プロローグ
軽く、浅く、恋のお話を愉しめるものを、と思いまして。
ファンタジーという制約があったため、恋愛カテゴリーながら、こんなです。
中編です。
カリサが上司アリネアに呼ばれて応接間にいってみると、そこに待っていたのは、紅の騎士第七師団総隊長ミオングだった。
ミオングは三十台半ばの知的な女性で、おまけに美人だった。正騎士の証しである紅の軍装を整え、金の腕章を嵌めている。
カリサはあわてて片膝をついた。頭を下げ、右肘を折り曲げて、従順な姿勢を取る。
「お呼びにより、まいりました」
「顔をあげて、所属と階級、名を名乗りなさい」
「はい。紅の騎士第七師団九番隊見習い騎士、カリサと申します」
姓と家名、爵位などは入団の際に没収され、退団までは騎士団の預かりの身となる。
ミオングはカリサをしばらくじっと見つめてから、口をひらいた。
「入団して何年目です」
「ちょうど十年になります」
ミオングはカリサを立たせて、わかっている、というようにうなずいた。
「この二年あまりの間、あなたの見習い騎士としての成績は大変優秀でした。素行もよく、その献身的補佐を評価して、あなたを第十位正騎士へと昇格します」
それはカリサがずっと望んでいたことだった。
あこがれの正騎士――!
カリサの顔が喜びに輝く。思わず、壁際に控えているアリネアに視線をやると、普段は仏頂面で愛想のない上司も、誇らしげに微笑んでくれた。
「ついては、成人の儀の終了届を提出してもらわなければなりません。未成年のままでは、正騎士には就任できませんから、早急に必要です。あなた、先月十六になりましたね?」
「はい」
「よろしい。誕生籍のある土地でなければ取得できないとあれば、仕方ありません。十四日間の帰郷を許可します。成人の儀終了届を取ってきなさい。言わずもがなのことですが、期日までに帰還しない場合は、昇格はおろか、資格剥奪の上、即退団です。心して行きなさい」
「はい!」
それもまた、望んでいたことのひとつだった。せっかく十六になったのに、成人の証しがなくては、いつまでたっても子供扱いのままなのだ。
「腕章と剣は預けていきなさい。軍装も禁じます。今回の帰郷は、休暇扱いとします」
カリサが戸惑いしてアリネアを見ると、上司が無言でうなずいたので、命令に従った。
退出後、アリネアは身軽になったカリサの肩を叩いて笑った。
「正式に任官する前のほんのわずかな自由だよ。せいぜい羽を伸ばしてこい。多少のはめをはずすのはかまわんが、くれぐれもばかをやりすぎるなよ」
「……本当に、お傍を離れても大丈夫ですか。あの、か、帰ってきたらわたしの居場所がないなんてことは、まさか……そんなことないですよね?」
「そんな心配は無用だ。おまえの居場所はおまえのものだ、他の誰も埋められない。みんな待っているから、無事にいって帰って来なさい」
カリサは勢いよく返事をし、特急で旅支度と馬装を整え、その日の午後には出立した。
胸が躍り、顔はにやけて、口元がゆるむ、十年ぶりの帰郷。
胸に思い浮かべるのは、ひとりのひと。
最後に会ったのは、二年前。
ようやく会える。待ちに待った再会だ。
今度こそ告白しよう――絶対の絶対に。頑張るんだ。頑張って、伝えるんだ。
あなたが好きです、って。
十六歳の少女騎士が主人公の小さな物語です。
相手が大人の悪い男というのが、どうも、その。うーむ。爽やかじゃない……。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。