてしまって仕方がなかった。

美少女のため息、破壊力が大きすぎる…


 あまりにもため息をつくものだから、具合のでも悪いのかと思い、どうしたのか尋ねてみたが、「お気になさらないで。気合をいれていないと、少しばかりリラックスしすぎてしまうんですの。聖女様の御前で大変なご無礼をいたしましたこと、お許し下さいませ。」といって、ニッコリとほほ笑まれた。

「体調が悪いのでないならよかったです。」というと、カルラ様はかわいらしい垂れ目を細め、「ええ、体調は…近年まれに見るほどの良さで、正直わたくしも驚いておりますわ。」そういうと、入浴の準備をして参りますといって退室してしまった。


 カルラは聖女様の部屋から下ると、扉の前で「すう~…はあ~…」と大きく深呼吸した。すると、背後から珍しく楽しそうな声色の人物から声をかけられた。

「やあ、さすがはカルラ嬢だね。これだけの時間、聖女様と同じ部屋にいてなんともないように見えるよ?」

と殿下がのたまった。

 この城の中で、聖女様が無尽蔵(むじんぞう)に垂れ流す魔力にあてられないものはいないだろう。魔力量が多いカルラですら多少フワフワしている。ただし、聖女様の魔力は全く攻撃性がなく、とても優しく、心地よくなりすぎる以外に問題はない。しかし、仕事をする者にとってはいささか迷惑すぎるほどの「癒し効果」が大きい。


「ええ、そうですわね。だてに鍛えてはおりませんことよ。それにしても、無自覚でこのお力ですもの…今夜も大変ですわね。殿下。」

 殿下の小憎(こにく)たらしい態度に、不敬にならない程度にお返ししても(バチ)は当たらないだろう。


 言いたい嫌味は伝わったのだろう。殿下は少し目を開くと、「そうか、カルラ嬢は昨晩から控えていたのだったね。昨日の聖女様から魔力を感じられる者は、数えられるほどしかいなかったはずだからね。それでもあの有様だから、参ったものだよ。」と言った。


 殿下からは、全く参ったような素振りは見えない。

無表情ではあるが、昨晩ご自身で(ほふ)ったラルハナール国の刺客のことなど、露ほども気に留めていない様子がうかがえる。


 殿下の忠実なるしもべであるクラウス様がおっしゃるには、昨晩、聖女様の部屋に侵入しようとした不届き者が、殿下に殺されたという話だけだ。まあ、その後襲撃者除(しゅうげきしゃよ)けという理由で聖女様を抱えて添い寝(そいね)していたことは、私にしか分からないだろう。クラウス様には、あのお部屋にいらっしゃる聖女様が見えてないのだから。


 それより、殿下が私に聖女様のお姿を見えるようにと真眼(しんがん)魔術をかけてくださったのに、クラウス様にかけなかったことを知って多少驚いたが、何となく合点がいったような気がする。


「わたくしだけに魔術をおかけになられたうえ、我が父上に聖女様の護衛兼侍女(ごえいけんじじょ)にまで推挙(すいきょ)していただけるなんて、どういう風の吹きまわしかと思いましたが…クラウス様にあのようなお姿を見られなくてようございましたわね。いくら殿下と言えども、お小言では済まされませんでしたわよ?」


 殿下が少しだけ動揺したように気を揺らがせたが、すぐさましっかりと対外向けの笑みを浮かべられると、「ふふ。やはりカルラ嬢で適任だったらしい。今夜もしっかりと私が警護しないとね。」といって、立ち話に()きられたのか(きびす)を返してしまわれた。


 「聖女様も大変ですこと。」明日の朝を想像し、思わずカルラの口から言葉がこぼれる。

今まで他人に全く興味を示さなかった帝国の第一皇子から、出会ってたった一晩で執着されている様子に、同情を禁じ得ない。


 仕方ありませんわね。こんなにやさしい魔力を持つお方ですもの、異界の方とはいえお姿が見えるようになってしまったら、なおさら…きっと引く手あまたですものね。

「おほほほ…!」

殿下、今のうちにせいぜい頑張りあそばせ…と不敬にも高笑いが止まらないカルラだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ