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死んだ婚約者による恋愛指南書  作者: 桐城シロウ
第二章 彼という人がモンスターになるまで
31/51

10.青井さんなら聞いてくれるかと思ったのに

 





「あれっ? 宮田さん。オシャレしてますけど、これからデートですか~?」

「まぁね! そんなところ~」


 棘があるなぁ、相変わらずこの子。今日は珍しく仕事もさっさと片付いたし、定時で上がろうと思ってたところで、こうやって絡まれると、さしもの温厚な私でもイラッとしちゃうんだよな~。ゆるふわポニーテールにした梨花ちゃんとにっこり笑い合っていると、おもむろに店のドアが開いた。透さんだった。今日は午後の診療が休みだったからか、ゆったりとした紺色カーディガンを羽織って、下はシンプルに白Tとデニムを着ていた。医院閉めたあとだったら、もうちょいちゃんとした格好してる。気が抜けない透さんらしい。


「あかねさん。お疲れ様です」

「透さん! 待ってました~!」

「っとと、可愛いな。いつもそうだったらいいのに」


 ここぞとばかりに抱き付くと、笑って私の頭を撫でてくれた。背中に両手を回したまま見上げてみると、嬉しそうに目を細めて笑う。でも、その目が少しだけ翳っていた。んあ? またなんか拗らせてるっぽい? 


(ていうか、この体勢! めちゃくちゃいちゃいちゃしてるじゃん! 梨花ちゃん、どうだっ!?)


 気になって振り返ってみると、あからさまに面白く無さそうな顔をしていた。すっげぇな! そこまで「気に食わない!」って表情、顔に出す!? ねぇ、出す!? おののいていると、透さんがにこやかに私の手を握り締め、一礼した。


「いつもあかねさんがお世話になっています。それじゃあ、俺達はこれで。お疲れ様です」

「あっ、はい。お疲れ様で~す……」

「お疲れ様ー! 透さん、お肉食べに行きましょう! お肉!」

「いいですね。行きましょうか」


 ここぞとばかりに腕を組み、背後の梨花ちゃんに見せつけてやる。知ってるんだからな! 私!! わざわざアーモンドでフォローして、透さんの投稿にコメントしてんの! カッコイイ~って、ハートマークつけてのコメントっている? 喧嘩売ってる? ねえ、宣戦布告してる? イライラしつつも、店を出てビジネス街を歩く。むわっとしてた。湿気がすごい、やばい。まさに日本の夏って感じ。


「あっつぅ~」と言いながら、手で顔を扇いでいると、隣を歩く透さんが物言いたげな顔をして覗き込んできた。


「あの、あかねさん……?」

「はい? どうしました? いつもの焼肉屋にします? それともやっすいチェーン店?」

「いつもの焼肉屋で。塩タンが食べたい」

「私も食べたい~! でも、大根おろしの……みぞれなんとかってやつ食べたい。あーっ、腹減った!!」


 ここ最近の透さんはなんか変だ。ずっと物言いたげにしてるし、何かに怯えているような顔を見せる。もしかして、愛情表現不足? 焼肉屋の個室でカルビを食いながら、その考えに行き着く。うっま! 相変わらず、ここの黒毛和牛うっま!!


「もひはひて、まりっふふるーふほゆうやつれふか!?」

「すみません、あかねさん。何を言っているのか、ぜんぜん分かりません……よく聞き取れません」

「もーもっ! ふみまへん……」


 マリッジブルーなのかなと思ったんだけどなぁ。やたらと私の顔色窺ってくるし。出されたお冷をごくごく一気飲みしていると、また憂鬱そうな顔でお箸を持ち、自分のたれ皿を見下ろす。でも、食欲はあるんだよなぁ。良かった。


「いやぁ、マリッジブルーかと思いまして……すみません。私が新作のBLゲーをしているのが気に食わないとか?」

「いや、別に。それは……戸惑いますけど」

「すみません、ついついセクハラしちゃって。透さんの反応がぴゅあっぴゅあなもんだから、つい、ぐーっと音量上げちゃうんですよね! はははは! あっ、ビールでも頼もうかなぁ? 私。たまには焼肉とビールなんてのもいいですよね!?」

「元気いっぱいですね……」

「あー、そうそう! それそれ!」


 前まで頭がぼーっとしたりとか、やたらと眠たくなったりしてたんだけど、近頃ではさっぱり消え去ってほっとしてる。私がドリンクメニューを片手に、店員さんに「生一つ!」とお願いしてる間、何故かぞっとした顔で見てきた。おいおい、なんでやねん! 私が元気になったんだから、喜んでくれたらいいのに!


「どうしました~? 透さん。悩みでもあるんですか? 相談乗りましょうか?」

「いや、それもちょっと……」

「えっ!? あるんですか? 悩み。ま~、色々と抱えてそうですからね! 透さんは。あっ、やっべ! 肉が焦げちゃう、丸焦げになっちゃう!!」


 慌てて、トングでよく焼けたカルビ肉を引っくり返していると、えもいわれぬ、美味しく焼けた肉の香りが漂ってきた。やっぱこれだよ! 夏はやっぱこれだよ!


「お皿ください、お皿! 透さんはもうちょっと、お肉食べて筋肉をつけるべきですよ!?」

「いや、プロテイン飲んでるので……日頃から」

「えーっ!? 粉末からたんぱく質摂るの、不健康ですよー? ここは私が奢るんで、どんどん食べていっちゃってください! ほらほらっ」

「あっ」


 透さんの頼んだ白米の上に、どさどさっとお肉を盛る。お皿にはすでに牛タンが乗ってたし、まぁ、仕方ないかなって! そう思ってデカ盛りしたあと、何故か透さんが途方に暮れたような顔をする。仕方ないので、真面目に取り合うことにして、座布団の上に座り直した。


「どうしましたか? あれですか? もしかして、タキシードのことで悩んでるとか?」

「そりゃあ、流石に真っ白は嫌だなって、そう思ってますけど……」

「透さん、真っ白なタキシード似合いそう~! ……それとも、あれですかね? 皮肉ですかね? 人殺しに真っ白なタキシードなんて」

「えっ」


 がらっと引き戸が開いて、店員さんがビールを持って来てくれたので、「ありがとうございます!」と言って受け取る。透さん、ノンアル減ってるけどいらないかな? まだおかわり、注文しないかなぁ。私だけビール、ごくごく飲むのも気が引ける。見てみると、何故か青ざめていた。いや、信じられないものを見るような目をしてる。


「あの、どうしました? 最近、よくそんな顔しますね?」

「……あかねさん、覚えていないんですか?」

「何を? ……なんか約束、してましたっけ?」

「あんまりビールを飲まない方が……」

「え~? 別に毎日、休肝日にしなくてもよくありません? たまにはちょっとぐらい、飲みましょうよ~。槇田さんも!」


 あっ、間違えた。今、うっかり槇田さんって言っちゃった。謝るようなことじゃないし、ビール飲むので忙しいしスルーした。私が喉を鳴らして、ごっごっごっと飲んでいると、おののいた顔で見てくる。


「お酒、苦手だってそう言ってませんでした……?」

「いやぁ、最近、味覚の変化かな? やたらとお腹減るし、元気いっぱいなんですけど疲れやすいというか……」

「そうですか……。でも、俺」

「はい?」

「そんなあかねさんも好きですよ。愛してます」

「はぁ」


 いきなりの愛情表現。もしかして、私に足りてないのってこれ……!? 一つこほんと咳払いをしてから、にっこりと可愛く笑ってみる。いや、もう、大体すっぴんボサ髪でも「可愛い~!」って言ってくる謎生物だから、さぼってた! 可愛らしく、自慢の彼女であろう! とか一切思ってないし、さぼってたな~! スマイルゼロ円、大放出~。


「私も好きですよ! 愛してます!!」

「言わされてません? それ」

「えっ? いや、透さんに言わされてる訳じゃなくて、本心からなんですけど!?」

「いや、俺にじゃなくて……ああ、もう、上手くいかないなぁ」

「えっ? 大丈夫ですか? どうしました? 本当に最近」

「何でもないです……」

「いや、ありますよね? ばりばりありますよね!? 本当、どうしました? 話聞きますよ?」


 渋々と(お肉を次々に焼いて、貪り食いたかった)、そっちに座っている透さんの横に行って座り、その顔を覗き込んでみる。それまで顔を覆っていた透さんが、か細い声で「あかねさん」と呟き、こっちを見下ろしてくる。もう本当、何で悩んでるんだか。言ってくれないからなぁ、何も。透さんは。


「私……透さんの全部が知りたいです」

「えっ」

「抱えてるもの全部が知りたいです。ほら、秘密主義でしょう? 透さんって。だから、その抱えてるものを共有して、楽に出来たらなぁって」

「今、どっちですか? あかねさんですか?」

「どういうこと!? 彼女らしく、彼氏の悩み相談に乗ろうと思って言っただけですけど!?」


 それともあれか!? 私がこういうことするの、信じられないってか!? 焦って両肩を掴み、揺さぶってみると、透さんも困った顔をする。


「いや、俺、自業自得なのかもしれないんですけど、信じられなくて。何も……」

「どういうこと!? 私の好意が信じられないってことですか!?」

「いや、ちょっと違いますね……嘘かなって、そう疑っちゃう」

「信じてないじゃないですか! 疑ってるじゃないですか!! も~!」


 人がせっかく優しくしようとしたのにー! いらつくので、さっきあげたお肉を強奪して貪り食う。横で「あっ」って言ってた。


「あかねさん。じゃあ、俺にあーんして貰えませんか……?」

「そんなしょんぼりした顔で言わなくても……はい、あーん」

「いや、断られるかなって、そう思って……」


 たどたどしく不安を吐露しながら、口を開ける。なーんだ、可愛いところあるじゃん。確かに私はまだ朔ちゃんのことが好きだけど、故人を慕う気持ちに変わりつつあるし! 大丈夫でしょ。いつかはこの傷も癒えるから。疑り深い眼差しでもぐもぐと食べている透さんを見て、にっこりと笑いかけてみる。食らえ、可愛さ意識したスマイル!!


「どうですか? 美味しいですか? ……人を殺したあとで食べる肉は」


 ごっくんと飲み干し、どうしてか真っ黒な瞳を瞠る。あっ、辛かった? わさび入ってたっけ? これ。いや、入ってないな? それとも、私の可愛さスマイルにやられちゃったとか!? 見惚れちゃった!? 期待しながら待っていると、顔を背け、口元を押さえた。


「やっぱり、そうなんだ……」

「透さん? あの、そんなに私の笑顔、可愛かったですか~? ぬははは、なーんちゃって!」

「そうですね。めちゃくちゃ可愛かったです。……なので、もう一度して貰えませんか?」

「おうよ! 任せとけ!!」

「おうよ……?」


 たまーにこういう言葉遣いすると、不思議そうに首を傾げる。おいおい、可愛いな~。変に頭が高揚していた。その浮ついた気持ちのまま、もう一度「あーん」と言って口の中に突っ込む。透さんはおそるおそる、お肉を噛み締めていた。


「どうですか? 美味しいですか! あっ、そうだ。悩み! 何のことで悩んでるんですか?」

「今、解決しました。大丈夫です」

「今!? なんで!? スピード解決!」

「いや、ここにあかねさんがいるから。それで大抵の問題は解決しますよ」


 どうしよう、笑うべき? 冗談? どっち!? 真顔で言ってくるし、区別がつかん!!


「ちょっ、これはゆきちゃんに電話して聞くべきですよね!? 聞きます!」

「ちょっと待ってください。スマホを取り出さないでください」

「これ、すごくないですか? きゃんわいい花柄スカートなのに、ポケットついてるんですよ。スマホとか財布とか、ドバドバーって入れられるんですよ!」

「どばどば……」

「あっ、もしもし? ゆきちゃん? こんばんはー!!」


 すぐに向こうから「あれ、酔ってる!?」って、声が聞こえてきた。透さんが私からスマホを奪い取り、疲れた表情で「ごめん。あかねさん、酔ってて。じゃ」と言って切る。ああっ、聞きたかったのに!


「向こう、今何時かな……。時差もあるし、あんまり急に電話するのも、」

「いやぁ~! 冗談か本気か、ちょっとよく分かんなくて~! へへへへ、ごめんなさぁ~い」

「酔ってますね? めちゃくちゃ……そう言えば、青井さんってビール好きだったんですか?」

「へっ? 朔ちゃんの話、するの珍しいですね?」

「気になって。なんとなく」


 真意が窺えない、薄い笑みを浮かべてそう言ってきた。勝手に透さんのお箸を使って、お肉を頬張りながら「うーん」と唸ってしまう。思い出すと少しだけ、胸の奥が引き攣るように痛むから。


「そうですねえ。意外とお酒にも強くて、ビールも好きでしたねえ~」

「ああ、なるほど。だから、ビールを頼んだんですか?」

「いやいや、弔い的な気持ちは別に無いです。ぜんぜん。命日も来年だし、誕生日も過ぎたし」

「ああ、春生まれでしたよね? 確か。残念でしたね。あんな事件が起きて」

「そうそう、だから────……あれっ?」

「大丈夫ですか? 酔いすぎですよ。さぁ、お水を飲んで」

「むごっ」


 飲みすぎてしまったのか、頭がふわふわする。こういう時、お水をくれてたのは朔ちゃんだったのになぁ。その手を借りて、お水を飲んでいると、何かをささやいた。


「まだ出てこないか。……それとも、あかねさんの身に何かあったら? どうなる」


 それは独り言みたいに小さくて、よく聞き取れなかった。「透さん?」って言いたいのに、言えない。いや、そう言ったかもしれない。温水プールの底に沈んで、ゆらゆらと、髪と一緒に体が揺らいでいるみたいだ。満足そうな笑みを浮かべ、私の手からコップを取り上げる。心なしか、私の肩を支えている手が震えていた。いつもの黒い瞳が細められ、笑う。


「ああ、大丈夫……どんなあかねさんでも愛しているんですよ、俺は。だからそのことを証明したかった。青井さんに認めて欲しかった」

「何を認め……?」

「丸ごと愛せるって、そう分かって欲しかったんですよ。俺」


 そうだ、それを分かって欲しかった。別に俺の中身は空っぽなんかじゃない。バカみたいに、コスメや美容に金をかけているだけの女とは違う。俺だって誰かをちゃんと愛せる。────別に、中身がスカスカな訳じゃない。


 おそらくは青井さんが乗り移ったであろう、あかねさんが驚愕と疑惑が入り混じった表情を浮かべ、座敷の上で後ずさる。ああ、だめだなぁ、この興奮が押さえられない。震える手で、かたんと、テーブルの上にコップを置いた。麻薬でもやったみたいに、内臓が歓喜で浮ついている。


「そうだ。俺は認めて欲しかった……元々、あなたのことを殺したかった訳じゃない。俺は人を殺して喜ぶような人間じゃない」


 欠落していない。あの時はたまたま制御出来なかっただけだ。それに、あかねさんは俺が幸せにする。間違っているかもしれない。でも、青井さんさえ、それでいいと言えばいい筈だ。こちらの表情を窺うように、後ろの畳へと手を突き、眉をひそめていた。あかねさんだったら、こんな表情しない。青井さんが中にいることで、貴重な表情が見れる。


「分かりますか? 俺はあなたに許して欲しい……本当に、ここ最近の嫌がらせにはほとほと神経を削られました。でも、それだと大事にしていることにならない。あかねさんを」

「は? 一体、何を言って……」

「あなたがそこにいても、俺はあかねさんのことを愛せる。もちろん、キスだって出来る」


 詰め寄り、頬に両手を添えると、信じられない光景を見るように目を見開いた。心臓が踊る。そうだ、大丈夫。何だって許せる、あかねさんなら何だって愛せる!


「ほら、俺はあかねさんのことを愛してるでしょう? 誰も愛せない人間なんかじゃない……」


 顔を近付け、その柔らかなくちびるにキスをした。苦いビールの味がした。そうだ、大丈夫。一度きりの人生なんだ、これは。楽しまないと、謳歌しないと損だ。舌を捻じ込もうとすると、いきなりどんっと、胸元を押して突き飛ばされた。恐怖と怒りが混じった表情で、自分の口元を拭っている。微笑みながら見ていると、さっと青ざめ、睨みつけてきた。


「何が言いたいのか、何がしたいのかよく分からない……!!」

「俺はあなたに許して欲しいんです。こんなにも、あかねさんのことを愛しているから。だから、安心して成仏して欲しい。でも」

「えっ……」


 腕を伸ばして、その両手をぎゅっと握り締める。いくら後悔しようと思ったって、それは出来なかった。責められるたび、困惑した。苛立った。その出現を憎んでさえいた。でも、もう違う。握り締められた自分の手と、俺の顔を交互に見つめ、さらに青ざめる。


「俺は、俺は本当にあかねさんのことが好きなんです……だから、そこにあなたがいても許せる。いいや、許せるようになってきた。抱けもする、そのまま」

「……狂ってる!」

「いいや、狂ってなんかいない。俺は狂ってなんかいないんですよ、青井さん!」


 死んだ今なら、この恋心を共感してくれるかもしれない。ずっとずっと人に言えなくて苦しかった。ネットにも書けなかった。でも、青井さんもあかねさんの明るさに惹かれた一人だ。だから、分かってくれる筈。大丈夫だ。きっときっと大丈夫だ。


「ねえ、あかねさん? いいや、青井さん。あなたなら理解出来る筈だ……。狂ってなんかいない。俺は、俺は、」

「じゃあ、どうして殺したんだ!? 俺のことを!」

「殺す気は無かったんですよ。分かるでしょう? 今なら。……ねえ、死んだのなら聞いて貰えませんか? 誰にも口外出来ないでしょう? 話相手が欲しいんです、俺」


 青井さんは優しかったから、なんだかんだ言って共感してくれるかもしれない。俺のことを許してくれるかもしれない。両手を握り締め、涙ぐんでいると、ぞっとした顔をする。


「大丈夫。……この世に未練があるのなら、俺に嫌がらせをしたいのなら、こうやってずっとずっと、一生一緒に生きて行きましょうか。俺、祟り殺されたとしても文句なんて一つも言いません。その代わり、俺の話を聞いてくれませんか……?」


 勇気を出して、そう申し出てみると、弱々しく首を横に振った。目を見開きながら、くちびるを震わせて。


「俺、あなたのことをまともな人だって、そう思っていました……。でも、違うんですね? あなたは一種、怪物だ。考えた方が人間のそれじゃない」

「まさか。……罪を償うべきだって、そう考えているんでしょう? あの世に連れて行くのなら、話を聞いて欲しい。それぐらい、許される筈だ……いいや、許すべきだ。殺すのなら。俺のことを」

「……気の毒で、哀れな」

「あっ」


 がくんと、あかねさんが崩れ落ちてしまった。話を、話を聞いて欲しかったのに……。声を押し殺して泣いて、座布団に額を押し付ける。戻って来て欲しい、戻って。


「青井さん、どうしてですか……? 俺のこと、憎いんでしょう!? どうして、どうして話すら聞いてくれないんですか!? 青井さん……!!」


 返事は無かった。座布団を手で握り締め、くちびるを噛み締める。青井さんなら、少しは俺の話を聞いてくれるかと思ってたのに……。









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