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乙女の秘密  作者: 安芸
本編
9/12

八 湖の貴婦人へ 願うこと

 大詰めです。

 

      

 突然、道が開かれた。

 いつのまにか洞穴を抜けていて、眼の前には小波ひとつない青い湖が横たわっていた。

 そしてそこには、やや憔悴した面持ちのアスカルディが待っていた。

「ルディ兄さま」

 カリサは思いっきり手を伸ばして、アスカルディの首に飛びついた。

 しっかりと抱きとめられて、きつく、強く、抱き締められる。

「よかった、無事で」

「この腕輪のおかげ……ありがとう。ルディ兄さまは? 大丈夫?」

「君を眼の前で喪うという、最悪の悪夢を見たけどね。まあ、なんとかなった。君を信じていたんだ、必ずまたこうして会えるって」

「うん」

 カリサはアスカルディの頬に頬をすりよせた。

「わたしも会いたかった」

 心が安心感に満たされる。

 カリサはアスカルディと二人寄り添う形で、湖を振り返った。

 天上には白い月がかかり、湖面に揺らいでいる。

 ほどなく、湖の中央部がふわん、と球状に盛り上がり、はらっと崩れた。

 そこに現れたのは、青く輝く、掌に乗るぐらいの小さな光の像。

 これが、“湖の貴婦人”に違いない、とカリサは思った。

「誓願を。ゆっくり、はっきり、三度唱えよ」

 胸に手を置き、カリサは「この地を愛し、守ることを誓います」と三回繰り返した。

 これを聞き届けて、湖の貴婦人はくるっとまわった。

「そなたの願いを言ってみよ」

 ゾフィのきつい警告が思い起こされる。

『ここで願いを言ってはいけません。正しい選択は沈黙です』

 カリサは黙っていた。

「そなたの願いを言ってみよ。妾がかなえてやろう」

『ここで答えてください。嘘はだめ。正直に、率直に答えるんです』

 誰よりも立派な紅の騎士になりたいと、そう願おうと決めていた。

 だけどいまは、それはまちがった願いだと、わかる。

 理想の騎士となるためには、ひたむきな努力こそが必要だ。嫌な過去にも眼をそむけず、向き合って、克服し、次への経験値とする。それこそがかけがえのない、自分の矜持となる。楽して得るものなど、本当ではないだろう。

 カリサは考えるより先に、動いていた。

 アスカルディの胸に、額を預ける。

「いつかこのひとの幸せな花嫁になれるように、見守っていてください」

 湖の貴婦人は先ほどとは逆回りに、くるっとまわった。

 光の像が、ひときわ明るい青の光彩を放つ。眩しくて、安らかな青だ。

 そして、尊く響く声ならぬ声。

「そなたの願い聞き届けよう」


 あと、小二話です。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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