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乙女の秘密  作者: 安芸
本編
8/12

七 激闘

 今回は、カリサの独壇場。


 気がつけば、六歳に戻っていた。

 どういう作用なのかわからず、うろたえてしまう。

 そして眼の前には、六人の男たち。屈強な体格、荒々しい声、乱暴なふるまい、はじまる口論、罵倒、掴みかかり、殴り合う。矛先は、すぐに自分にも向いた。

 蹴り飛ばされ、踏みつけられ、もののように投げつけられた。嘲笑われ、頬を叩かれた。

 挙句、咽喉を絞められた。

「殺したら、捨ててこい。身代金をいただいて、とっととずらかろう」

 そして呼吸ができないまま、真っ暗な闇に落ちた。

 次に眼を醒ましたときは、夜だった。暗くて狭くて臭くて寒かった。泣き叫び、声が涸れるまで、助けを求めた。

 果てしなく長い孤独と恐怖の二日間。

 救出されたときは錯乱状態で――重傷を負っていたこともあり――生死の境をさまよった。

 いま、あのときの悪夢をカリサは再び味わっていた。何度も何度も、繰り返された。逃げられなかった。泣きながら逃げまどい、面白がられて、追いかけまわされ、暴力を振られる。負の連鎖。始まりも終わりもなく、延々と続く。

「いや、もうやめて」

 カリサは絶叫した。

「助けて、助けて、助けて――」

 髪を掴まれ、たぐられ、身体を吊りあげられる。

 振り回され、床に叩きつけられる。

 身体がばらばらになりそうな衝撃、痛み、苦しみ。

 死の感触――。

「た……す、け、て……か、あ、さ、ま……ル……に、さ、ま……」

 こと切れる、暗い世界に引きずり込まれる、その寸前、シャラッ、とかすかな金属の擦れる音。

 カリサは朦朧と歪む意識をたぐりよせ、眼をひらいた。涙で視界が滲む。ぼんやりと、腕輪をとらえる。脳裏に、優しい声がよみがえる。


 ――これは、お守り。持っていて


 どくっ、とひときわ激しく打つ鼓動。

 アスカルディの笑顔がひらめく。

 途端、白い閃光が放射状にはしって、闇影を斬り裂いた。そう感じた。

 気がつけば、望むまま、ミオングに預けた自身の長剣の柄を握りしめ、六人の男たちの幻影と対峙していた。

 ふつふつと、闘志が湧いてくる。

 この十年、苦しみぬいてきた。親しい人たちから離れ、ひとりでなんでもこなさなければならなかったのだ。

 でも、孤独ではなかった。

 厳しいけれど頼れる上司や、仲間たちがいた。

 会えなくても、支えてくれる存在もあった。

 そのすべての人々の助けがあってこそ、いまの自分がある。

「……負けない。もう、あのときの子供じゃない。わたしは紅の騎士団の正騎士になるんだから……っ。こんな、過去の亡霊にいつまでも悩まされたりしないわ!」

 カリサは雄叫びをあげながら、無我夢中で剣を振り上げ、突っ込んでいった。


 続きます。

 もうひと山越えて、クライマックスです。

 次回、短いけど、冒険譚終了。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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