七 激闘
今回は、カリサの独壇場。
気がつけば、六歳に戻っていた。
どういう作用なのかわからず、うろたえてしまう。
そして眼の前には、六人の男たち。屈強な体格、荒々しい声、乱暴なふるまい、はじまる口論、罵倒、掴みかかり、殴り合う。矛先は、すぐに自分にも向いた。
蹴り飛ばされ、踏みつけられ、もののように投げつけられた。嘲笑われ、頬を叩かれた。
挙句、咽喉を絞められた。
「殺したら、捨ててこい。身代金をいただいて、とっととずらかろう」
そして呼吸ができないまま、真っ暗な闇に落ちた。
次に眼を醒ましたときは、夜だった。暗くて狭くて臭くて寒かった。泣き叫び、声が涸れるまで、助けを求めた。
果てしなく長い孤独と恐怖の二日間。
救出されたときは錯乱状態で――重傷を負っていたこともあり――生死の境をさまよった。
いま、あのときの悪夢をカリサは再び味わっていた。何度も何度も、繰り返された。逃げられなかった。泣きながら逃げまどい、面白がられて、追いかけまわされ、暴力を振られる。負の連鎖。始まりも終わりもなく、延々と続く。
「いや、もうやめて」
カリサは絶叫した。
「助けて、助けて、助けて――」
髪を掴まれ、たぐられ、身体を吊りあげられる。
振り回され、床に叩きつけられる。
身体がばらばらになりそうな衝撃、痛み、苦しみ。
死の感触――。
「た……す、け、て……か、あ、さ、ま……ル……に、さ、ま……」
こと切れる、暗い世界に引きずり込まれる、その寸前、シャラッ、とかすかな金属の擦れる音。
カリサは朦朧と歪む意識をたぐりよせ、眼をひらいた。涙で視界が滲む。ぼんやりと、腕輪をとらえる。脳裏に、優しい声がよみがえる。
――これは、お守り。持っていて
どくっ、とひときわ激しく打つ鼓動。
アスカルディの笑顔がひらめく。
途端、白い閃光が放射状にはしって、闇影を斬り裂いた。そう感じた。
気がつけば、望むまま、ミオングに預けた自身の長剣の柄を握りしめ、六人の男たちの幻影と対峙していた。
ふつふつと、闘志が湧いてくる。
この十年、苦しみぬいてきた。親しい人たちから離れ、ひとりでなんでもこなさなければならなかったのだ。
でも、孤独ではなかった。
厳しいけれど頼れる上司や、仲間たちがいた。
会えなくても、支えてくれる存在もあった。
そのすべての人々の助けがあってこそ、いまの自分がある。
「……負けない。もう、あのときの子供じゃない。わたしは紅の騎士団の正騎士になるんだから……っ。こんな、過去の亡霊にいつまでも悩まされたりしないわ!」
カリサは雄叫びをあげながら、無我夢中で剣を振り上げ、突っ込んでいった。
続きます。
もうひと山越えて、クライマックスです。
次回、短いけど、冒険譚終了。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。