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98.殴ってダメなら斬ってみる(訓練クエスト:剣術)

見つけて頂いてありがとうございます。


第二章 葡萄の国と聖女


主人公が戦闘狂の聖女と知り合い、葡萄のコロンバールで様々な出来事に遭遇するお話です。


週3回(月・水・金)の投稿となります。

よろしくお願いします。


第二章 葡萄の国と聖女(98)

【コロンバール編・港町ポルト】



98.殴ってダメなら斬ってみる(訓練クエスト:剣術)



「ウィン、出番だ。」


ルルさんからご指名が来ました。

僕も頑張らないといけない。

なんと言っても、あのルルさんが自ら前座を務めてくれたんだから。


ルルさんは何の考えもなしに、透明ワームに突っ込んで行ったわけじゃない。

僕から透明ワームの特性を聞いた瞬間、自分の攻撃能力では不利な相手だと判断し、『魔法反射』と『打撃耐性(大)』がどれくらいのものか確認するために「先に行く」と言ったのだと思う。


ルルさんは『戦闘狂』ではあっても『戦闘バカ』じゃないので、戦いの中では冷静で的確な判断をする。

短い付き合いだけどそれくらいの信頼は置いているし、そんなお膳立てをされて任されたら、きちんと応えるのが人として当然だよね。


僕は剣(黒)を構え、それを長剣(黒)に変化させた。

そして風のクエストを使って素早く透明ワームに近づき、力の限り長剣(黒)を振り下ろした。

透明ワームには、『魔法反射』と『打撃耐性(大)』はあっても『斬撃耐性』は無い。

僕の長剣(黒)は、魔物の体を深々と切り裂く・・・はずだった。


ボヨン。


僕の斬撃は魔物の体表を切り裂くことができず、その弾力で弾き返された。


あれっ?

予定と違う。

『斬撃耐性』は無いはずなのになぜ?

僕は困惑しながらも、もう一度今度は下から上に切り上げてみた。


ボヨン。


やっぱり刃が通らずに跳ね返されてしまう。

どういうことだろう?

斬撃で攻めれば勝機はあると思ってたけど、これはまずい。

幸い透明ワームは動きが遅いので、『噛み付き』を喰らうことはないけど、勝ち筋が見えなくなってしまった。


さらに何度か切り付けてみたけど、結果は変わらない。

すべて透明の体に跳ね返される。

攻めようがないので一旦透明ワームから距離を取り、クエストによる攻撃を試してみることにした。


まず『炎』を発動してみる。

出現した炎は透明ワームの体表で一瞬だけ燃え上がり、霧散するように消えてしまった。

次に『氷』を発動する。

透明の巨体を包み込むように現れた氷は、やはりすぐに消えてしまった。


さらに『石』を発動し、大きい石を透明ワームの上に落としてみると、巨体で跳ねた石がこちらに向かって飛んできた。

とっさに避けたけど、危うく自爆するところだった。

これを使うのはやめておこう。


最後に『溶岩』を出そうかと考えて、寸前で思いとどまる。

これまでの流れから見て、『溶岩』も反射される可能性が高い。

もし『溶岩』が飛び散るような形でこちらに返ってきたら、かなり危険な状況になる。


詰んだかもしれない。

すぐには別の攻撃方法を思いつかないし。

『☆☆+』の魔物はやっぱり簡単には勝たせてくれないようだ。

仕方がない。

こんな時は、「助けて、師匠」だな。

ディーくんを呼ぼう。


「召喚、ディーくん!」


僕が叫ぶと、光と共にディーくんが目の前に現れた。


「あるじ〜。困ってるの〜?」


ディーくんは、いつもの間伸びしたしゃべり方でそう言った。

相変わらず緊張感がないよね。

でもこの状況もディーくんにとっては大したことじゃないんだろうな。


「倒し方がわからないんだけど。」

「簡単だよ〜。切ればいいよ〜。」

「切れないんですけど。」

「あ〜、そうか〜。あるじ、まだ剣術取ってなかったね〜。」


「剣術」?

『ディーくんの訓練②』が終わってないので、まだ剣術スキルはありません。

それがないと無理なの?


「無理じゃないよ〜。じゃあ練習してみようか〜。」


練習?

この状況で?

師匠、言ってることがイマイチ分かりません。


「あの体はね〜。滑るんだよね〜。だから正確に垂直に刃を入れないと斬撃じゃなくて打撃認定されちゃうんだよ〜。」


そういうことなのか。

僕の剣の扱いが下手だから切れないってことなのか。

斬撃じゃなくて打撃認定されてるために跳ね返されてるんだね。

でもどうすればいいんだろう?


「肩の力を抜いてね〜。刃があの体に垂直に入ることだけ意識するんだよ〜。じゃあ行ってみようか〜。」


ディーくんがそう言いながら僕の腰あたりを押して透明ワームに対峙させる。

僕は覚悟を決めて長剣(黒)を構え、透明ワームの方を見た。


透明ワームの『噛み付き』の射線に入らないように立ち回りながら、隙を見てその透明な体に斬撃を加える。

もちろんディーくんの指導に従い、長剣(黒)の刃が垂直に入るように意識しながら。


何度か『打撃耐性(大)』で弾き返されているうちに、なんとなく太刀筋が見えるような気がしてきた。

その感覚に沿うように意識して長剣(黒)を振り抜くと、スパンという感じで、初めて透明ワームの体表を切り裂くことができた。


(よし!)


心の中でガッツポーズを決めながら、油断せずに透明ワームから距離を取る。

気を抜いてると『噛み付き』を喰らっちゃうからね。

さて、斬撃の効果はどうかな?


少し離れた場所からたった今切り裂いた部分を確認してみると、すぐに傷が塞がり元の体表に戻ってしまった。


あれっ?

元に戻ってる。

特技に回復とか治癒は無かったよね。

切ってもダメなのかな?


「あるじ〜。そのまま切り続けてね〜。」


迷っているとディーくんから指導が飛んで来た。

斬撃で間違ってはいないようだ。

それならすることはひとつ。

体力が続く限り切るべし。


僕は風クエストを使って素早く移動しながら、斬撃を放ち続けた。

初めのうちは上手く切れたり跳ね返されたりしていたけど、段々と確率が上がり、しばらくすると全ての斬撃が透明ワームの体を切り裂けるようになった。


そして透明ワームにも変化が見え始めた。

何度切り裂いてもすぐに体表は元に戻ったが、よく見ているとその度に体が少しずつ縮んでいくのが分かった。

魔力なのか、魔素なのか、体を構成する何かが斬撃を受けるたびに失われているのだろう。


このまま切り続ければ倒すことができる。

やっと勝ち筋が見えてきた。

そう考えて意気込んでいると後ろから声が掛かった。


「ウィン、最後は私に殴らせろ。」


ルルさんからのお願い(命令)だった。

仕上げはやっぱり殴るんですね。

でも、ルルさん、打撃は効かないと思いますよ。

最初に比べてかなり小さくなってますけど、打撃耐性はありますからね。

読んで頂いてありがとうございます。

徐々に読んで頂ける方が増え、励みになります。

次回投稿は2月27日(月)です。

よろしくお願いします。

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