94.ルルさんのマジックバッグ(収納クエスト:ルルさん)
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第二章 葡萄の国と聖女
主人公が戦闘狂の聖女と知り合い、葡萄の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
週3回(月・水・金)の投稿となります。
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第二章 葡萄の国と聖女(94)
【コロンバール編・港町ポルト】
第二章 葡萄の国と聖女(94)
94.ルルさんのマジックバッグ(収納クエスト:ルルさん)
「転移陣、ルルさんのいる所へ。」
僕は転移陣を発動してから、スラちゃんが一緒だったことを思い出した。
まあ、たとえ置き去りにしても「召喚」で呼べばいいだけだけど、「置き去り」は気分的に良くない。
でも転移が終わってすぐ左腕を確認すると、スラちゃんは無事に一緒に転移していた。
「二人用転移陣」の二人目に従魔もカウントされたのだろう。
ちょっとホッとした。
スラちゃんの存在を確認した後でルルさんを探すと、いろんな所を殴りまくっているルルさんの姿が目に入った。
ルルさん、戦略的には理解しますが、普通の人はそんな方法は取らないと思いますよ。
ルルさんは、地面を殴り、壁を殴り、飛び出してきたカラードワームを殴り、また地面を殴り、壁を殴りという行動を繰り返していた。
強引にも程がある討伐方法だよね。
思った通り、ルルさんはカラードワームが落とす鉱石類には目もくれず、討伐(殴ること)に専念していた。
殴られたカラードワームは一瞬で光の粒となって消え、鉱石だけが下に落ちる。
落ちた鉱石類はそのまま洞窟の地面のあちこちに転がっていて、たぶんルルさんが通ってきた跡はこの状態で放置されてるのだろう。
「ルルさん、ストップ。」
僕が声をかけると、ルルさんは壁から飛び出してきた金色ワームを右の拳で仕留めてから僕の方を振り向いた。
金鉱石がゴトリと床に落ちた。
「なんだウィン、もう終わりか?」
「いえ、ルルさん、鞄か袋のようなもの、持ってます?」
「大きいものはないが、ポーション用の腰鞄ならある。」
「じゃあ、ちょっと待ってくださいね。」
僕はそう言うと心の中で「収納クエスト」の「ギルド登録」と「パーティー登録」を思い浮かべ、ルルさんを受注者にセットしてみた。
ちなみに受注者登録はどのクエストでもできるわけではない。
ルルさんの場合、風と水はできたけど炎と氷はできなかった。
今のところ他には討伐系と転移陣クエストだけだ。
個人によって違いがあるのか、条件的なものかは分からない。
まだ試していないクエストもあるので、そのうち検証したいと思っている。
今回は幸いなことに2つのクエストが達成済みとして表示された。
○収納クエスト
クエスト : ギルドに登録しよう①
報酬 : マジックバッグ機能(部屋)
達成目標 : 1つのギルドに登録
受注者 : ルル
*達成済み
○収納クエスト
クエスト : パーティーを組もう
報酬 : 時間停止機能
達成目標 : パーティー登録する
受注者 : ルル
*達成済み
ルルさんは冒険者ギルドに登録しているし、僕とパーティーを組んでいる。
クエストの受注者にセットさえできれば、達成扱いになるんじゃないかと思ったけど、予想通りだった。
これでルルさんの腰鞄を時間停止機能付きのマジックバッグにできるはずだ。
「ルルさん、その腰鞄をマジックバッグに指定してください。」
「マジックバッグに指定?」
「頭の中でそう思うだけで大丈夫だと思います。」
「ウィンは相変わらず突拍子もないな。・・・指定した。」
「次にその腰鞄に時間停止機能と念じて下さい。」
「・・・念じた。」
「終了です。これでルルさんの腰鞄は時間停止機能付きのマジックバッグになりました。容量はルルさんの部屋くらいです。」
僕の言葉を聞いてルルさんはじっと自分の腰に着けている腰鞄を見つめる。
そしておもむろに目の前に落ちている金鉱石を拾い上げ、自分の腰鞄の口に押し当てた。
金鉱石は明らかに腰鞄より大きく、その鞄の口を通るサイズじゃなかったけど、次の瞬間にはルルさんの手から消えていた。
「ウィン、入ったぞ。」
「入りましたね。」
「大きさに関係なく入るんだな。」
「そうみたいですね。」
僕のリュック型の鞄は口が割と大きく開くので鉱石類をそこから放り込める。
でもルルさんの腰鞄は口が小さいので明らかに鉱石は通らない。
それでも収納できたということは、マジックバッグは鞄本体の物理的な制約は関係ないようだ。
マジックバッグとしての容量を超えていなければ大きさに関係なく収納できるのだろう。
「ウィン、感謝する。これでどこにでも戦いに行けるな。」
「(戦い以外にも活用できると思いますが)ルルさんが喜んでくれるなら僕も嬉しいです。」
「もちろん喜んでるぞ。これで部屋に置いてある武器や防具を全部持ち歩くことができるし、食料と水を入れておけば長期間の討伐遠征にも行ける。いいこと尽くしだな。」
ルルさんが嬉しそうで何よりです。
すべてを戦闘に結びつけて考えるそのブレない思考回路もだんだん好ましく思えてきました。
気の迷いかもしれませんが。
まあ今はそんなことより、放置してる鉱石類を拾わないとね。
「ルルさん、とりあえず一度、ドロップした鉱石類を集めましょう。放置するのはもったいないので。」
「そうだな。どうせ持てないと思って無視してたが、この鞄があれば大丈夫だな。」
ルルさんと僕は勝負を一旦中断して、ルルさんが残してきた鉱石類を拾い集めることにした。
点々と足跡のように鉱石が落ちているので、ルルさんに聞かなくても通ってきたルートが分かる。
討伐数のカウントについてはクエストを表示すればそれぞれの数が分かるので、鉱石は拾った方が自分のマジックバッグに収納していった。
カラードワームは普通に歩いていてもその振動を感知して飛び出してくる。
鉱石を拾い集めている途中でも時々出てくるので、その都度倒しながら進んで行った。
しばらく進むと、ドーム状に広くなった場所に出た。
地面を見るとかなり多くの鉱石類が落ちている。
その数を見ると、どうやら現時点でのカラードワーム討伐勝負は僕の方が負けているようだ。
「ルルさん、ここ、こんなにカラードワームが出たんですか?」
「ああ、この洞窟にはたまにこういう場所がある。」
「溜まり場みたいなものですか?」
「そうだな。足を踏み入れた瞬間、大量に降ってきた。」
降ってきた?
天井からいっぱい落ちてきたんだろうか。
なんか想像したくないし、遭遇もしたくないな。
「リン(鉱石)、リン(いい?)」
雨のように降り注ぐカラードワームの図を思い浮かべて苦い顔をしていると、しばらく大人しくしていたスラちゃんが声を発した。
たくさんの鉱石を見て我慢出来なくなったんだろうな。
おそらく鉱石に触れる、もしくは吸収してもいいかということだろう。
特に問題はないので許可することにした。
「スラちゃん、いいよ。」
スラちゃんは僕の左腕からはずれ、腕輪型から水滴型になって鉱石の方へ向かって行った。
そして、鉱石類を体から伸ばした触手でツンツンしながら、特定の鉱石だけ体内に吸収しているようだ。
スラちゃん、もしかして鉱石に好き嫌いがあるのかな?
今までそんなことは気にしなかったけど。
それにしても、あの小さな体で次々に鉱石を吸収していく様子は、いつ見ても不思議だ。
吸収した石を出してくることもあるしね。
もしかするとスラちゃんの体内って、マジックバッグみたいな仕組みになってるのかな?
そんなことを考えていると、スラちゃんが僕の方へ戻ってきた。
「もういいの?」
「リン(1本)、リン(できた)」
1本できた?
何が?
心の中で尋ね返すと、スラちゃんが体内から何かを出した。
それは、どう見ても金のインゴットだった。
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次回投稿は2月17日(金)です。
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