66 .葡萄農園に戻ります(魔物:フルーツスライム)
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第二章 葡萄の国と聖女
主人公が戦闘狂の聖女と知り合い、葡萄の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
年内は毎日投稿する予定です。
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第二章 葡萄の国と聖女(66)
【コロンバール編・首都コロン】
66.葡萄農園に戻ります(魔物:フルーツスライム)
「ウィンは、酷いやつだ。」
ルルさんは現在、絶賛拗ねております。
ソファの上で膝を抱えて座り込んでます。
隣でタコさんがルルさんの背中をポンポンと叩いています。
クエストを使えというから使っただけなのに。
瞬殺が気に入らなかったのか、ずぶ濡れが気に入らなかったのか、それまでクエストを使わずに僕が殴られていたのが気に入らなかったのか。
具体的なことを言わないので分かりません。
これでも気は使ったんだけどね。
「炎」で燃やすのはまずいし、「氷」で固めるのもどうかなと思ったし、「(水蒸気)爆発」とか「溶岩」とかは論外だし。
そしてルルさんと戦ってみて改めてこのクエストの能力の異常さを認識した。
魔物相手だといろいろ工夫しないと使い勝手が悪かったけど、人間相手だとかなり凶悪だと思う。
無詠唱で発動までのタイムラグがなくどこまでも連打が可能。
まあ、剣聖とか大魔道士とか、それこそ勇者とか魔王とかが相手だったら簡単には行かないんだろうけど。
あっ、でもルルさん、「聖女」だったね。
そんなことを考えているとルルさんに睨まれた。
ルルさん、心を読む能力は無かったはずなのに。
こんな時だけは勘が鋭いんですね。
「ウィンは、本当に酷いやつだ。」
ルルさんは僕を睨んだままそう言った。
「酷いやつ」が「本当に酷いやつ」に格上げされている。
このまま放置するとどんどん悪化しそうだ。
仕方がないのでルルさんのご機嫌を取ってみることにする。
「訓練すればルルさんも使えるようになりますよ。」
「何を?」
「僕が使う魔法全部。」
「本当か!?」
ルルさんがいきなりソファから立ち上がって叫んだ。
反応が早いね。
タコさんがビックリしてひっくり返ってる。
本当はクエスト全部が可能かどうかはまだ分からないけど、受注者枠ができたのだからある程度は大丈夫なはずだ。
「すぐに訓練するぞ。」
そう来ますよね。
ルルさんですから。
でも一つ確認したいことが。
「でもルルさんって『拳闘士』ですよね。」
「そうだ。」
「魔法で戦うのは問題ないんですか?」
「もちろんだ。」
「拳で戦うことにこだわりがあるんだと思ってました。」
「ん? 使えるものは何でも使うぞ。そして最後に殴り倒せれば何も問題はない。」
ルルさんは戦闘中とは違う爽やかな笑顔でそう言った。
やっぱり最後には殴るんですね。
ルルさんの思考回路、理解しました。
「さあウィン、訓練を・・」
「今日は、しません。」
「なぜだ?」
「お腹が空いたから。」
ルルさんが言葉を失う。
再び理解できないものを見るような目で僕を見てくる。
僕は言葉を続けた。
「もう夕方なので葡萄農園に帰ります。訓練は明日からで。」
とてもお腹が空いた。
そういえばお昼も食べてないような気がする。
小屋の中でCOOKで食事を準備してもいいんだけど、できればクエストで出す以外の食べ物を食べたいんだよね。
アリーチェさんの料理とマッテオさんのワインが僕を呼んでるんです。
聖薬草を売ってお金も手に入れたし、今日からはちゃんと料金を払おう。
「ならば私も一緒に行く。」
しばらく黙っていたルルさんがそう宣言する。
永遠について行くとかおっしゃってたのでそれは予想してました。
でもいきなり葡萄農園に連れて行くわけにもいかないよね。
先に承諾を取らないとね。
「分かりました。でもここでしばらく待っていて下さい。農園主の了解を取ってから戻って来ます。」
ルルさんを葡萄農園に連れていく方法はすでに考えてある。
でもそのためには一度葡萄農園に戻る必要がある。
「では、行ってきます。」
僕はルルさんにそう告げると、一人で葡萄農園に転移した。
* * * * *
葡萄農園の門の前に転移すると、農園の中は騒然としていた。
(どうしたんだろう?)
まだ暗いという程でもないのに、松明を持った人たちが走り回っている。
僕は慌ててレストランがある建物の方に走って行った。
「マッテオさん、何かあったんですか?」
建物の前で従業員の人たちに矢継ぎ早に指示を出しているマッテオさんを見つけて尋ねた。
「おおウィン君か。魔物が農園の防護柵を破ったみたいでな。今、総出で魔物退治をしてるところだ。」
「大変じゃないですか。」
「まあ、たまにあることなんだが、今回はちょっと数が多いみたいでな。」
「手伝います!」
「それはありがたい。お願いできるか。」
僕はすぐに葡萄畑に向かおうとして大事なことを聞き忘れていることに気づいた。
「マッテオさん、侵入したのはどんな魔物なんですか?」
「フルーツスライムだ。果物を食べる。火に弱い。」
マッテオさんが簡潔に返してきた。
火に弱い。
それなら「炎」で対処できる。
みんなが松明を持っていたのも納得だ。
でも対応が遅れれば遅れるだけ葡萄の被害が増えてしまう。
「マッテオさん、小屋を作る許可を下さい。それから僕の従魔たちを呼びますので驚かないで下さい。」
「分かった、いやよく分からんが、ウィン君の好きなようにしてくれ。」
マッテオさんは細かいことを聞かずに承諾してくれた。
その信頼に応えないといけない。
僕はすぐ目の前に「HOME」で小屋を出現させる。
近くにいた人たちは驚いてるけど、今は速さを優先。
あとで邪魔になれば消せばいいだけだし。
扉を開けて中に入ると、ルルさんと従魔たちは2つのソファでまったりしていた。
僕はすぐに号令をかける。
「全員外に出て。魔物退治するよ。敵はフルーツスライム。」
従魔たちはすぐに床に飛び降りて扉の外に出ていく。
ルルさんもそれに続く。
説明も何もしていないのにすぐに行動に移れるあたり、さすがはAランク冒険者だなと思う。
最後に僕が扉から出ると、予想通り外の人たちが従魔たちを見て固まっていた。
扉から出る順番を間違えたなと反省しながら、僕はありったけの大声で周囲に向かって叫んだ。
「全員僕の従魔です。魔物退治を手伝います。」
こうして島の外では初めての魔物との戦闘が始まった。
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