49.初めての冒険者ギルド(冒険者ルル)
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第二章 葡萄の国と聖女
主人公が戦闘狂の聖女と知り合い、葡萄の国で様々な出来事に遭遇するお話です。
年内は毎日投稿する予定です。
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第二章 葡萄の国と聖女(49)
【コロンバール編・首都コロン】
49.初めての冒険者ギルド(冒険者ルル)
「そいつは私の連れだ。それなら問題ないだろう。」
その人物はフードをはずして上官兵士の前に立った。
フードの下から出てきたのは、金色の短髪と切れ長の金色の瞳。
息を飲むような綺麗さと圧倒される強さが同居している女性の顔。
僕は状況が飲み込めず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「ルル様、それは・・・。」
「私が保証人では、足りないか?」
「いえ、けしてそんなことは・・・」
「では、通らせてもらうぞ。」
彼女はそう言うと、僕の腕を取って歩き出した。
強引に押し通るというのではなく普通に門を抜けて進んでいく。
兵士たちは誰も止めようとせず、ただ見送っている。
彼らの様子を見ると、怖がっているわけでもないし畏れているわけでもない。
あえて表現すれば、“しょうがないか“って感じ。
街の中に入ったところで、「ルル様」と呼ばれた女性は僕の腕から手を離した。
何が起こっているのかよく分からないけど、助けてもらったのは確かなのでお礼を言うことにした。
「ありがとうございます、ルル様?」
この呼び方でいいのか自信がなかったので、語尾が疑問形になる。
「礼は必要ない。様もいらない。」
「でも、兵士の方がそう呼んでいた気がするんですが・・・」
「なぜかみんなそう呼ぶが、私は単なるルルだ。」
「身分の高い方ではないのですか?」
「違う。平民出身の普通の冒険者だ。」
平民出身の冒険者に兵士が「様」付けとかしないと思います。
絶対「普通」の冒険者じゃないですよね。
なぜ僕に絡んできたのか謎です。
「じゃあ、行くぞ。」
ルルさんはそう言うと一人でスタスタと歩き出した。
ここで別れるという意味だと思って、その後ろ姿を見送っていると、彼女は立ち止まりこちらを振り返った。
「どうして突っ立ている? こっちだ。」
えっ?
一緒に行くんですか?
どこに?
なぜ?
「冒険者ギルドに行くんだろう? 案内する。」
戸惑いが顔に出ていたのだろう。
こちらの疑問に答えると、ルルさんは身振りでついて来るように伝えてきた。
* * * * *
ルルさんは無言で街の中を歩き続ける。
かなり早足だ。
心なしか周りの人たちが彼女のために道を空けているように見える。
僕は彼女の背中を見失わないように追いかけながらも、この世界で初めて来た街の様子をキョロキョロと見回していた。
街の中の通りは、外の道と違って石畳が敷かれている。
葡萄農園からここまでの道は整地はされていたけど、土のままだった。
建物は基本的に石造りで部分的に木材も使われていて建築の技術はそれなりに高そうに見える。
首都というだけあって人通りは多く、ドワーフと思われる体の大きな人がたくさん歩いている。
メインと思われる大きな通りには馬車もたくさん行き交っている。
街の中心の方を見ると大きな城のような建物が見える。
国王とか皇帝とか、そういう存在がいるに違いない。
前の世界の中世という時代について特別知識があるわけではないけど、まあそのあたりの発展具合なのだろう。
(危ない!)
よそ見をしていろいろ考えていると、危うくルルさんの背中にぶつかりそうになった。
いつの間にか彼女は立ち止まっていた。
「着いたぞ。」
彼女の背中越しに見ると黒い石造りの大きな建物が正面に建っていた。
重々しくて質実剛健な印象だ。
木製の扉は開け放たれたままで、扉の脇にはクロスした剣の下に一房の葡萄が描かれた旗が掛けられている。
「ここが冒険者ギルドですか?」
「そうだ。登録するんだろう?」
「はい。」
「入口を入って左側に受付がある。用件を話せば対応してくれる。私は別の手続きがあるので一度離れるが、登録が終わったら待っててくれ。」
ルルさんは、そう言い残すとそのままギルドの中へ入って行った。
僕はついて行くタイミングを逃して、扉の前に取り残された。
(案内してもらって終わりかと思ってたけど続きがあるんですね。
知り合いが誰もいないので、ありがたいって言えばありがたいんだけど。とりあえず、冒険者登録しないと。)
気を取り直して冒険者ギルドの中へ入ると、建物の中は予想したより多くの人がいた。
鎧を着て武器を持った冒険者風の人が多いが、普通の服装の人もけっこういる。
普通の服装の人は、依頼する側の人たちかな。
街中にはドワーフ族の人が多かったけど、ギルドの中は種族が雑多な感じ。
いろんな国の冒険者が集まっているのかもしれない。
初めて見る獣人族の人とか、エルフ族と思われる女性とか、小型の恐竜みたいな人とか。
(そうだ、アレやっておこう。)
ギルドの中は人の声でざわついているのでチャンスだと思い、鑑定クエストに挑戦する。
壁際にもたれて対象を決め、周りに聞こえないよう気をつけながら小声で「愛してる」と囁き続けた。
名前 : ビキラ(20歳) 男性
種族 : 獣人族(水牛)
職業 : 冒険者(D)・盾士
スキル: 硬化
魔力 : 20
名前 : ヴェルデ(82歳) 女性
種族 : エルフ族
職業 : 冒険者(C)・弓士
スキル: 強弓・的中
魔力 : 125
名前 : カミラ(16歳) 女性
種族 : ヒト族
職業 : 冒険者(E)・治癒士
スキル: 治癒(小)
魔力 : 81
名前 : アンドレ(40歳) 男性
種族 : ドワーフ族
職業 : 商人
スキル: 算術・交渉
魔力 : 46
以下略。
クエスト実行中に「中の女性」のうざいメッセージが流れていましたが、割愛させて頂きます。
とにかく8人の人物鑑定に成功し、クエスト達成回数が10回になったのでクエスト表示が変化した。
○鑑定クエスト
クエスト : 人物鑑定しろ①
報酬 : 人物鑑定(初級)
達成目標 : NO NEED
鑑定項目 : 名前・年齢・種族・職業・スキル・魔力
カウント : 達成済み
クエスト : 人物鑑定しろ②
報酬 : 人物鑑定(中級)
達成目標 : 人物鑑定(50回)
鑑定項目 : 名前・年齢・種族・職業・スキル・魔力
友好度・称号
カウント : 10/50
これであの恥ずかしい手順を踏まなくても人物鑑定ができるようになった。
新たに人物鑑定②が表示されている。
鑑定数が50回に達成すると、鑑定レベルが中級に上がるのだろう。
改めて受付を見ると全部で5つの窓口があり、それぞれ人の列ができていた。
(こういう所って、早朝に混雑してその後は暇ってわけじゃないんだね。)
一番列が長いところに一番人気の受付嬢がいるのかもしれないと、邪な思いがかすめたけど、早く登録したかったので一番列が短い所に並ぶことにした。
(初心者が一人でギルドにいると、柄の悪い冒険者に絡まれるのがテンプレだよね。)
そんなことを心配しながらできるだけ目立たないように大人しく並んでいると、誰かに絡まれることもなく自分の順番が回ってきた。
「あんちゃん、なんか用かい?」
そう声をかけられて、改めて受付の方を見ると、そこには小さな黒猫がチョコンと座っていた。
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次回投稿は明日です。
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