97.大きいとは聞いてません(魔物討伐:透明ワーム特異種)
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第二章 葡萄の国と聖女
主人公が戦闘狂の聖女と知り合い、葡萄の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
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第二章 葡萄の国と聖女(97)
【コロンバール編・港町ポルト】
97.大きいとは聞いてません(魔物討伐:透明ワーム特異種)
「ウィン、これで資金は十分だし、討伐遠征の旅に出られるな。」
「討伐遠征」じゃないんだけどなと思いながらも、否定しても無駄そうなのでそのまま聞き流すことにした。
でも資金が集まったのは事実だ。
白金のインゴットと金剛石がかなりの数手に入った。
白金貨1枚で金貨10枚相当なので、前の世界の通貨に換算すると100万円くらい。
白金のインゴット1本で何枚くらい白金貨が取れるんだろう。
結構な枚数になりそうな気がする。
金剛石の価値はおそらく白金よりさらに上だろう。
前の世界ほど高いかどうかは分からないけど。
…荒稼ぎ中に失礼します。クエストを表示させて頂きます。今回はそのまま表示すると煩雑になりますので簡略化しても構いませんか?…
「中の女性」からのメッセージが視界に流れた。
そろそろかなと思っていたので驚きはしなかったけど「簡略化」という言葉が少し気になった。
確かに今回のカラードワーム討伐は6種類の色違いが存在するので1種類ずつ表示するのは大変そうだ。
分かりやすくしてくれるならこちらに問題はないので素直に承諾することにした。
…では、討伐クエストを表示します。報酬はすべて直接各自のマジックバッグに収納されます。…
○討伐クエスト(ウィン様)
カラードワーム討伐数
茶:153 赤:72 白:21 黄:7
銀:500 金:500
討伐報酬
鉄:30 銅:14 銀:4 金:1
白金:100 ダイヤモンド:100
○討伐クエスト(ルル様)
カラードワーム討伐数
茶:212 赤:105 白:28 黄:13
討伐報酬
鉄:42 銅:21 銀:5 金:2
表示された討伐数を足し算して計算してみる。
銀色と金色を除けば、僕が253体でルルさんが358体。
ルルさんの圧勝だ。
銀色と金色に関しては僕の討伐にカウントされてるけど、ルルさんは防御と寄せ集めに徹していたし、とどめを刺したのが僕というだけで事実上は共同討伐のようなものだ。
それにしてもこの『金銀部屋』(名前をつけてみた)、合計で1000体もワームが出てくるとかやりすぎじゃないかな。
ルルさん曰く、普通はこうじゃないらしいし、何か異変じゃないといいんだけど。
少し不安になりながら『金銀部屋』の中を見回していると、再び「中の女性」からメッセージが流れた。
…ウィン様、もう一つクエストを表示します。…
○剣クエスト
クエスト : 剣を成長させろ
報酬 : 長剣(黒)
達成目標 : 魔物を倒す(2000体)
カウント : 達成済み
○長剣クエスト
クエスト : 長剣を成長させろ
報酬 : 大剣(黒)
達成目標 : 魔物を倒す(5000体)
カウント : 2471/5000
いつの間にか剣クエストが達成されていた。
あれだけ一遍にたくさんのカラードワームを倒せば、まあ当たり前か。
これで僕の剣は、念じるだけで短剣にも剣にも長剣にも瞬時に変化させることができるようになった。
戦闘において間合いを変化させられるというのは大きなアドバンテージなので、これはありがたい。
「リン(まだ)! リン(いる)!」
剣を短剣にしたり長剣にしたりして取り回しの感覚を確認していると、鉱石の精錬に走り回っていたスラちゃんが鋭い鳴き声を上げた。
「ウィン! 上だ!」
ルルさんを見ると戦闘態勢で『金銀部屋』の天井を見上げていた。
僕はまた銀色と金色が降ってくるのかと思い、炎のクエストを撃つつもりで身構えた。
しかし今回は、違うものが1体だけ落ちてきた。
「でかくないですか?!」
「なんだあれは!」
僕とルルさんが同時に叫んだ。
次の瞬間、大きな地響きが『金銀部屋』に響き渡り、地面の揺れで危うく体勢を崩しそうになった。
天井から顔を出して、そのまま落ちてきたのは電車の車体一両より一回り大きいくらいのワームだった。
その体は完全に透明で内臓や核らしきものは何も見えない。
これ、透明ワーム?
こんなに大きいなんて聞いてないよ。
「ルルさん! 透明ワームってこんなに大きいんですか?!」
「普通の透明は普通だ! ウィン! 鑑定しろ!」
省略しまくりのルルさんの言葉だけど、意味は分かる。
ルルさんがいつも言葉足らずなのは、戦闘中のしゃべり方からきてるのかもしれない。
僕はルルさんの指示通り、すぐに目の前のワームに魔物鑑定をかけた。
○カラードワーム(特異種) ☆☆+
体型 : 中型
体色 : 透明
食性 : レア鉱石
生息地: 鉱山・洞窟に生息。
特徴 : カラードワーム(透明)の特異種。
レア鉱石を好んで食べる。
透明な体を持つ。
体表は魔法を反射し、打撃を滑らせる。
可食(乾燥して粉末にすると凝固剤として使用可)
特技 : 噛み付き・掘削・打撃耐性(大)・魔法反射
これはちょっと厄介かな。
攻撃は『噛み付き』だけなので避けられるとしても、『打撃耐性(大)』と『魔法反射』があるということはルルさんの攻撃手段がなくなってしまう。
特技にはないけど体が大きいので体当たりも警戒しないといけないしね。
でもこれで『中型』って。
まあ、ワームの大型って、とてつもなく大きい気もするけど。
それに『特異種』って何だろう?
突然変異的なものなのかな。
星2つに+がついてるからかなり強そうだし。
でも鑑定で見る限り、強いというより倒しにくいって感じだけど。
「ウィン、どうだ?」
「透明の特異種。星2プラス。攻撃は噛み付きのみ。打撃耐性が大、魔法反射あり。」
「よし、先に私が行く!」
ルルさんが前に出て風魔法の『風刃』を飛ばす。
普通なら大木でも切断する風の刃だ。
ルルさんの『風刃』は透明ワームの右側から弧を描くように迫り、多くの魔物にとって急所となる首筋に見事に命中した。
しかしその『風刃』は、魔物の体表にかすり傷ひとつつけることなく跳ね返された。
予想通りだけど、『魔法反射』ってかなり厄介だな。
『魔法軽減』ならより強い攻撃魔法で打ち破ることもできる。
『魔法耐性』でも、込める魔力の質が高ければ崩せる可能性がある。
でも『魔法反射』は、こちらの魔法の強さや質に関係なく、ただ弾かれる感じがする。
ルルさんは『風刃』を放った後、そのまま『敏捷』を活かして透明ワームに向かって走っていた。
『風刃』が跳ね返されるのは想定していたのだろう。
ルルさんは走り込んだ勢いのまま右の拳を魔物の体に叩き込んだ。
魔物の『打撃耐性(大)』とルルさんの『破壊』スキルの勝負だ。
透明ワームの体にルルさんの右拳がめり込む。
そこからさざ波のように魔物の体全体に波動が拡がっていく。
メガ・フルーツスライムの時は、これで粉々に砕くことができた。
そこまでは無理でも、せめて『打撃耐性(大)』を超えてダメージを入れられればいいんだけど。
少しすると、透明ワームの体に拡がっていた波が収まってきた。
最後に魔物が体をプルンと震わせると、ルルさんは後方へ弾き飛ばされ、目の前には傷ひとつない透明な巨体が鎮座していた。
ルルさんの『破壊』で無理なら、打撃は使えない。
魔法もおそらく無意味だろう。
「ウィン、出番だ。」
後方に飛ばされても態勢を崩さず、見事に着地したルルさんから声が飛ぶ。
さて、僕も頑張りますか。
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