99.また短剣ができました(錬金:鍛治を含む?)
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第二章 葡萄の国と聖女
主人公が戦闘狂の聖女と知り合い、葡萄の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
よろしくお願いします。
第二章 葡萄の国と聖女(99)
【コロンバール編・港町ポルト】
99.また短剣ができました(錬金:鍛治を含む?)
「ウィン、最後は私に殴らせろ。」
ルルさんから無茶振りが来た。
どうしても殴って倒したいらしい。
透明ワームは僕の斬撃を受けて通常のカラードワームと同じくらいの大きさまで縮んでいる。
打撃でも倒せそうに見えるけど、そう簡単な話でもない。
相変わらず『打撃耐性(大)』はあるので殴っても効かないはずだ。
「大丈夫だ。考えがある。ウィン、もう一度切れ。」
言葉にしなくても僕の表情で言いたいことが分かったのだろう。
ルルさんは僕の内心の疑問に答えるように言葉を続けた。
僕は言われた通り、透明ワームにもう一度斬撃を放つことにした。
僕は透明ワームの左側に回り込み、長剣(黒)を振り下ろした。
斬撃が綺麗に垂直に入り、透明な体を切り裂く。
するとそこにルルさんが走り込み、切り裂かれた部分に拳を打ち込んだ。
今までなら完全に跳ね返されていた打撃だ。
しかし今回は違った。
ルルさんが拳を引いて残心の姿勢を取った瞬間、透明ワームの体は光の粒子に変わりそのまま霧散した。
ルルさんの『破壊』が透明ワームに通ったようだ。
成り行きを見ていたので理由は何となく分かるが、一応ルルさんに確認してみる。
「ルルさん、打撃、通りましたね。」
「ああ。」
「どうやったんですか?」
「打撃耐性は体表だ。内側なら打撃も通る。」
相変わらず省略しまくりの説明だけど、予想していたので意味は分かった。
『魔法反射』も『打撃耐性(大)』もその効果は体表部分にあり、切り裂いた内側に打撃を打ち込めばその威力が通るということだろう。
「さすがですね、ルルさん。」
「うむ、『打撃耐性』持ちだろうが、『物理無効』持ちだろうが、殴りようはある。」
うん、分かってたけど、何が何でも最後は殴り倒したいんですね。
今回の戦いで、工夫すれば『打撃耐性』持ちでも打撃を通す方法があることは理解しました。
でも『物理無効』はどうやって破るんだろう?
斬撃も突撃も物理だから通らないよね。
そもそもそういう魔物相手にわざわざ打撃で決着つける必要ないんじゃないかな。
そこは素直に、他の手段で倒しましょうよ。
…すみません。ディーくんの申請により変更されたクエストを表示します。…
ルルさんのことを半分あきれた目で見つめていると、視界の中に「中の女性」からのメッセージが流れた。
続いてクエストが表示される。
○訓練クエスト(変更)
クエスト : ディーくんの訓練を受けろ②
報酬 : 剣術(初級)
達成目標(旧) : ディーくんの訓練を受ける(10日)
達成目標(新) : 透明ワーム(特異種)を切る(10回)
カウント : 達成済み
…続けて討伐クエストを表示します。…
○討伐クエスト
カラードワーム(透明・特異種)
クエスト : カラードワーム(透明・特異種)を倒せ
報酬 : ミスリルのインゴット(3個)
達成目標 : カラードワーム(透明・特異種)(1体)
カウント : 達成済み
…ウィン様は剣術(初級)を取得されました。討伐クエストの報酬、ミスリルのインゴットはウィン様のマジックバッグに収納されました。…
透明ワームの討伐報酬は鉱石じゃなくインゴットだった。
それもレア金属のミスリルが3個。
これがもし特異種じゃなくて普通の透明ワームだったら、報酬はミスリル鉱石だったのかもしれない。
それからメッセージとクエストが立て続けに表示されたので危うく流してしまいそうになったけど、見逃せない内容が1つあった。
「ディーくんの申請でクエスト変更」ってどういうこと?
「中の女性」とディーくんって連絡取れるの?
もしかして従魔たち全員、「中の女性」と繋がってる?
それに『訓練②』って、「中の女性」じゃなくて「中のヒト」のクエストだったよね。
…・・・まあ・・その辺は・・スルーで・・・…
あ、また答えを返してくれないパターンだ。
なんかモヤモヤする。
単にルールがいい加減なだけなのか、何か隠されている事情があるのか。
やり残しの課題と謎がどんどん増えてる気がする。
このダンジョンを出たら、一回頭の中を整理しよう。
「ウィン。」
一人でぶつぶつ呟いているとルルさんに名前を呼ばれた。
ルルさんを見ると前方を指差している。
その方向に視線を移すと、透明ワームが光の粒となって消えたあたりに何かが落ちているのが見えた。
近づいて拾い上げてみると白銀色の金属のインゴットだった。
しかも3個もある。
鉱石や金属は鑑定できないので断言できないけど、流れから判断するとミスリルのような気がする。
「ルルさん、これってミスリルですか?」
僕は金属のインゴットをルルさんに見せながら尋ねてみた。
「見た目はミスリルっぽいが、私は鑑定できない。スライムさんに頼めばいいんじゃないか。」
そうだった。
鉱石担当のスラちゃんがいたね。
僕は拾い上げたインゴットを地面に並べてスラちゃんに訊いてみた。
「スラちゃん、これミスリルかな?」
スラちゃんはインゴットに近づくと、いつものように体から触手を伸ばして3個の金属の表面を順番にツンツンした。
「リン(ミスリル)! リン(3個とも)!」
スラちゃんが元気な声で二度鳴いた。
どうやら予想通りドロップ品はミスリルのインゴットだったようだ。
ということは討伐クエストの報酬と合わせて6個のミスリルのインゴットを手に入れたことになる。
ミスリルのインゴットっていくらぐらいするんだろう?
これもう、働かなくても遊んで暮らせるんじゃないかな。
「リン(主人)!」
頭の中が金銭欲に支配されそうになっていると、スラちゃんが再び鳴いた。
どうしたの?
スラちゃんの方を見ると、スラちゃんは体を器用に変形させて、ミスリルのインゴットを抱えるようにして僕の方へ持って来る。
そしてそれを僕の目の前に置くと触手を伸ばしてビシッという感じで指し示した。
あっこれ前にもあったパターンだ。
『錬金』しろってことだよね。
「リン(そう)!」
スラちゃんから肯定の返事が来たので、言われた通り『錬金』してみることにした。
正直なところ、ここしばらく『錬金』のことをまったく忘れていた。
このスキル、僕自身まだよく分かってないんだよね。
でもまあ、やってみるか。
「ルルさん、少し下がってもらえますか?」
「ウィン、何をするんだ?」
「スラちゃんの指示で『錬金』をします。」
「『錬金』? そう言えばそんなスキルも持っていると言っていたな。錬金術は知っているが、スキルの錬金は初耳だ。」
「そうなんですか?」
「私が知らないだけかもしれないがな。」
「とりあえず、やってみますね。錬金。」
僕がそう呟くと、ミスリルのインゴットが青い炎で包まれた。
燃えるはずのない金属が燃えている様子はとても奇妙な感じがする。
でも同時に、神秘的で厳かな光景にも見えるから不思議だ。
ルルさんと僕とスラちゃんは、燃えるミスリルを黙ったまま見つめていた。
以前黒いインゴットを錬金した時と同じで、かなり長い時間がかかったけど、見ていて飽きることはなかった。
最後に青い炎が一際大きく燃え上がり少しびっくりしたけど、次の瞬間に炎が消えた。
炎が消えた後には、白い短剣が残されていた。
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