69.お礼の飲み会です(フライング:タコさん)
見つけて頂いてありがとうございます。
第二章 葡萄の国と聖女
主人公が戦闘狂の聖女と知り合い、葡萄の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
年内は毎日投稿する予定です。
よろしくお願いします。
第二章 葡萄の国と聖女(69)
【コロンバール編・首都コロン】
69.お礼の飲み会です(フライング:タコさん)
フルーツスライムとメガ・フルーツスライムの討伐が終了したのでマッテオさんのワイナリーの方へ戻ることにした。
農園の従業員たちは壊れた防護柵の応急処置と見張りのために残るようだ。
本格的な修理は専門の職人を呼ばないといけないため明日以降になるらしい。
討伐クエスト報酬のフルーツゼリーとフルーツアイスは、ウサくんに頼んで「影潜り」で小屋の食材庫に運んでもらった。
食材庫は時間停止機能付きなのでアイスも溶けずに保存できるだろう。
ちなみにウサくんに気になっていたことを念話で訊いてみたところ新事実が発覚した。
(ウサくん、素材庫の方は時間停止機能付いてないの?)
(時間停止と時間促進、どっちもある。)
時間促進!?
いつの間にそんな機能が。
詳しく訊いてみると、素材によって新鮮な方がいいものと古くなった方がいいものがあるので両方の機能があるらしい。
どちらの機能も素材庫全体ではなく部分的に使い分けができるとのこと。
その機能、是非食材庫にも欲しい。
発酵食品とか酒造りとかに利用できそうだし。
まあ、作り方知らないんだけどね。
それにしても「中のヒト」、いい仕事してるじゃないですか。
黙ってそんなことするなんて実は男前。
…オレは元々男前だ(怒)…
(怒)付きの見慣れたメッセージが視界の中を流れた。
えっ、「中のヒト」?
ここ島じゃないよね。
管轄があるんじゃなかったの?
…と、島の担当が申しております。すみません。代弁(代メッセージ)させられました…
「中の女性」がお詫びのメッセージを流す。
でもということは、ここで起こっていることを「中のヒト」も見てるってこと?
…はい、モニターしてます。ウィン様の行動をすべて把握しておかないと対応が難しくなりますので…
そうなんですね。
言動というか心の中で思うことも気をつけないと筒抜けってことですね。
それなんか嫌だね。
それから、(ポッ)も要りません。
…大丈夫ですよ。何をお考えになられても。私たちは今は人間じゃありませんし…
ん? 今何か妙なメッセージが流れたような。
きちんと確認する前に一瞬で消えちゃったけど。
もう一回、同じメッセージ流してくれない?
頼んでみたけど、そのまま「中の女性」は反応しなくなった。
ワイナリーのレストランのところまで戻って来ると、マッテオさんとアリーチェさんが出迎えてくれた。
二人とも満面の笑顔だ。
「ウィン君、ありがとう。大活躍してくれたそうじゃないか。」
「従業員が興奮しながら知らせてくれたのよ。魔物たちを瞬殺してたって。ウィン君、本当にありがとう。」
マッテオさんとアリーチェさんが揃ってが頭を下げてくる。
僕は慌ててそれを止める。
「マッテオさん、アリーチェさん、やめて下さい。お世話になったのは僕の方ですから。それに僕一人じゃなく、仲間たちのおかげなので。」
僕はそう言いながら後ろにいるルルさんと従魔たちの方を見た。
「そうだったな。皆さん、ありがとう。そうだウィン君、仲間たちを紹介して・・・ルル様!?」
マッテオさんが言葉を止めて驚きの表情のまま固まった。
やっぱりご存知ですよね。
ルルさんの有名さ加減にはもう慣れました。
周りの人の驚く顔にも。
登場シーンでは急展開過ぎてきちんと人物確認できなかったけど、落ち着いたところで改めて顔を見て気づいたって感じですね。
「あなた、ルル様って、あのルル様なの? まあ、こんなにお綺麗な方なのね。ウィン君、1日でこんなに素敵な女性を捕まえてくるなんて、お姉さん、見直しちゃったわ。」
固まったまま動かないマッテオさんとは対照的にアリーチェさんは通常運転。
ルルさんを目の前にしても普段とまったく変わらない。
さすがです、アリーチェさん。
自分を「お姉さん」呼びしたことは、とりあえずスルーしておきます。
「ほらほら、あなた。立ったままじゃ失礼だわ。固まってないで、皆さんを中へ案内しないと。」
「そ、そうだな、ルル様、ウィン君、従魔の皆さん、どうぞ中へ。」
アリーチェさんの言葉で我に返ったマッテオさんの案内で、僕たちはレストランの中に入った。
レストランのテーブルの上にはたくさんの料理が並べられていた。
魔物退治を手伝ってくれた人たちのためにアリーチェさんが準備したそうだ。
「私は魔物相手じゃ役に立たないからね。ここでずっと料理してたのよ。」
アリーチェさんは笑いながらそう言った。
何人かの女性たちが配膳を手伝っている。
今回のような魔物による侵入事件はたまに起きるらしく、その場合は周辺の葡萄農園の人たちも駆けつけて助け合うのが当たり前とのこと。
勝手にこの農園の従業員だと思っていたけど、魔物退治に走り回っていた人たちの中には周辺の農園の人たちもいたらしい。
「さあ、お礼の宴だ。今夜は好きなだけ飲んで食べてくれ。」
マッテオさんはそう言うと、両手に抱えて来たワインのボトルをドンとテーブルの上に置いた。
他のテーブルにもたくさんのワインが置かれている。
好きなだけね。
マッテオさん、昨夜も好きなだけ飲んでたような・・・。
「外にいる人たちのこと、待たなくてもいいんですか?」
「大丈夫だぞ。みんな適当に戻ってくるからな。」
自分たちだけ先に始めるのも申し訳ない気がしたので尋ねてみたところ、防護柵のところに残った人たちも交代で食事に戻ってくるとのこと。
こんな時はみんなで一斉にというのは難しいので、余計な心配はするなと言われた。
そんなものかと思いつつ何か忘れてることがある気がした。
そうだ、先に確認することがあった。
「マッテオさん。」
「どうした、ウィン君?」
「従魔たち、一緒でもいいんですか?」
「当たり前だ。農園を救ってくれた英雄じゃないか。」
「でも、怖がる人がいるかもしれません。」
「そんなやつはここにはいないさ。ウィン君の従魔だってことは説明してある。それに外にいた者たちは、農園のために戦う従魔たちの姿に感動してたぞ。」
僕はその言葉を聞いて不意に涙が込み上げてきた。
こんなに涙もろかったっけ。
でも大好きな従魔たちのことを認められて純粋に嬉しかった。
街中ではかなり大騒ぎになったからね。
まあ、あの時は突然だったから当たり前か。
そんなことを思いながら従魔たちの方を振り返ると、タコさんがテーブルの上で料理に足を伸ばしていた。
そこっ、タコさんフライング!
コンちゃん、タコさんを捕縛して!
みんなで「いただきます」してからだよ!
読んで頂いてありがとうございます。
次回投稿は明日です。
よろしくお願いします。




