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死んだ婚約者による恋愛指南書  作者: 桐城シロウ
第一章 飲み込んでしまいたい、彼女の人生を丸ごと
7/51

6.具沢山の美味しい釜飯とBL本と

 




 このイケメンは一体何がしたいんだろうか……。それともドライブデートと称して、私に辱めを……? 最近見慣れてきた、BL本や同人誌が沢山置いてある、腐女子御用達コーナーの前で、白いジャケットを爽やかに羽織った槇田さんが首を傾げ、私の顔を覗き込んでくる。



「あれ? 元気が出るかと思ったんですけど……」

「あ、あああああの、嬉しいは嬉しいんですが! で、でも、あの、槇田さん? はっきり言って死ぬほど浮いてるし、」

「いや、ただの本屋だし。大丈夫なのでは?」

「いえいえいえいえ、いやいやいや、ぜんっぜん何も分かってないですよね!? その発言は! ただの本屋じゃないし、ここ!」

「えーっと、その、すみませんでした……」



 いかがわしいキャッチコピーと肌色満載の男たちを見ても、槇田さんは眉一つ動かさず、「あかねさんが好きな作家さんの新刊、出てますね~」と言って、その本をひょいっと持ち上げた。あれか? 教えた私が悪いのか?



(オタクしかいない店内でこのきらっきらの、ぴかぴかの輝きっぷりったらもう……ああっ、心なしか店員さんからの視線が痛い! ここはデートする場所じゃねぇんだよ、クソカップルどもは散れっ! みたいな視線を感じるっ)



 はっきり言って、完全に浮いている。所狭しとフィギュアやアニメグッズが並べられた棚を興味深そうに見上げ、「へー、こんなのもあるんだ。色々置いてありますね」と言っている槇田さん、超絶爽やかイケメン。今日は細身のデニムに紺色のTシャツを合わせて、白いジャケットを羽織っていた。ちなみに私も私で、綺麗めな紺色ノースリーブワンピースを着て、メガネも封印しているので完全に浮いてる。ここに来るなら、オシャレ、絶対してこなかったんだが……?



「あ、ああああのっ、出ましょうか? もうっ!」

「えっ? どうしてですか? こういうところ、好きなんですよね?」

「好きか嫌いかで言ったら、愛してますけど! そりゃ!!」

「なら、いましょうよ。それに新刊も買えばいいんじゃ……?」

「死ぬほどチキンで恐縮なんですけど、まだ腐りかけなので私……その、買う勇気が無く、後日ネット購入ということになりますがよろしいでしょうか?」

「じゃあ、俺が買ってきましょうか?」

「は、はい!? 待って、私の罪が深まってしまうっ!!」

「罪が深まってしまう……? たまに面白いことを言いますよね、あかねさんは」



 面白かったのか、くすりと上品に笑って、私が「うあああああーっ! 読みてえ! 今すぐ家に帰って読みてえよおおおおっ!!」と心の中だけで叫んでしまった新刊を横に軽く振った。これは年上スパイ(鬼畜)がいたいけな美少年後輩を散々になぶるあれこれで、絵も美麗すぎて目が潰れそうだし、この作家さんのコマ割りは天才的なので、ページをめくるたびに「ひゅっ」と息が止まってしまうやーつ! 



 そんなえっちなBL本を何のためらいもなく、「それじゃあ、買ってきますね~。俺」と爽やかに微笑んで、メガネの地味な女性店員が待つレジへと向かっていった。こっわ! あの爽やかイケメン、こっわ! 怖いもの知らずか? 見知らぬ他人に腐男子という烙印をばんと押されても、平気なんだろうか? お姉さんガン見しちゃってるし、うわわわわわわ! 名門大学を出たお医者様に、私は、一体何ということを……?



 しかし、止める勇気が我にはありませぬ。ちーんと、おりんの音が脳内で響き渡った。そっと胸元で手を合わせてしまう。ネット購入じゃ絶対絶対我慢出来ないし、今すぐ欲しい。今すぐ家に帰って読みたい。もう、よだれが流れ落ちてしまうほど欲しい。しかしー? 買う勇気も無く、槇田先生を止める勇気も無く、ただひたすらそのお会計をする後ろ姿を見守るだけっていう……。嗚呼、世は無情なり────……。




「はい、どうぞ。これ、欲しかったんでしょう?」

「あっ、ああああありがとうございます!! 本当、申し訳ない……あっ、お金返しますね!」

「いや、別に。大した金額じゃ無いし」

「いやいや、こういう本は自分で買ってこそ! いや、成果を挙げたのは槇田先生ですが……」

「成果……?」



 じわじわと、春の熱気が漂う店先で白いミニトートバッグを漁って、お目当ての財布を探す。どっこかなー? 柴犬ちゃん柄の可愛い財布はどっこかなー? いつものポケットに無くて、ひやりと、背筋に冷や汗が伝う。いやいや、バッグの底にあるかもしれないじゃん? 水筒とかと紛れている可能性もあるじゃん? よく探せよ、私ー。笑顔で焦りながらも、必死に手を動かして探してみる。でも、無い! 無い! まさかの、どこにも無いっ!



「うっ、うっそー!? なんでぇ!? なんでどこにも無いのっ!?」

「あ、あの、お金は本当にもういいので……お財布、家を出る時にはあったんですよね?」

「あり、ありましたよ~……ちゃんと中に入れた記憶があるのに。あっ、もしかして、車の中に落ちてたりして?」

「その可能性はありますね。戻って探してみますか?」

「いやっ、うーん……でもなぁ」



 ちらりと、腕時計を見つめる。時計の針は十一時四十六分を指し示していた。やっばい。十二時から釜飯食べるのに。私が無言で青ざめていると、気を使って「お店のほうに連絡しましょうか? それとも、俺が探しに行きましょうか? あかねさんだけ、先にお店に行って……」とそう提案してくれる。



「あの、もういいです……行きましょう。ここからちょっと歩くし、遅れたらお店の人にも申し訳無いし」

「分かりました。お金なら俺が出すので、本当に気にしなくて大丈夫ですからね?」

「ぶわ~……今日こそ、今日こそ奢ろうと思ってたのに! ぶわあぁっ」



 いっぱい課金アイテム貰ったりしてるし、毎回毎回、奢って貰うのもなぁ。何だかなぁと思って、「今日は私! 出しますからね!?」と張り切って宣言したというのにこのていたらく。がっくりと落ち込んで、春なのに炎天下の歩道を歩いていると、槇田さんが苦笑して、ぽんと私の頭を叩いてくれた。



「大丈夫、大丈夫。きっとありますよ、車の中に。あっ、そうだ。保険証とか車の免許証とかは?」

「大丈夫です。今日は持って来てないです……」

「ならよかった。まぁ、そう落ち込まないで」



 耳に心地良い、優しい声がするりと入ってきた。つられて見上げてみると、言葉の通り、優しい微笑みを甘く浮かべている。でも、そこで感じるのは僅かな違和感。どうして、この人はこんなにも私によくしてくれるんだろう? じわじわと、アスファルトから熱気が立ち昇ってくる。すぐ横の道路は広くて、この先に高速道路があるからか、車がかなりのスピードでばんっと通り過ぎて行く。普段は滅多に着ない、紺色のしっかりとした生地のスカートがその風にふわりと揺れ動いた。



「あの……槇田さん?」

「はい? どうかしましたか?」

「ええっと、その、私の一体どういうところがその、好きなんですか……? ちっ、ちちちちなみに、私は槇田さんの優しいところが好きですね! 今みたいに!」



 だ、だめだだめだ。まだ告白されたわけじゃないんだし! でも、分かりやすいほど、好意を向けてくるからきっとたぶん、この人は私のことが好きなんだ。現に今日も、婚約指輪付きのネックレスを外してやって来た私を見て、「今日はあれ、付けてないんですね?」って言って、嬉しそうに笑ってたし。私の慌てっぷりを見て、まるで幼稚園の先生みたいにゆっくりと微笑した。それから「今日は本当に暑いな」と呟いて、白い手を目元にかざして、陽の光を遮る。



「……まず、明るく笑っているところが好きですね。こう、ぱっと場の雰囲気が一気に、強制的に明るくなるというか」

「ほ、ほうほう? なるへそ……?」

「それから、一緒にいると景色の明度が高くなるところ。かな」

「明度が高くなるところ……?」



 ものすごく意外な言葉が出てきたぞ、おい。額に汗がじわりと滲み出てきた。顔がテカりませんように、テカりませんように! お店に着いたらすぐ、メイク直ししに行ったほうがいいかもしれない。ぎらぎらと、春にしては暑すぎる陽射しが照りつける中で、槇田さんが力なく笑う。



「そう。……何をしていても楽しくなかったところへ、あかねさんが来てくれたから」

「へ、へえ、そうだったんですね……」

「最近、ストレスが溜まっていたせいかな? ほら、あるじゃないですか。ドラマを見ていても、ゲームをしていても、何をしていてもつまらなく感じちゃう時が。それですよ、それ」

「ああ、そうですね……疲れている時とか、よくそうなりがちですよね」

「そうなんですよ。でも、どんなに疲れていても、あかねさんと一緒なら見る景色も色も、食べるものも、何もかもが変わってくる。全然、いつもの景色が違って見えて……だからかな? そういうところが好きです」



 槇田さんの言葉選びはちょっとだけ不思議で、夏のメロンソーダを想起させる。どこか晴ればれとした、清々しい表情がそうさせるのか、槇田さんのいる場所だけ一足先に、爽やかな夏が来たみたいな、そんな感じがした。空の綺麗な青さと、白い入道雲と、白いジャケットと。槇田さんはただただ、私を見つめて笑っていた。ふわりと風が吹いて、黒髪が耳元でたなびいてゆく。



「あの、えーっと……すごく褒めて頂いて、その、ありがとうございます?」

「どういたしまして。あー、腹が減ったなぁ。ぺこぺこだ。あかねさんは?」

「ああ、私も最近、食欲が出てきたし、お腹が空いちゃって空いちゃってもう」

「良かった。釜飯の店にしては珍しく、ジビエ料理も扱ってるんですよ」

「ジビエ! 鹿とか猪とかですかね?」

「ですね。俺としてはデート向きの、もうちょっといいところが良かったんですけどね」

「いやいや、十分、いいところですよ……かなりお高いじゃないですか。そりゃ、この間行った焼肉屋ほどじゃないですけど!」

「ははは。……これからはもっと、あかねさんを色んなところに連れて行きたいな」



 そっと柔らかく、さり気ない仕草で私の手を握り締めてきた。この間みたいな息苦しさは無くて、自然と手を繋いで歩ける。脳裏に朔ちゃんの顔が浮かんできた。でも、死者とは結ばれないから。結婚は出来ないから。ふと上を見上げてみると、綺麗な青空が広がっていた。暑いけど春らしく、まだ風は爽やかで。



(……うん。朔ちゃん、これでいいんだよね? 朔ちゃんが望んでたことって、こういうことなんだよね?)








 少し暗めの照明に当てられ、てかてかと光り輝いている、炭火であぶった鶏もも肉に黄色い卵、色鮮やかなスナップエンドウにごぼう、甘辛くした生姜にくったりとした玉ねぎ。運ばれてきた釜飯はすごく美味しそうで、これにお漬物と味噌汁、冷たい玉子豆腐まで付いている。向かいの座布団に座った槇田さんは、牛肉のすきやきと鹿肉、れんこんと人参、糸こんにゃくがどっさりと入った、甘辛い釜飯を頼んでいた。それに追加で、いくつか羊肉の串焼きまで頼んでる。一旦、お箸を手に取ったものの、するすると食べ進めていく槇田さんをじっと見てみる。



「よ、よく入りますね。そんなに。今日も暑いのに……」

「あかねさんは暑いの、苦手なんですか? ああ、そうだ。宮古島の話。聞かせてくださいよ。どうでした?」

「ああ、まぁ、それなりに楽しかったんですけど……ははは。ええっと、暑いのはやや苦手で。でもまぁ、憧れのリゾートホテルだったし、プライベートビーチもすごく綺麗だったし。楽しかったですよ」

「今度、行きますか。一緒に。俺と二人で」

「えっ」



 お味噌汁を上品にすすりながらも、愉快そうに笑って「冗談ですよ。でも、いつかは行ってみたいですね。二人きりで」と言ってきた。照明を若干落とした、和風の個室に槇田さんがよく映えていて、ついつい見入ってしまう。だ、だめだ。温かい内に食べねば! もったいない。改めてお箸を持ち直して、まずは美味しそうな焦げ目がついた鶏もも肉を摘み上げ、ぱくりと食べてみる。お、美味しい。鶏肉は程よく柔らかいし、くたくたに煮た玉ねぎがねっとりと絡んでくる。でも、その脂っこさを、炭火の香ばしい匂いが中和してくれていた。



「んぐ、あと……ええっと、最終日は結局、カレーとラーメンでしめました」

「カレーとラーメン。そういうところが好きですよ、俺。あかねさんの。っふ」

「ええっ? そうですか? 友達はぶうぶう文句垂れてましたけどね。どうしても食べたくなっちゃって、私」

「そうだ、写真。あの悩殺水着ショット以外にあります?」

「わーっ! 恥ずかしいからやめて欲しいんですけど、それ、言うのは……」



 子供みたいに、楽しそうに笑って「すみませんでした」と言い、またお箸ででろんとした牛肉を持ち上げる。何でだろう? 綺麗に食べてるんだけど、ちょっと胸焼けしてきた。まだ私も、本調子じゃないのかも?



「あとはあとは? 船とか、ああ、そうだ。シュノーケリングとかしました?」

「しゅのー……けりんぐ? いや、そういうパリピみたいなことはしないなぁ」

「ええっ? パリピですかね?」

「はい、私からすればですけど……まぁ、普通に展望台に行って、マングローブ見に行って、ラストは植物園に行ってきましたよ。ちがっちゃん、あっ、中学校の同級生なんですけど、ちがっちゃんもそうアクティブな方じゃないので、海で泳いでまったりと? 的な感じです」

「へえ、なるほど。あかねさん、インドア派ですか?」

「まぁ、半々かなぁ。がっつりライブに行きたい! って時もありますし、父に連れられて野球観戦に行く時もあります。まぁ、好きな野球チームとかは特に無いんですけど。父も私も」

「お父さんも無いんですね?」

「はい。その時々によって変わります。以前は応援していた野球チームのアンチファンになったりだとか……要するに、ただ野次を飛ばしに行ってるだけですよ」



 特に面白い話をしているわけじゃないのに、槇田さんはずっとにこにこと笑って聞いていて、すごく楽しそうだ。それから、スマホで撮ってプリントアウントして、アルバムを作ってみたことを思い出し、口元を押さえつつ、噛んでいた鶏肉を飲み込む。



「ふぁぐ、そうだ、わらひ」

「はい? そうだ、串焼き食べます?」

「あとで貰いまーす。私、アルバム作って持って来たんですよ。せっかくだから」

「アルバムを……? 作って持ってきて?」



 槇田さんがどこか困惑した顔で、お箸を持ち上げていた。綺麗に食べる人だなぁ、この人。お箸の使い方もどことなく綺麗で、やっぱり住む世界が違う人なんだなと痛感する。それはさておき、自家製アルバムを見せるべく、横に置いてあったトートバッグを持ち上げ、中を探してみる。どっこっかなー、あったあった。宮古島らしく、海と貝殻がプリントされた表紙のアルバムにしてみた。その爽やかなプリントの上に、白いリボンが貼り付けられていてすごく可愛いやつ。それまでよく食べていた槇田さんが一旦、その手を止めて、冷たいほうじ茶を口に含んだ。



「……日記帳、持ち歩くのやめたんですね? どう見ても入らなさそうだ、二つとも」

「そうですねー。もう家に置きっぱなしで。あと、吹っ切れました。あー、んー、でも、完全にでは無いんですけど。うん。朔ちゃんとは結婚出来ないからなぁって」

「そういう理解って、一拍遅れてやってきますよね。もう大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよー。すみません。ずっとぐだぐだ言ってて」



 哀れみ深い微笑みを浮かべ、槇田さんが目を伏せる。揺らいだほうじ茶を見つめながら、「いや、当然ですよ。あんなことが起きれば、誰だって」と言って慰めてくれた。



「ああ、まぁ、ですね……ほらっ、お手製アルバム!」

「うわ、本当だ。しっかりアルバムだ」

「うわって何ですか? 作りません? こういうの」

「俺は作ったりしないなー。でも、いいですね。そういうのも。学生気分に浸れて。見せて貰えませんか? それ」

「どうぞどうぞー、帰ってすぐに作った力作でぇっす」



 手渡すと、受け取ってすぐに「ぷっ」と吹き出した。い、一体なぜ。そこから愛おしそうに黒い瞳を細め、そのアルバムを開く。ちがっちゃんも映ってるけどまぁ、見せても大丈夫だろう。一応、本人の許可取ってあるし。



「ああ、海も綺麗だなぁ……あかねさんのほうが綺麗だけど」

「ははは、また、口がお上手ー」

「何枚か写真が欲しいんですけど、あかねさんの」

「えっ」

「まぁ、無理なら無理で……野良猫? かな、これは」

「そうそう、ハワイアンカフェに行く途中で会ったので、それで」

「可愛いですね。サビ猫? かな?」

「でしょでしょ。たぶんそう。ちょっと子猫ちゃんで、少しだけ触らせてくれました~。ぎゃんかわかわでした~」

「いいな、猫も猫で。猫カフェ行きたいな、また」



 意外な単語が出てきて目を瞠る。猫……カフェ? だめだ、ついうっかり槇田先生が、猫耳カチューシャを付けているところを想像してしまった。すぐそういうBL風味に転換しちゃうとこがだめなんだよ、私は。



(しかし、槇田先生は受け……? いや、こういう爽やかイケメンメガネ男子こそ受けでいて欲しいという人もそりゃあ、一定数いそうだけど。でも、私は王道展開が好きだからなぁ。ちょっとS気もありそうな槇田先生にはぜひとも攻めでいて欲しい。本人、優しいけど、出来れば鬼畜ヤンデレ系でいてくれたほうがおいし、)

「あの? どうかしましたか? あかねさん……? 目がちょっと怖いんですけど」

「す、すみません。つい、考え事をしてしまっていて」

「考え事。どんな考え事ですか?」



 またおかしそうにぷっと笑って、アルバムを片手にこっちを見てくる。はい、私はギルティー。なっ、何も言えない……。



「まっ、槇田さんのことかな……?」

「へえ。また意外な答えが……あっ、これ、宮古島ラーメンですね? うわっ、めちゃくちゃウズラの卵をトッピングしてる。うまそう」

「あー、何百円も課金しました。めちゃくちゃ美味しかったですよー」



 はー、やれやれだぜ。朔ちゃんからも「槇田先生、そういうの大丈夫そうだったけど、腐妄想を垂れ流すのは禁止!!」ってかなり強く注意されてるしなぁ。



(私が散々、語りすぎたせいで途中から朔ちゃんは一緒にアニメを見ていても、この二人、ちょっと距離感怪しくない? とか言い出したよね……あかねちゃん、好きそうって言って、トットでBL漫画試し読みのURLを送ってくれたりだとか)



 つくづく惜しい友を亡くしたと……いや、友じゃなくて婚約者だけども! 私がしみじみと悲しみに浸っていると、槇田さんが首を傾げて、「あの、大丈夫ですか?」と聞いてくる。



「あっ、すみません。えーっと、今の話、ちょっとよく聞いていなくって……」

「来週、俺の家に来ませんか?」

「うえっ?」



 ぱたむと、品良く丁寧にアルバムを閉じて、驚くこちらを見つめた。そのままじっと凝視していると、槇田さんが苦笑して「まぁ、無理なら無理でいいんですけど」と言いながらも、そのアルバムを返してくれる。アルバムを受け取って、落ちてきた黒髪を耳にかけながら、おそるおそる槇田さんを見つめた。



「えーっと、その、それは全然構わないんですけど……」

「来週の日曜日。昼間で。俺と一緒にゲームしません?」

「しますっ!!」








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