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乙女の秘密  作者: 安芸
本編
6/12

五 秘密の伝承

 今回も女の子だけです。

 カリサ、美しくなーれ! 


 馬車は茜色に輝く町を抜け、金色に染まる丘を越え、藍色に沈む森に入った。

 森のうねうねと続く小道を這うように辿るころには、あたりはすっかり暗くなった。御者の顔は見えなかったが、小さな角灯ひとつでも迷うことなく、どんどん先を行った。

「着きました」

 馬車を降りる。

 そこにあったのは、あたたかな灯りが滲む小さな三角屋根の館と、すぐ横に、ぱっくり口を開けた大きな洞穴。真黒な穴の向こうは、なにも見えない。

「さあ支度をいたしましょう」

 館の扉には鍵がかかっていたが、ゾフィが開けた。内部は驚いたことに、家具も、調度もすべて深い青で統一されていた。

「“湖の貴婦人”がお好きな色です」

「“湖の貴婦人”?」

 ゾフィは「はい」と言って、青い箪笥の前に立ち、カリサに開けるように促した。カリサが箪笥を開けると、中に一着の青いドレス、靴、青い薔薇の花冠が用意されていた。

「これを着るの?」

「ええ。これは“湖の貴婦人”があなたのために用意してくれたドレスです」

 ドレスも靴もあつらえたようにぴったりで、カリサを驚かせた。

「“聖なる乙女”として、“青の乙女”のあなたに秘密を伝えます」

 ゾフィは花冠をテーブルに残したまま、カリサを大きな青い鏡台の前に座らせると、青い化粧箱を取り、青いブラシで長い髪を梳きながら話しはじめた。

「これは “湖の貴婦人”の祝福を受けた血をひく乙女だけに伝わる秘密。資格のある女性が大人の仲間入りをする夜、前に祝福を受けて資格を得た女性が、この秘密を伝える役目を担います。それが“聖なる乙女”、つまりわたくし。そしてこの秘密のお話が唯一できる場所が、この“乙女の館”です」

 カリサはわかったような、わからないような顔をしてゾフィの話を聞いていた。

「そして秘密を打ち明けられたあなたは“青の乙女”として、“道”を通ることが許される」

「“道”?」

「この館の隣にあった洞穴です。あなたはこれから、ひとりもしくは付添い人とふたりで、あの中へ入ります。しばらく行くと道が二手に分かれるので、あなたは右の道へ、付添い人は左の道へいってください。間違えてはだめですよ」

「もし間違ったら?」

「出てこられません」

 ぞっとした。ゾフィの眼が深刻で、とても茶化せない。

「闇の中で試練に遭います。それがなんなのかわかりませんが、あなたにとって一番恐ろしいものです。あなたはそれを打ち砕き、克服して、“道”を通り抜けなければなりません。付添い人も同じ。迎え討たなければならないのです。もし無事それを果たすことができましたら、青い湖のほとりで再会できます。そこで“湖の貴婦人”があなたを待っている」

 いったん言葉をきって、ゾフィが鏡の中のカリサをみつめた。顎をつまみ、左右を向かせて、考え、額から耳にかかる髪をねじり上げ、すっきりとまとめあげる。

「“湖の貴婦人”とずうっと昔から呼ばれているらしいのだけれど、その正体は本当のところ、わかりません。ただ、この土地の守り神らしき存在のようです。試練と誓願とを引き換えに、願いをひとつ、かなえてくださるの」

「えっ。願いをかなえてくれる? どんな願いでもいいの?」

「動いてはきれいにできませんよ」

 たしなめられて、カリサはおとなしく座りなおした。

 ゾフィは髪型の出来栄えに満足すると、化粧にかかった。

「ただし、悪い願いはだめ。本当に心から望む願いだけ、かなえてもらえます。それも、決まりがあって、正しい順序で、正しい選択をしたときだけ、きいてもらえるのです」

「もしまちがったらどうなるの?」

「湖に引きずり込まれます」

「……どうしてもやらなきゃいけないの?」

「義務なのでしかたありません」

 ゾフィが励ますように両手を握りしめる。

「『この地を愛し、守ることを誓います』。これが誓願の言葉です」

 ゾフィは紅筆を持ち、仕上げに薄い珊瑚色の口紅をカリサの唇にひいた。

 鏡の中のカリサは、自分でも見違えるくらいおとなびてみえた。

 ゾフィの手が仕上げに、そっと、青薔薇の花冠を支えてカリサの頭にのせる。

「……きれいにできてよかった。さ、いま申し上げたこと、忘れないでください。ひとつでもまちがったら取り返しがつきませんので、くれぐれも気をつけて――頑張って」



 次回、アスカルディ、シュナイツァー登場です。


 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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