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乙女の秘密  作者: 安芸
本編
2/12

一 再会は、雨の中

 女装の男性。

 意外に書きやすかった……自分にびっくりです。

      


 ハーゲルダッドは針葉樹の大森林と起伏のある丘陵、大小さまざまな湖沼が点在する国だ。

 深い森を開拓してつくられた街には必ず高い尖塔つきの教会があり、のどごしもまろやかなエールが飲める酒場がある。

 カリサは王都レンヴァッハからリーグ街道をひたすらいった。故郷ベルトワまでは三日の旅だ。左右を重く暗い森に挟まれた古道を、延々と駆ける。宿場では朱色の煉瓦屋根、四角い石造りの一戸建て、仰々しい装飾過多の教会が静かなたたずまいを見せている。

 三日の旅は、順調だった。

 天候にも恵まれ、余計な面倒事に巻き込まれることもなく、道中の宿などでも、紅の騎士見習いとして恥ずかしくない振る舞いができたと思う。

 

 紅の騎士団。

 王妃直属、女だけで構成された、紅の軍装の近衛兵。

 王妃や王女を護衛することが任務のため、とにかく、どこへいくにもついていく。そのために要求されることの、なんて多いことか。そこに個人の欲求を挟む余地も、自由もない。自分を磨いて、磨いて、磨きぬいて、経験を積んだものだけが、正騎士の栄誉を賜れる。

 容姿も重要視された。

 王妃や王女は、身だしなみには特に厳しかった。カリサは薄紫の瞳と白金の長い髪を王女に気に入られていたため、警護の中でももっとも下っ端だったが、常に数に入れられていた。

 襟が白いのは、見習い騎士の証し。けれど、その軍装を許されるまで、八年かかった。六歳になったばかりの年に入団し、完全寄宿制により、三年の集団生活で規律を学び、五年の軍事訓練を積んだ。あとの二年は見習い騎士として隊の末席に名をおくことが許されたので(アリネア隊長は厳しく、言い訳を許さなかった)、とにかく必死に隊務をこなした。

 この十年は、めまぐるしく、ただただ忙しい日々だった。


 ベルトワまであと少し、というところで雨が降ってきた。

 カリサは馬をひいた。街道から脇にそれ、大木の下に避難する。

「……こんなところで足止めをくうなんて、ついてないなあ」

「本当ねぇ」

 ぎょっとした。思わず、背に隠した短剣の柄に手を伸ばす。

「驚かせちゃった? ごめんなさいね、怪しいものじゃないわ」

 と言いながら、裏側からひょっこり顔を出したのは、ずいぶん背の高い美人だった。

 肩まで届く髪は華やかな金色。切れ長の碧眼は涼しげで、深い。立ち襟の一枚ものの緋色の長衣に、紺の上着を重ね、前を留め具でとめている。腰に腰布を巻いて、草を編んだ履物をひっかけ、首と耳と胸元と手首には、それぞれ金と銀と紫の石の飾りもの。

 じゃらじゃら着飾ったその美人が、カリサの顔を一目見て、大きく碧眼をみはった。

 なにか言いかけたその唇を、カリサは咄嗟に掌で塞いだ。うしろを振り返る。

「隠れて。静かに。こっちに――伏せてください」

 有無を言わさず、カリサは強引に美人の上に覆いかぶさった。

 幾重もの馬蹄音、そして卑猥な野次と喚声。襲撃を唱える鬨の声。荒くれものの猛り狂う騒々しさが、後方より近づいてくる。

 恐怖は感じなかった。ただ、多勢に無勢を相手では不利だ、と思った。こちらは女二人。武器は短剣ひとふりのみ。腕には多少憶えがあるとはいえ、集団で来られては勝ち目などないに等しい。いざとなったら、このひとだけでも逃がさなければ――。

 どしゃぶりの雨の中、獣のような集団は、吠え、叫びつつ、得物を振り回し、うねるように丘を駆け下って、あっというまに遠ざかっていく。

「……いったわね」

「奴ら、賊ですね。これからどこか襲うつもりかも。街道警備隊に通報しないと」

「そうね、そうしましょう。それにしても、カリサが無茶しないでよかったわ」

 なにげなく名を呼ばれたので、うっかり聞き過ごすところだった。

 馬の手綱をときながら、カリサは肩越しに振り返った。

「わたし、名乗りましたか?」

「まだわからないの?」 

 美人が微笑む。 

「私、アスカルディよ」

 カリサは食い入るように美人をみつめた。ややあって、眼を剥く。わなわなと、震える指で、相手の胸を指す。息があがる。咽喉がひきつる。声が掠れる。

「……あの、まさか、ルディ兄さま?」

「あたり」

 美人が、きらきらしい笑顔で拍手のしぐさをする。

 そのまま、カリサは眼を開けた状態で、卒倒した。

 意識を失う最後の瞬間に思ったこと。

 ――こんな再会、あんまりだ。



 とりあえず、連続投稿で。

 続きはまた明日。いや、もう今日かあ。


 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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