96.旅の資金が集まりました(魔物討伐:モンスター部屋?)
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第二章 葡萄の国と聖女
主人公が戦闘狂の聖女と知り合い、葡萄の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
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第二章 葡萄の国と聖女(96)
【コロンバール編・港町ポルト】
96.旅の資金が集まりました(魔物討伐:モンスター部屋?)
銀色ワームと金色ワームが出現する空間を求めて、ルルさんと僕は走り出した。
スラちゃんは球形になって二人の後ろを転がりながらついて来る。
今回はバラバラではなく、一緒に探すことにした。
ただでも見つけるのが難しい空間なので、別々に2つ見つけるというのは不可能に近い。
もしかすると2つ同時には出現しないかもしれないし。
そうすると、その空間を見つけた方が必然的に勝ってしまうので、それでは面白くないというのがルルさんの判断。
まず空間を見つけて、そこでどちらがたくさん倒すかの勝負にするようだ。
洞窟内を駆け足で進みながら邪魔になるカラードワームだけ倒していく。
落ちた鉱石は後続のスラちゃんが吸収してくれる。
銀色と金色が出現する空間はドーム状に広くなっているとのことで、それらしい場所に出た時だけ足を止めて確認していった。
これは・・・さすがに普通の冒険者パーティーには無理だな。
そもそもこんなことしてたら、方向が分からなくなって、洞窟から出られなくなるよね。
ダンジョン内で遭難したらどうなるんだろう。
冒険者ギルドの救助隊とか来てくれるのかな。
たぶん自己責任で放置される気がする。
転移で外に出られるか、マジックバッグで大量の食料でも持っていない限り、洞窟深部の探索は自殺行為ということか。
でも転移もマジックバッグもかなりレアなスキルみたいだったし、このダンジョンのD級指定って、おかしくない?
襲ってくるカラードワームを剣(黒)で切り伏せながら、そんなことを考えていると、先行していたルルさんから鋭い声が飛んだ。
「ウィン、止まれ!」
立ち止まって前方を見ると、洞窟状の通路の先にかなり広い空間が見えた。
「ここだ。」
ルルさんが宣言した。
でもまだ足を踏み入れていないし、ここからでは銀色も金色も見えない。
なぜ分かるのだろう?
「どうして分かるんですか?」
「私の勘だ。しかもかなり危険だ。」
ルルさんのAランク冒険者としての危険察知に何かが引っかかったようだ。
でもかなり危険とは、どういうことだろう。
銀色と金色が他のカラードより強いとは聞いていない。
何か他の要素があるんだろうか?
「ウィン、入るぞ。」
警戒しながら進んでいくルルさんの後からその空間に足を踏み入れる。
入ったところで一度足を止め、空間全体を見回す。
そのドーム状の空間は今までで一番大きかった。
それまでの空間が教室くらいの大きさだったのに比べ、この空間は体育館くらいの規模があった。
「ルルさん、『石』で試してみてもいいですか?」
「そうだな、真ん中あたりに落としてくれ。」
ルルさんの了解をとってからクエストで大きめの石の玉を出現させて空間の中央あたりに落としてみた。
ど〜ん。
音と振動がドーム状の空間に響き渡った。
しかし、何も起こらない。
今までなら振動に反応してワームたちが飛び出して来たのに一体も現れない。
これはこれで逆に不気味だ。
「どうします?」
ルルさんに尋ねる。
こういう時は、実践経験豊富な先輩に指示を仰ぐのが一番だ。
「仕方がない。進むぞ。」
ルルさんが周囲を警戒しながら中央に向かって進んでいく。
ちょうど反対側に洞窟の通路が見えている。
壁際を進んで回り込むという選択肢もあるけど、ワームは壁からも出てくるので、危険度は変わらないのだろう。
ゆっくりと足を運ぶルルさんと僕。
まだ何も起こらないけど、緊張感だけは高まっていく。
そして二人がちょうど僕の落とした石の辺りまで進んだ時、ゾワリと強い悪寒が僕の背中を走り抜けた。
「炎!」
「大風!」
咄嗟に僕は天井に向けて大きめの炎を打った。
同時にルルさんが風魔法を放つ。
見上げた天井からは、無数の銀色と金色が落ちてきた。
真上のワームたちを僕の炎が焼き、それ以外をルルさんの風魔法が周囲へ弾き飛ばす。
「ルルさん、ジャンプ! 炎!」
僕の言葉に瞬時に反応してルルさんがジャンプした。
それに合わせて僕は床一面に炎を発動した。
床から飛び出してきたワームたちは炎に焼かれて鉱石になった。
これは何て言うんだっけ。
モンスターハウス?
モンスター部屋?
入ったら大量のモンスターが湧くやつ。
周囲を見ると壁からも銀色と金色が大量に出て来るのが見える。
天井と床からも継続的に出て来るので、まさに全方位攻撃。
「ルルさん! 風で防御!」
「分かった!」
僕は防御をルルさんに任せ、炎でワームたちを殲滅していく。
幸いワームたちは小型なので風魔法で吹き飛ばせる。
それに火耐性がないのである程度まとめて燃やすこともできる。
でもこれ、魔力量が人並み外れたルルさんと魔力量が関係ない僕だから対処できるけど、普通は絶対無理だと思う。
今までここを発見した冒険者たちってどうやったんだろう?
この空間の情報があるってことは生きて戻った冒険者がいるってことだよね。
最初は無我夢中で炎を打ちまくっていたけど、ルルさんも僕もだんだん余裕が出始めた。
ルルさんは風魔法で防御するだけでなく、器用にワームたちを一箇所に寄せ集める。
僕はそこに向けて炎を打ち、一度に大量のワームたちを燃やす。
連携ができるって素晴らしい。
討伐の効率が全然違うね。
そんなことを考えているうちに、新たなワームの出現が止まり、程なくして全てのワームが鉱石に変わった。
しばらく警戒して周囲を見回していたけど、どうやらこれで終わりらしい。
ルルさんが僕に近づき、僕の肩に手を置いて声をかける。
「ウィンの勝ちだな。」
ルルさんの声がとても残念そう。
ルルさん、この状況で第一声がそれですか。
これ、勝負とかそういう問題じゃないと思いますが。
どこまで勝負にこだわるんですか。
というより疑問があるんですけど。
「ルルさん、これって、普通の冒険者には無理じゃないですか?」
「絶対に無理だ。私でもウィンがいなければ無理だった。」
「でも情報があるってことは、これに遭遇した冒険者がいるんですよね?」
「いや、こんな情報はない。」
「えっ?」
「これまでの情報では、普通に銀色と金色が出るという話だった。」
「じゃあ、これは普通じゃない?」
「ああ、普通じゃない。でも楽しかったな、ウィン。」
いい笑顔でそう告げるルルさん。
これを「楽しかった」で済ませるルルさんは、やっぱりルルさんだと言うしかない。
「それより、スライムさんが頑張ってるぞ。拾わないとな。」
そう言われて視線を移すと、スラちゃんが落ちている鉱石をどんどん吸収して精製してくれていた。
スラちゃんが通った後に、インゴットとキラキラ光るものが点々と転がっている。
近づいて拾い上げるとそれは白金のインゴットと・・・どう見てもダイヤモンド(カット済み)だった。
そういえば、「金剛石」ってダイヤモンドのことだったね。
「ウィン、これで資金は十分だし、討伐遠征の旅に出られるな。」
ルルさん、旅に出るとは言いましたが、「討伐遠征」とは一言も言ってません。
あくまでも世界を満喫する旅ですからね。
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