四 成人の儀を終えて、それから
今回はアスカルディは出番なし。
翌日、早朝、カリサは一家で教会に足を運んだ。
午前、カリサは懺悔室で十六年分の告白をし、その間、両親は洗礼名や寄付金、儀式の手順などの話を詰め、必要書類に署名し、午後には儀礼用ドレスを見つくろいにいった。
そのあとは挨拶まわりをし、方々で祝福を受け、屋敷に戻ったのは日が暮れてからだった。
成人の儀、当日。
さいわい、空は雲ひとつない晴天で、風は微風、すがすがしい陽気に誘われるように、大勢が祝いのため集ってくれた。
カリサは迎えに来てくれたアスカルディ(なんとこの朝も女装だった。濃い化粧と山吹色のドレスがよく似合っていた)に付き添われ、教会にいって洗礼を受け、成人後の洗礼名を授かり、守護聖人の名のもとに法に則った義務を果たすことを誓って、署名と血判を捺した。
そして両親と妹弟が待つ広場中央に赴いて、祝福を受けた。
乾杯と花吹雪、歓声と拍手の嵐の中で、カリサは晴れて大人の仲間入りを果たしたことを実感した。 これで正騎士になれる、そう思った。
「ご歓談中、失礼します」
と、丁寧に話の腰を折って現れたのは、ゾフィだった。
ゾフィは小柄でかわいらしい女性だった。焦げ茶色の小さな瞳に焦げ茶のふわふわの髪。軽い自己紹介をすると、おっとり微笑んで言った。
「成人の儀、最後のおつとめがまだございますの。わたくしがご案内いたしますので、一緒に来ていただけますでしょうか」
「あのう、でも、わたしまだごちそうを食べてない――」
抵抗も空しく、待機していた白い花飾り付きの馬車が迎えに来た。
泣く泣く乗り込むと、すぐあとにゾフィも続いて、馬車の扉が閉められる。
「これから、一番肝心な儀式があります。これが済まないと、成人の儀は終了しません」
「あの、どこへ行くの?」
「“乙女の館”です」親しげにゾフィは笑む。「今夜は大事な夜。いまからいく館は、一生で二度しか入れない場所なのですよ」
「あ! 待って、両親に一言断っておかないと」
「ご両親をはじめとして、皆さんがあなたの無事を祈っておいでですわ」
カリサは動き出した馬車窓から首を出して、振り返った。広場にいたほとんどのひとびとが、硬い表情で手を振り、見送ってくれている。
「これからなにがあるの?」
緊張が胸を蝕む。ゾフィの柔和だが真剣なまなざしが、遊びではないことを告げていた。
ゾフィが励ますようにカリサの手を握って「着いたらお話します」と小さく呟いた。
テーマが恋と冒険だったので、次は冒険パートです。
いま、ちょうど中盤ですね。これから後半に移ります。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。